235話「行き交う日常」
三人衆の罵倒を背に受けながら、歩は走って走って走りまくる。
トタッ、トタッ…トタッ
「ごめん、お父さん。毒の女神さまの…本。とられちゃった…」
悔しさのあまり、顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら街を駆ける。
「この街の人はッ、みんなッ…幸せそうなのに!」
車やバスが道路を行き交い…360度、どこを見渡してもズラリと並ぶビル群。
キレイに整備された通路では、ビシネススーツの大人や制服の学生たちで賑わっていた。
「みんなッ…友達とか!家族とか!いるのに!」
歩はうつむきながら、幸せそうな人混みの中を掻き分けてゆく。
「キャ!なによ?あの子」
「君、周りを見ないと、危ないじゃないか」
周囲の冷たい視線をスルーして、歩少年はひたすら走り続けた。
さらに、ビルの上には大型スクリーン(液晶看板)があって…
『ここは『伊吹町』♪ 井竜翼さまが救済した、青空の街デース☆』
…と、フリフリ&キラキラの衣装を着たアイドルが、スクリーンの中で踊っていた。
「ウソばっかり…だって、ボクだけが不幸じゃないか。一人じゃないか!」
歩はブーイングを吐き捨て、さらに走り続けてゆく。
すると…その道中…
この近代都市(伊吹町)では、全く見かけない『巫女服姿の幼女』が、彼の前にいた。
勿論、歩は幼女巫女を気にせず、彼女の横を全力で通りすぎてゆく。
トタッ、トタッ…トタッ
「…嗚呼?」
悲しみに暮れた歩の顔をみて、幼女巫女は丸い瞳をそっと細めるが…
「…フン」
ぶっきらぼうに鼻で笑ってから、灰色の髪を風になびかせた。




