表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/245

20話「硫酸の血」

 

「どうしよう…… 『走って』逃げる? でも、コボルトの足はジェット機よりも速いし」


 足りない知恵を回転させ、足元にあるアサルトライフルを横目でチラ見する。


(て、鉄砲で戦う? ダメだ~。鉄砲の使い方なんか、チンプンカンプンかも)


 対するコボルトはカミソリのような爪を煌めかせ、華白の首を睨んでから…


「ギィ、ガ!」


 ジェット機を凌駕するスピードで獲物(華白)へ急接近した。


「来たァ?!」


 瞬間、華白の視界がスローモーション映像のように刻まれてゆく。


「あ、あれぇ? 丸見え、かも…」


 何故だか、音速で動き回るコボルトの一挙一動を認識できたのである。


「し、視界がゆっくり動いて、る? 」


 突然進化した己の視力に驚嘆しながら、目を閉じて両腕で顔を庇う…今はコレだけで精一杯だった。


(コボルト相手に、こんな事しても! 両手が一刀両断されちゃうよ)

「ギィエッ」


 コボルトは前のめり姿勢のまま疾駆。華白の眼前へ躍り出て、鋭い爪を急加速し。上から下へ、容赦のない一斬りを放った。30tもの衝撃力が華白の両手に伝わり、彼女の姿勢が斜め横にふらつく。


「いッ! たぁ~」


 華白の両腕に、灼熱の痛みが染みわたる。


(お腹を貫かれて、腕を切り落とされて、最低最悪の日だあ~)


 今日は厄日だ! と嘆き、恐る恐る目を開いて『おそらく、切り落とされた両手』を見てみる。しかしながら、華白は手の有様を見て声を裏返してしまった。


「うそォ! 手が、つながって……る? 」


 それどころか、両腕とも「かすり傷」程度のダメージしか負っていなかった。


「確かにバッサリ成敗されたはず。なのに、かすり傷で済むなんて」


 体の異変に戦慄し、朧気に『異変の症状』を理解してしまう。


(コボルトのはチタン合金の鉄砲だってグシャグシャにしちゃう。そんな奴のインチキ攻撃を凌ぎ切った。と、言うことは、多分……)

「わたしィの体、頑丈になって、る……」


 推測してみた結果、華白の体が『チタン合金以上の強度を備えている』…という、常軌を逸した事実を立証していた。


「でも、わたしィの体、おかしくなったの? 」


 どういう理由で、体が突然変異しまったのか?

 その理由を探る前に、華白はもう一つの『異変』に気づいてしまう。それは、コボルトの斬撃によって刻まれた両腕の傷痕にあった。


 ポタ、ポタポタ、ポタ……


 傷跡から滴り落ちる『己の血液』を見て、華白はゾッと凍えついてしまう。


「み、緑色の……血ィ」


 両手の傷口から『緑色の血』が、流れ落ちていたのである。


「ひッ、ひィ。わたしのッ! 血の色が、変わって?! 」


 合わせて、相手側コボルトの様子が一変してしまう。


「ギィッ! アアアアアアアアアアアアアアアアア! 」


「ええ! こ、コボルトの様子が…」


 絶叫し苦しむコボルトの様子を注視してみると、『緑色の血』がコボルトの爪にベットリと付着していることが分かった。


「わ、わたしの腕を攻撃したとき……緑の血が爪についたんだ」


 なお且つ、「ジュ―」と……物が溶ける音が連なる。コボルトの鋭い爪がドロドロに溶け、原型を失った爪先から煙が立ち昇る。地獄のような惨劇を前に、華白はガスマスクの中で口をアングリと開けてしまった。


「わたしィの血がぁ、アイツの爪をドロドロに『溶かして』る……」


 認めたくないし、信じたくないが…華白は、自身の血液が「別のなにか」に変異した……と理解してしまった。


「み、緑色の血。なんでも溶かしちゃう……り、硫酸の血」

「ギィ! ギィ! ゲェッ! 」


 華白の血に爪を溶かされ、コボルトはあまりの苦痛に地面をのたうち回った。絶叫するコボルトを見下ろし、華白は自分自身に戦慄してしまった。


「頑丈な体……硫酸の血……これじゃ、クソ映画のヴィランかも」

(イヤだ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! )

「はッ、ハァハ、あッ……」


 頭がズキズキと痛み、嗚咽が喉奥から込み上げてくる。


「あッ、うッ! きもちわるい。は、はきそう……かも」


 もはや逃げる余裕などない。吐き気を抑えて、肩を震えさせるだけで精一杯だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ