19話「復活地点は死体の山で」
……それから……
「うッ、うあああああああああああ! 」
華白は悪夢から引き戻されるように、絶叫しながら飛び起きた。
「ひ、ひッ、ひィ! 冷や汗……3リットルは流したかも」
ガスマスクの中で冷や汗まみれになりながら、自分の体を確認してみる。
(体はヘドロじゃ、ない。手足も、顔も…いつも通り)
胴体も頭も、いつも通りの姿形。ヘドロに変貌した体はどこにもない。
「多分、さっきの、夢だった感じ。いや、それよりも……わたしィ、死んだはずじゃ」
喉元を震わせ、真紅のコボルトに貫かれた腹部に触れてみる。が、しかし……
(?! グチャグチャにされたお腹が、綺麗になってる)
その通り、傷を負った腹部が綺麗に修復していたのである。
「お腹の……傷が、自分勝手に回復……した? 」
(バカげてるかも。殺されて失神した後に、傷が塞がっちゃうなんて)
「意味不明のフルコースだけど! とりあえず、今は逃げなくちゃ」
青い瞳を見開き、ガスマスクのレンズ越しに周りの状況を見渡してみる。
右を見ても、左を見ても、兵士たちの死体だらけ。頭や手足を失った死体の山が築かれ、地面のいたるところに臓器が散乱。勝者のコボルトたちは、血塗れのガスマスクと主を失ったアサルトライフルを、ゴミのように踏みつけている。
「ギィ…」「ガァ」「ギィ、ガ…」
コボルトたちが、兵士たちの血肉をランチのように味わい、至る所からバリバリと肉を貪る音が聞こえて来る。
「みんな、みんな……ミートボールにされちゃった。もう、毒森作戦どころじゃないよ~」
胸奥で泣き言を垂れ流しつつ、兵たちの屍を踏み越えてゆく。
(コボルトは昼食に夢中。多分……わたしィには気づいてない)
奥歯をガタガタ言わせながら、気配を消して慎重に進んでゆく。
(サンドバックにされるのは、もう懲り懲り! 見つからないようにしなくちゃ)
全神経を張り詰めながら、コソ泥のように進んでゆく、が……
次の一間「ガシッ!」と、何者かに左脚を掴まれて、進行を妨害されてしまった。
「えッ?! 」
唐突な妨害に短い声を洩らしてしまう華白。視線を下ろしてみると、そこには華白の足にしがみつく血塗れの兵士の姿があった。
「助けてくれええええええ! 」
絶望を帯びた声が、近くにいた1匹のコボルトの注意を惹きつけてしまう。
「ギィエ?! 」
「き、気づかれちゃったァ?! 」
(ああ! 死にかけのオジサンに絡まれて、コボルトに気づかれちゃった)
華白は真っ青になりながら、自分の左脚にしがみつく兵士から離れようとする。
「おねがいィ~太ももにハグするのは止めてへぇ~」
「頼む! 見捨てないでくれえええ! 」
以外にも、ちょっと力を入れただけで、兵士の拘束から逃れることに成功した。どうやら、この兵士は重傷を負ってしまい、力のほとんどを失ってしまっているみたいだ。
「ごめんなさいィ~。わたしはヒーローじゃないから、恨まないで」
華白は罪悪感&無力感に圧し潰されそうになりながら、一目散に逃走を試みる。ところが『一体のコボルト』が、華白の存在に気づきジワジワと接近してきた。
「ギィエ……」
「ヨダレなんか垂らしちゃって、わたしの事、オヤツだと思ってるでしょ! 」




