209話「幼女のダルマ人形」
「こんな事が……馬鹿げていますわ」
目の前の現実を否定するように、祝詞を繰り返す。
「悪逆非道の聖なるエンティティーよ! 虐殺の刻は今! 静止した時計の針を起動し、我を選定せよ!」
どんなに祝詞を連ねても、枯れた大木は沈黙を貫きながらルルナを見下ろしている。
「嗚呼。繋がったぞ。小娘、貴様は『毒桜に拒否された』のだ」
「拒否された……完璧の権化である、このわたくし、が……」
枯れた大木から否定される……ソレ即ち……
「わたくしでは、毒森を支配できない……と。笑えない冗談ですわ」
ギリギリ! と、奥歯を噛みしめるルルナ。
すると雷昂が、怒りに震えるルルナの背中に勝ち誇ったように吠えた。
「まるで道化師だな。希望の女神! 」
「ほう♪ 愉快な仇名をどうも」
雷昂の安い挑発に、ルルナがこめかみの血管をヒクつかせる。
「今のわたくしは、少々不機嫌でしてよ」
ルルナはクルリと方向転換してから、雷昂の方へにじり寄ってゆく。
さらに蔑むような目で雷昂を見下し、つま先で無防備な彼女(雷昂)の頬を蹴り飛ばした。
「簡単に殺してしまっては、鬱憤は晴らせません。ジワジワ遊びながら、殺虫して差し上げましょう」
一発、二発、三発……と、蹴りの猛攻が雷昂を蹂躙。
「ううッ! あがッ! うぐッ! 」
ひたすら続く暴行、雷昂の顔面がズタボロと化してしまう。
「まあ、可哀そうに~♪ 可愛らしいお顔が血まみれですわ、よ! 」
どれだけ顔面をサッカーボールキックされようとも、雷昂は誇らしげに真実を叩きつけた。
「それがしを…蹂躙しても…真実は揺るがん。貴様は、毒森に選ばれなかった。1千年以上温めて来た貴様の野望は、泡になって消えたのだ! 」
雷昂の挑発に、ルルナのこめかみからプツンと軽い音が鳴る。
「逐一、癇に障る幼女さんですね。しかし、許しましょう。一つ素晴らしいアイデアが閃きましたから」
……そのアイデアとは……
「幼女巫女のダルマ人形。フフ♪ 薄汚いブダどもに高値で売れそうですわ」
ルルナは殺人マシーンのような表情を浮かべ、聖剣をそっと構える。それから、雷昂の両手両足を見つめ口端を吊り上げた。
「四肢を切断しますわ♪ 少々、チクリとしますわよ? 」
「クソッタレ! このヘンタイ女神がッ! 」




