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18話「夢想領域・0%に立ち向かう」

 

 カケル少年は悲劇を赤裸々に語りながら、妹との思い出を物語る。


「『0%に立ち向かう! 』っていうのが、『歩美の口癖』でね。最後の最期まで、運命と真っ向から戦ってたよ」

「勇者みたいな妹さんかも」


 面識すらない人間なのに、華白少女はカケルの妹に尊敬の念を抱いた。


「それでね。最期の夜に、歩美から『馬鹿げた夢』を託されたのさ」

「ば、馬鹿げた……ゆめ? 」

「お兄ちゃんに、この『欠落した世界』を救ってほしい!ってさ。無茶振りも良いところだよね」


 カケル少年は頼りない目をキラリと光らせ、泥まみれの拳をギュッと握りしめ……


「でも…ボクは、その夢を叶えてみせるよ! 」


 ちっぽけな誓いを、下水道の片隅で高々と宣言してみせた。

 華白少女は夢を語るカケル少年を…馬鹿だと思った…愚か者だと思った…無謀だとも思った。

 だが、ソレ以上に『この人が、夢を叶える姿を見てみたい! 』と思ってしまった。


 ……だから……


「だったら、わたしィも! アナタの夢…叶えるのッ、手伝う……かも」


 華白少女は体をカタカタ震わせ、カケル少年のちっぽけな夢に便乗した。


 華白は壁裏から「かつての光景」を鑑賞し、切なさにズキっと胸を痛めてしまう。


「なつかしい黒歴史だな~。約束したのに……ごめんね。カケル……」


 華白は気配を消しながら、壁のむこうにいるカケル少年に謝罪した。沈んだ華白の横顔を見て、謎の少女が緑色の瞳をそっと細める。


「絶対にありえないけど……仮に、彼の夢が実現したら……貴方はどうなる、の? 」

「か、カケルの夢が叶ったら、私みたいな『負け組』がたくさん救われる、かもしれないかも」

「失敗作や欠落品の救世主を求めて、貴方は彼のストーカーになった、の? 」


 その問いかけに、華白は首を縦に振って言葉を紡いでゆく。


「でも、わたしィ……死んじゃった。もう二度と、彼の夢に付き纏えない。こんな結果じゃ、バカ丸出しかも」


 そんな華白の無念を汲み取るように、謎の少女が続けて問いかけた。


「彼の為なら、何でも……できるの? 」


 変な質問に「?」と、首を傾げてしまう死人(華白)。


(狙いは分かんない、けどッ! その質問の答えは十年前から決まっているかも)


「できる、かも」


 華白はいつもの口調で迷わずに即答してみせた。


「………なら、貴方に『試練』を与えるの…」

「し、試練? それって、一体」


 だが、答えを知るよりも先に「?!ッ…」。突然、華白の体そのものに異変が生じる。


「あッ、あぁッ…足がッ! 足があああああ!溶けて、る!!! 」


 その通り、華白の両脚が白タイツごとドロドロに溶化し始めたのである。


「ひィ、いッ……ひィ~」


 謎の少女は、華白の下半身が溶けてゆく様を無表情で見守り一言追加した。


「絶望するのはまだ早いの。足だけじゃなくて『全身』…なの…」


 淡々とした宣言された通り……頭から、手足、つま先まで、華白の体が緑色のヘドロに豹変してしまう。


(うそ! ウソ! 嘘! 体が、アイスみたいに溶け、て)

「熱いィ!!! 痛いよおおお~たすけて、とうさん。たすけて、カケ……ル」


 ドロドロに果てた手を伸ばし助けを求める。しかし……ついには喉元すらも溶けてしまい、絶叫することも、呼吸をすることも出来なくなった。


 謎の少女は表情筋をピクリとも動かさぬまま、ヘドロと化した華白へ囁きかけた。


「不幸にも、貴方は毒森に選ばれてしまった。これは『毒森からの試練』なの」


 だが、その言葉は今の華白には届かず……


「あ……あぁ」


 ついには華白の理性が溶け、ブレーカーが落ちるように意識が停止してしまった。



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