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17話「夢想領域・ふつうのチビ男」

 

 謎の少女は警戒する華白を気にせず、桜色の唇をそっと動かした。


「10年前。貴方の父親に…なにが起きたの? 」


 少女は緑色の瞳を輝かせ、華白の眼をまっすぐに見通す。その心を見通すような視線を見て、華白の心臓がトクントクンと跳ねた。


「わたしが7歳の時……『一回目の毒森攻略戦』があって、お父さんも戦いにいって…」


 言葉の先を繋ぐように、謎の少女が続きを継ぐ。


「そのまま、貴方の父親は帰ってこなかった、の」


 少女の解釈に、華白は両肩をギュッと抱きかかえ弱々しく頷いた。


「お父さんがいなくなった日から……『独りの毎日』がはじまって。毎日毎日、木偶の棒とか、臆病者とか、ストーカー女とか、言われ続けて…しんどくなって」


 第一次・毒森攻略戦で唯一の家族を失い天涯孤独となり、虐めの標的にされる日常。そのエピソードを無表情で聞きながら、謎の少女は淡々と言葉を続けた。


「だから、楽になるために……『7歳の貴方』はここに来たの? 」


 その言葉通り、7歳の華白少女が泥水へ自ら飛びこむ。


 …ポチャン…


 華白少女は泥の濁流にのまれ、悶え苦しむことしかできない。かつての自分が溺れ苦しむ姿を、華白は壁裏から他人事のように傍観している。


「昔の自分が死にかけてるのを見るなんて、ちょっとだけ滑稽かも」


 悲しくも懐かしい気持ちになりながら、この先の展開を口にする。


「でも、死ねなかった。この計画は、ヒーローに邪魔されちゃったから……」


 ……タ、タタタタタッ! ……

 小さな足音が駆けつけて来て、華白は壁裏から『足音の主』の正体を見て頬を緩ませた。


 何故なら、その人は…


「……カケル。10年前の、カケル」


『7歳の愛野カケル』は泥水の濁流へ迷わずダイブ。


「だいじょうぶ! いま、たすけるから! 」


 頼りない手で汚水を掻きわけ、溺れ苦しむ幼き華白の元へ……


「ほら、つかまえた!」


 それから、華白少女の体を支えつつ、泥水の濁流から脱出を試みた。

 泥水の濁流に抵抗しながら岸を目指し、少年少女はクタクタになりながら岸へ逃れることに成功。カケル少年と華白少女は、全身泥まみれになりながら岸辺に座り込んだ。


「怪我はない? だいじょうぶ? 」

「エホ、エホッ! うッ、うぅ……」


 幼き華白は泣くことしかできない。そんな少女に、幼きカケルはハキハキと自己紹介する。


「ボクは愛野カケル。どこにでもいる、ただのチビ男さ」

「ち、チビ……おとこ? 」

「うん。何の力も才能もない。なんてことない、チビ男さ」

「カッコ悪い、かも……」

「ふふ。そうだね」


 カケル少年は、星屑の欠片のような笑みを浮かべ、幼き華白へやさしく問いかけた。


「きみは? 」

「わたし……華白、隣。下の名前は『となり』って書いて『リン』……たぶん」

「隣で『りん』か~。フフフ、ヘンテコな名前だね」

「もう! 笑わないで! お父さんから貰った、大切な名前なんだから」

「ごめんごめん」


 プッと吹きだすカケル少年。ふてくされる華白少女。下水道の空気がほんの少しだけ和む。それから、カケル少年は「何か」を察して、少女の後ろへ回った。


「ああ、やっぱり……髪がグチャグチャじゃないか。ダメだよ、髪は女子の魂なんだからさ」


 カケル少年はやさしく呟き、華白少女の髪にそっと触れ、スムーズな手つきで後ろ髪を纏めてゆく。

 少年の手触に、華白少女の肩から力が和らいでゆく。


「変かも。男子なのに、女子の髪をセットするの上手だなんて」

「散々、妹から説教されたからね。その成果かな」


 カケル少年は「うん」と頷き、穴の空いたポケットからヘアゴムを取り出す。


「この髪型……妹の、お気に入りだったんだ」


 そう言って、妹のヘアゴムで華白少女の後ろ髪をキュっと結んであげた。華白少女は新しいヘアスタイルに困惑しつつ、青い瞳をまん丸にしてしまう。


「えっとぉ~この髪型って、多分……」


 一方のカケル少年は、華白のとなりに座り「うーん」と首を傾げた。


「たしか『ポニーテイル』とか言ったけ? 興味なかったから、うろ覚えだけど」

「多分、この髪型も……妹さんの真似っ子でしょ 」

「正解! よく分かったね。リンってエスパー? 」

「超能力とは無縁かも。わたしィ、ただのいじめられっ子だし」

「そっかあ~」


「……ねえ。カケル、くん」

「呼び捨てでいいよ」

「えっとぉ~、じゃあ……カケ、ル」

「何だい? 」


 華白少女は「とある疑問」が気になってしまい、恐る恐るソレについて質問してみる。


「さっきから……ちょくちょく『妹さん』って言ってるけど。その子って? 」


 カケル少年は少しだけ黙り込むと、華白少女の目をまっすぐ見つめた。


「…『愛野歩美あいのあゆみ』…僕の、たった一人の家族さ」


 そう説明しながら「いや…」と言葉を訂正する。


「ちょっと違うね。家族『だった』って……言った方が正解に近い、かな」


 カケル少年の表情をみて、華白少女の胸にチクっと痛みが走る。


「歩美は、もういないんだ。ちょっと前に、天国に旅立ったから」


 一週間前に、カケルの妹は亡くなった。

 残酷な事実を耳にしてしまい、華白少女は唇を噛みしめてしまう。


「あなたも、大切な人を失って……」


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