16話「夢想領域・下水道と7才の少女」
……プツン……
「……………」と沈黙が連なり、チャンネルが切り替わるように『別の世界』が広がった。
「…… ここは一体? さっきまで、死体のオアシスにいたはず、なのに……」
華白は唐突に現れた、別の世界に呆然としてしまう。
なぜなら、そこは…
「カビまみれの壁にィ、粘土みたいな泥の川。あれ? この景色、既視感あるかも」
老朽化した下水道を見渡し、おおよその想像で現状を察する。
「思いだした。多分、この下水道は10年前にあった『地下都市の禁止エリア』の一つ」
現在地が、とうの昔にとり壊された古き場所である……と見通し「今どうして、こんな場所にいるの?」と首を傾げてしまう。
「ああ、多分。昔の夢……見てるんだ。三途の川が下水道とか、趣味わるいかも」
そう解釈し、一人納得している……と
「ひっぐッ、えぐッ……」
メソメソとした少女の声が、下水道の壁に反響した。
「?! 」
(えッ?! 女の子の…泣き声? とりあえず、隠れなきゃ)
少女の泣き声を察し、華白は盗人のようにコソコソと壁裏へ身を潜める。すかさず、壁裏から泣き声がした方をコッソリ覗き見た。
すると、そこには……「あの子……昔の、わ、わたしィ?……」
安物ジャージ姿の少女が、下水道の岸上でメソメソと泣いていた。
(間違いない、かも。アレって、7歳の時のわたしだ)
少女を、かつての自分だと察しつつ、さらに考えを巡らせる。
「一体、どういうこと?どうして、10年前の黒歴史を見せられてるの~」
未来の自分(華白)の監視に気づかぬまま……7歳の華白は岸上から、足元で流れる泥の濁流を見下ろした。
「嘘つき、お父さんの嘘つき。『帰ってくる』って、カッコつけてたくせに」
かつての自分が零した台詞を盗み聞ぎして、華白はズキッ! と胸の痛みを抱く。
「お、お父さん……か。嫌な夢かも。思い出したくなかったな~」
壁裏で青い瞳を沈ませ、唇をキュっと噛みしめる。
そんな彼女のリアクションに対して……
どこからともなく、フワフワとした「少女の声」が返答してきた。
「この幻想領域は夢じゃない、の。毒森が再生した『試練の間』なの」
声の方へ視線を移す……と
佳麗にゆれるモブカットの緑髪。翠緑の瞳。巫女服姿の少女が立っていた。
少女の背丈は160㎝程度だろうか?冷たい表情はどことなく神秘的で、素人の華白でも「只者じゃない!」とわかった。
(なに、この娘? 変質者にしては、可愛すぎるかも)
華白は青い瞳を緊張させ、横にならぶ不思議な少女を警戒する。
「あなた、何者? 」
「名乗るまでもないの。通りすがりの悪人なの」
「堂々と悪者宣言されても、全然カッコよくないかも」
どうやら、この少女は名乗る気がないらしい。
(へ、変な娘。一体、なにを企んでるのよ~)




