163話「甘い超毒薬」
(毒薬のクセに……あッ! 甘! )
フルーティーな風味が舌に広がってゆき、ドロドロした液体が喉一杯に溢れる。
「おッ! ふう~」
超毒薬を飲み干し、空になった小瓶を投げ捨てる。
1秒、2秒、3秒……
「………ギィエ」
シーンとした静寂のみが流れてゆき、コボルトたちが獲物(華白)へさらに距離を詰め、爪攻撃の射程内まで接近してくる。
死は刻々と近づいて来ている。でありながら……
彼女の意識は、コボルト軍団に向けられておらず……『超毒薬によって発生した、変化』に只々驚愕していた。
「すごい、かも」
(超毒薬で、わたしィの細胞……喜んでる)
「ち、力が溢れてくる。体も軽い。翼が生えた、みたい……」
毒人の細胞が激しい鼓動を刻み、膨大なエネルギーが体の底から溢れ出す。
続けて、華白の瞳がエメラルドグリーンに変化。
コボルトたちの視線や吐息、すべての情報がスローモーションに流れてゆく。
「ギィァ……」「ギィエ……」「ギィ」
コボルト軍団に完全包囲されながら、華白は優しく宣言した。
「アナタたちには『借り』がある。今から、その借りを返済するかも」
「ギィ、アアアアアアアアアア! 」
華白の挑発に激昂したのか? 1体のコボルトが雄叫びを発しながら、攻撃の一手を繰り出した。
日本刀の如く鋭利なコボルトの爪が急加速。
人知を超えた斬撃攻撃が、弾丸をも超越した速度で華白の首へ襲いかかる。




