159話「友との別れ」
華白は、雷昂のぶっきらぼうな態度に思わず吹き出してしまった。
「調子が戻ったみたいだね。謹崎さんは、そうでなくっちゃ」
冗談を言いながら立ちあがり、芝生ベットで横たわる雷昂に背をむける。
「ここで留守番してて、わたしィ一人で片付けてくるかも」
「正気か? 今なら、まだ……引き返せるのだぞ? 」
雷昂はちっこい拳を握りしめ、華白の背中に怒鳴りつけた。
「華白隣! キサマは、怖くないのか?! 」
その問いに対して、華白は振り返って一切の迷いも無くハッキリと答えた。
……「怖い、かも」……
「体だって、死体に片足突っ込んでるし……正直、立ってるのもしんどい」
「……でも、ね」と己の胸に手を当てて、絞り込むように想いを綴ってゆく。
「わたしィ、感染したんだ。カケルの勇気に……」
「小僧の……勇気、か」
ちっぽけな決意を聞き、雷昂の瞳が微かな輝きを取りもどす。
「……この先をまっすぐ歩けば『毒の聖花壇』へ到達できるだろう。それからは、賽の目がキサマに微笑むか? だ」
「うん。わかった、かも」
無謀な運命に挑む華白に、雷昂はぶっきらぼうな口調でエールを飛ばした。
「骨の一つは拾ってやる。思う存分、ムダな抵抗をするがいい」
「ありがとう、謹崎さん。それじゃ……さようなら」
華白は雷昂に永遠の別れを告げ、一歩踏み出した。
…………
雷昂は、遠のいてゆく華白を見送りつつ、誰にも聞こえない声でそっと祈った。
「つくしさま……どうか、あの愚か者に……力を貸してやってください」




