157話「オレ様巫女の涙」
雷昂はブーイングを吐き「……」と黙り込み、そっと唇を噛みしめた。
「……さっき、失神していた時……『昔の夢』の中にいた」
朦朧とした雷昂の言葉に、首を傾げる華白。
「昔の……夢? 」
「嗚呼、それがしが『新米巫女』だった頃の記憶だ。百年前の……八月八日の夜。あの日から、毒森は狂気の地と化してしまったのだ」
「……ひ、100年前に、事件が? 」
(でも、そんな昔のこと……い、今更掘り下げる意味あるの? )
「チンプンカンプンかも。その『8月8日』に一体何が……」
「案ずるな。負け犬老人の独り言だ。聞き流してもかまわん」
「ボカされると、ますます気になるかも」
雷昂は困惑する華白をスルーして、遠い目をしながら独り言をならべてゆく。
「……つくし様。それがしは、何もできなかった」
「………謹崎さん」
(その『つくし』さんって、謹崎さんの『昔の知り合い』かな? )
華白は口を挟まずに、雷昂の呟きに耳を傾けた。
今の雷昂には、いつもの威厳は欠片もなく、只々己の無力さに震えていた。
「つくし様……申し訳ございません。やはり、それがしはただの『出来損ない』なんです」
そんな彼女の頭を、華白はそっと撫でてあげる。
「……謹崎さん、悲しまないで」
華白のフワリとした温かみが、雷昂の無念を包みこむ。
そして、寄り添うように囁きながら、雷昂の頭をそっと抱き寄せた。
「たくさん、辛い事があったんだね。でも大丈夫。あとは…わたしィにまかせて」




