13話「やったか?!は『フラグ』ですよ?」
お互いの距離は5~6m程度。
コボルトの一挙一動に集中し、大尉がライフルの引き金に指を乗せる。
「合図は大尉に任せます。いつでも、弾丸の雨を降らせてやりますよ」
大尉の動きに合わせ、他の隊員たちも射撃体制へ…そして、先手を撃ったのはコボルトの方だった。
「ギィ、エエエエエエ! 」
コボルトが地面をキックして、銃を構えた兵士たちの壁へ突撃してゆく。
ソレを迎撃するかの如く…
「ファイア! 」
大尉がガスマスクの中で高々コールし、兵士たちが一斉に引き金をひいた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
「しね、死ね、死に腐れええええええ! 」
兵士たちが罵声を吐きながら、ひたすらに銃を撃ちまくる。
「…ッ、ギィ!エ?! 」
「こ、コボルトが苦しんでる。雑な弾幕攻撃でも、効果抜群かも! 」
弾幕を真っ正面から浴び、コボルトの足が止まってしまう。
数の暴力に翻弄されるコボルトを見て、華白は口をポカンとおっ開いた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
「ギィアアアアア! 」
(弾幕の嵐がフォートレス甲殻を削って、コボルトを蜂の巣にしてる! )
「見栄えはダサいけど、凄い……かも)
猛烈な弾幕に晒され、コボルトが悲鳴を轟かせる。
それから、ドドドドドド…カチッ!
兵士たちのアサルトライフルが弾切れとなり、加熱した銃口から煙があがった。
…ドサッと、崩れ落ちるコボルト。
「………」
大尉と兵士たちは、弾切れになったアサルトライフルを構えたまま、倒れたコボルトを警戒する。華白は、大尉の肩越しから『コボルトの沈黙』を目視して胸を撫でおろした。
「……やった、かも」
ボソリと零れた華白の感想に、周りの兵士たちが頷く。
「ああ、その通りだ! 」
「オレたちの手で、コボルトを殺虫してやったんだ! 」
「この調子なら、荒神業魔だってヌルゲーだぜ! 」
しかし、この中で一人、大尉だけは「………」と険しい表情を浮かべていた。
無敵のクリーチャーから勝利を奪い取り、歓喜づく兵士たち。その中の一人が、華白の肩へ手を乗せ、興奮気味の口調で励ましてくる。
「アンタもビビる必要はない。俺たちがいれば、毒森をノーコンティニューで攻略できるさ」
「はぃ~」
(多分、大丈夫。さっきみたいに……数の暴力作戦でゴリ押しちゃえば、安心安全にハッピーエンドへ辿り着けるから……)
華白は兵士の言葉に頷くが、その若者はずっと彼女の肩に手を乗せている。
(ちょっと、ベタベタし過ぎィ~。カケルならいいけど、他の人からは触られたくないかも)
ゆえに華白は、馴れ馴れしい兵士へ視線を向けてから「あの、いい加減。手を離してください……」と伝えようとした…が…
「?! ひィ! く、首が……無くなって」
彼女のリアクション通り、肩に触れていた兵士には首から上がなく、首の断面からピューピューと血が噴き出していた。兵士の手が華白の肩がズルリと離れ、首なし死体が血だらけの地へおちる。さらに『甲殻に覆われた足』が、その死体をゴミのように踏みつけた。
(こぉ!甲殻の足ィ?! まさかあああ! )
当然、その足の主は……
「ギィ……エ」
「コボルトぉ?! 」
(さっき、わからせた筈なのに! どうしてえええええ! )
華白は青い瞳を点にして、コボルトの血が滴る爪を凝視する。コボルトは「ギィ」と口元を吊り上げ、爪の刃先を華白へ合わせた。
「やばぁ……目と目が、合っちゃった……かも」
「ガァアアア! 」
コボルトの一撃が、恐怖に震える華白に容赦なく襲いかかって来る。




