12話「鉄壁のモブ敵」
甲殻人型クリーチャー『コボルト』
身長175㎝、体重90㎏。
外殻皮膚・フォートレス甲殻は絶対防御のディフェンス力を発揮し、日本刀よりも鋭利な爪でいかなる物体をもバターのように引き裂く。ギラりと煌めくツリ目の眼差しは、尋常ならぬ殺意に満ち。標的にされたモノは、例外なく惨殺されてしまう。この人型怪物こそ、10年前の第一次・毒森攻略戦で大量の兵士たちを虐殺した元凶だった。
「ギィイイ……イ」
「あ、あ……あ……殺意パロメーターが振り切れてる、かも」
「多分、無駄かもしれない、けど……逃げなくちゃ」
頭では分かっているのに……
「足が、くすんで……動けない。一歩が遠い、かも」
ガスマスクの中で顔面蒼白になる華白。
「ギィ……エ」
コボルトは右手の爪をキラリと光らせ、獲物(華白)へ距離を詰める。
「はあ、ハア、ハアッ! 」
(信じられない……アイツの爪、ダイヤモンドみたいに輝いてる。あ、あんなので切られちゃったら! )
「す、スライスチーズになっちゃう、かもお! 」
……と言っても、この窮地から逃れる術はなく、もはや死を覚悟する事しかできなかった。
「ごめんね。カケル……」
「ギィア! 」
そして、コボルトの爪先が華白の首へ定められた、その時……
「毒だらけの森でナンパしてんじゃねえ! カメ野郎が! 」
デリカシーのないオッサンの声が、毒木の裏側から怒鳴りかけてきた。華白は聞き覚えのあるオッサンボイスに、青い瞳を思わず見開いてしまう。
「大尉?! 」
合わせて、大尉が木陰から飛び出し、アサルトライフルでコボルトを迎撃してみせた。
ドッ!ドドド!
すべての弾丸が、コボルトにヒットするものの……
カン、カンカンカン、カンッ
すべての弾丸が、コボルトのフォートレス甲殻に容易く弾かれてしまう。
「ちっ、化物が。愛嬌0だな。全弾ヒットしたってのに、涼しいツラしてやがる」
コボルトの平然とした立振る舞いに、華白は絶望することしかできない。
「そんなあ~。あんなに撃たれて、埃すらもつかないなんて。 ひょっとして……多分、フォートレス甲殻って戦艦よりも頑丈な感じィ?! 」
「火力が足りねえんだ。オレ一人じゃ、役者不足か! 」
大尉はアサルトライフルを構えたまま、戦況を分析しつつ、棒立ちする華白へ呼びかける。
「ノッポ嬢ちゃん! 死にたくないなら、オレの後ろで震えてな! 」
「は、はひィ~」
華白は大尉に言われるまま、彼の後ろへそそくさと身を潜めた。続けて、他の兵士たちがゾロゾロと駆けつけてくる。
「大尉! ご無事ですか?! 」
7人の兵士たちが集い、アサルトライフルの抱えながら、コボルトを警戒する。
「毒霧の中だってのに、ピンピンしてやがる。気持ち悪いバケモノだぜ」
「毒ガスにも耐えられる甲殻皮膚……か、この目で実物を見るのは初めてだ」
大尉を中央にして、横一列の陣形を組む兵士たち。
華白は、その一歩後ろで息を殺して見守ることしかできない。
(向こうは丸腰の怪物が一人。こっちは銃をもったエリート兵が8人。この戦力差なら、勝利の女神さまが微笑んでくれる、かも)
心強い増援に安心するが……残念ながら7人の兵士の中に、カケルの姿は見渡らない。
「でも、この中に……ショタ男子は……カケルはいない」
(多分、カケルの事だから、森の中で迷子になってる感じかも)
「こ、地獄に迷子センターなんかあるワケないし、どうしよう……」
そんな風に幼馴染の心配をしている間にも、コボルトが一歩一歩と正面から接近してくる。
「こっちには鉄砲があるのに! まっすぐ歩み寄ってくるなんて! 頭のセーフティーが故障してるかも」
「おったまげる必要はねえさ……ノッポの嬢ちゃん。奴らには『恐怖』とかいう機能は、そもそも備わってねえからな」




