表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/245

11話「負けヒロイン、毒パラダイスで孤立してしまう」

 ……………………


「う~ん」


 華白の意識が、暗黒からジワジワと復旧してゆく。

 ガスマスクの中で重々しい瞼を開くと一緒に、ズキッとした痛みが頭に走った。


「いッ! たあ!…あ、頭をぶつけて、強制的に『おねんね』してた、かも」


 その上……


「おじさん達がいない。車の中がモヌケの殻なんだけど。もしかして、みんな……神隠しに会ったとか?」


 朦朧とする意識の中、寒い冗談を並べたてながら、キョロキョロと周りの状況を確認。


「車の中が、メンヘラ少女の部屋みたいになってるかも」


 車内は逆さまにひっくり返り。小道具や装備でゴチャゴチャに四散している。かつ、このスペースにいるのは華白一人だった。


「多分、皆……気絶した私を無視して、外に出たんだ……」


 つまり……


「ど、毒森の入口で『放置プレイ』かまされちゃった?! 」

(女子を車に残して、ピクニックに行くとか! 気遣い0の男共かも! )


 心の中で愚痴を垂れ流しながら、ブルブルと震える足を引きずり装甲車の外を目指す。

 装甲車の後部ドアは横転した衝撃で吹っ飛び、車内から外が丸見えになってしまっていた。


「はやくッ、カケルと合流しなくちゃ。かわいい幼馴染を置き去りにしたこと! た~っぷり説教してやるんだから」


 その時、華白の足元に『何か』が引っかかった。

「?」と、足元へ視線を落してみる。すると……


「コレって、翼さんが持ってたアタッシュケース……だよ、ね? 」

(多分、装甲車から慌てて出撃したせいで、ケースを忘れて行っちゃったんだ。主人公ヒーローでも、ウッカリすることってあるんだ~)


 車内に放置されているアタッシュケースを見て、翼が神具を放置したまま『触手の主を追撃しに行った』と推測できた。


「コレ、どうしよう……翼さんに届けるのが正解かな? 」

(でも、わたしみたいなのが神具に触っていいの? 神具に手汗とかついたら、懲罰不可避かも)


 神具が入ったアタッシュケースを回収し、翼に届けるべきか? ウジウジ迷っている、と……


「ギィエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


 人間離れした『人ならざる声』が、装甲車の外の方から聞こえて来る。

 凶悪な咆哮に、ビクっと肩を硬直させる華白。


「ヒィ! な、何なのぉ?! 」

(さ、殺気が限界突破したみたいな声。装甲車の外で『ヤバいの』が、たむろしてるんじゃ)

「ヒヨるな! わたしィ……ここで籠ってるだけじゃ、カケルに逆姫プするなんて、夢のまた夢かも」


「と、とりあえず、今は……カケルとの感動的再会を最優先。一旦、アタッシュケースの事は忘れるべきかも)


 ガスマスクの中で呼吸を荒げ、つま先を装甲車の外へ……


「お願い。無事でいて、カケル……」


 ハエのような声で祈りながら、装甲車の外へ挙動不審に跳び出してゆく。


「はッ、は、は、はッ」


 装甲車からスタートして、震える足を地面に着地させる。


「ガスマスクの視界が、せまいかも。こんなの……デフォルトで目隠しプレイしてるようなモンだよ」


 さらに、紫色の煙が視界一体を覆い隠していた。


「右も左も、上も下も……パープル色の煙で一杯だ~コレが毒霧どくきり? 」


 ガスマスクの中で犬のように喘ぎながら、徹夜で予習した知識を再生する。


(『毒霧』は天然の毒ガスで……口や鼻から吸い込んだり、皮膚でダイレクトに触れたら、とっても危険なんだよね)


 また、毒霧の毒レベルは『ノーマルクラスの毒』にカテゴライズされている為、耐毒装備があれば対策可能とされている。


「よかったかも~。耐毒軍服があって。変態オジサンから貰った服に救われるとか、ロマンチックの欠片もないけど……」


 心の中で愚痴を垂れつつ、グロテスクな奥へさらに進んでゆく。


「み、見事に孤立しちゃった。み、味方は……どこお? 」


 ……現在地は毒森北側どくもりきたがわ……

 この地は毒草や毒木など、オーソドックスな毒植物どくしょくぶつの生息地でもあるが、一応耐毒装備があれば人間でも歩くことが可能だ。

 毒木は、臓器をぶちまけたような樹皮&静脈のように鼓動する枝木。根本から木の頂点までグロデスクに全振りしている。


 毒草は薄紫の色をしており、葉の先端から自然の毒液をポタポタと滴り落としていた。

 木も草も……すべての姿形が狂気のソレ。

 毒森北側は、孤立した愚か者(華白)の正気度を蝕んでゆく。


 華白は辺りの毒植物を警戒しながら、白タイツの足を動かし続けた。


(毒の木は、樹液や葉がぜんぶ毒なんだよね。多分、触ったら死ぬ感じのヤツだ。近づかないように気をつけなくちゃ……)


 毒の木に接触しないよう、立ち並ぶ樹木の間をくぐり抜ける。


「気持ちわるい。気分転換用に、秘蔵のショタ本を持ってきた方がよかったかも」


 意味不明な趣味を暴露しながら、ゾンビのように毒森を彷徨っている…と…

 華白の視界端に『とある人物』が映り込んだ


「え? アレって……多分、人間だよ、ね? 」


 彼女の言う通り、道中の先に一つ、人影がボンヤリと突っ立っていた。


「よ、よかったぁ~」

(毒霧のせいでシュルエットはボヤけてるけど、兵士さんと合流できた~)


「すいません~頭を打って、意識を失っちゃって…遅れちゃいました~」


 言い訳をしながら、情けない足取りでその人影へ駆け寄ってゆく。

 が、しかし…人影の一歩手前まで近づいた瞬間…


「ギィエエ、エ……」


 その人影は、鈍い唸り声と共に華白をギロリと睨みつけた。


「いッ、ヒィ! 」


(む、紫色の甲殻!間違いない、この人…いや、この化物って?! )


「こ! コボルトおおお?! 」


(ありえない。媚びを売った相手が、最強無敵のクリーチャーだったなんて! )



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ