131話「勇気に感染する」
「フン。首の皮一枚つながった……というヤツだな」
飛行スピードが少しずつ落ちてゆき、華白にまわりを見渡す余裕ができる。
「多分、生き残れたかな? ここは地獄じゃない……よね? 」
「嗚呼。ここは毒森の上空100mだ。流石のヤツ(鎌切龍)でも追ってこれまい。なんたって、この空域には『毒雲』のテリトリーだからな」
「ま、まさか……空の上を散歩する羽目になっちゃう、なんて……」
華白は雷昂(蛾の怪獣)の背中越しに、100m上空から毒森を一望した。
(毒まみれの地獄なのに、おとぎ話に登場しそうな絶景だ~)
永遠と広がる森の神秘を見渡している内に、不思議と『愛野カケルとの思い出』が蘇ってきた。
二人で泥まみれになった、下水道での思い出。
二人でがむしゃらに走り続けた、毒森での思い出。
そして、カケルから「勇気を感染させられた」毒の沼での思い出。
「………カケル」
青い瞳をひっそりと閉じる華白。
これまでの滅茶苦茶エピソードを胸の奥へひっそりとしまい込んでから、オドオドとした口調で雷昂(蛾の怪獣)へ語りかけた。
「謹崎さん、聞いて……」
「……嗚呼? 」
「わたしィ、荒神業魔をやっつける……かも」
「……フン」
華白の決意を試すかのように、雷昂(蛾の怪獣)が冷たい口調で問う。
「華白隣。キサマは一人で、不可能に立ち向かうつもりなのか? 」
「う、うん。無茶で無謀っていうのは自覚してる、けどッ……」
責任感に圧し潰されそうになりながら、華白はコクリと頷いてみせる。
「『諦めない』って、約束したから」
……そして……
「カケルの分まで『欠落した世界を救う』って、約束したから! 」
「欠落した世界を、救済か。どうやら、小僧の『無謀に汚染』されたようだな」
「うん。多分、『カケルの勇気』に感染しちゃった、かも」
愛野カケルの決意を継いだ……と微笑む華白。
そんな彼女を乗せたまま、雷昂は小声でそっとコメントをした。
「フン。蟻一匹分は、成長したみたいだな」
けれども、雷昂の声が風音で遮られ、華白が「?」と首をかしげる。
「えぇ? 今、何か言った?! 風の音で、よく聞こえないかも」
「老人の戯言だ。聞き流して構わん」
雷昂(蛾の怪獣)は誤魔化すように急旋回した。




