124話「勝手に絶望する主人公」
だが同時に、この瞬間のみ……翼の意識が雷昂から外れている、という事を意味しており。雷昂はこの隙を縫ってコソコソと袖の中を密かに探っていた。
華白は相方(雷昂)の思惑を察し、翼の視線を雷昂から逸らさせる事に集中する。
(謹崎さん。何を、企んでるのか? サッパリだけ、ど……わたしィが、時間稼ぎをしなくちゃ)
「暴力反対かも~わたしィの言い訳……聞いてくださ~い」
「棒読みで命乞いするとはな! オレも舐められたモンだ! 」
華白の安っぽい挑発に乗って、翼がアサルトライフルと共に距離を詰めてくる。
「お互いの距離は10mもない。ここまで至近距離ならッ……お前の悪人補正だって無効だ! 」
「わたしィと戦うのはオススメしないかも。さ、サッカーボールになりたくないでしょ? 」
相手の注意を引きつけるために、華白も自ら一歩、翼の方へ詰めよる。
「それに、こんなの『荒神業魔とのタイマン』に比べたら、茶番かも」
「ホラ話はやめろ! 究極生物とサシで殴りあうキチガイなんざ、いるワケねえだろうが! 」
翼はガスマスクの中で叫び、アサルトライフルの引き金に指をのせた。
だとしても、華白は慎重に言葉を選び、翼の充血した目をまっすぐ見返す。
「落ち着いて呼吸してください。今のあなたは、ラジコンになってるかも」
「だまれ 寄るな! くそ、頭がッ!……いた、い! 」
「思い出して。わたしは華白隣。『となり』と書いて、リン……です」
「だまれえええ! 」
ズキズキと痛む頭を抱えながら、発狂寸前で吠え続ける翼。
「今回の作戦は、人類にとっての最期の砦だったッ! だが、その努力も徒労に終わっちまった! 」
翼のアサルトライフルが華白を睨みつける。
「人類に未来はない! 未来も希望も、毒森の肥料にされてハッピーエンドだ! 」
「……多分、まだ…エンディングじゃないかも。わたしィは0%に立ち向かう、から……」
「口先だけは立派だな。でもムダだ! ぜんぶ、お終いなんだよ! 」
選ばれし主人公・井竜翼はこの世すべてに絶望し、怒りに震える指先でアサルトライフルの引き金に力をこめた。




