119話「大人のトラップ」
ーートンッ!ーー
華白の爪先が祭壇室の床へ着地し、軽やかな着地音が鳴る。
(高いところから飛び降りたのに、痛くも痒くもないや。毒人って頑丈かも)
そんな風に、自らの身体能力に関心している、と……
「……おい。いつまで、人の体をベタベタ触っているつもりだ? 変態め」
「あ、あぁ。ごめんね。通報は勘弁かも」
雷昂からのクレームが飛んできたので、華白はアセアセと彼女の体から手を離した。
「茶番なら後でつきあってやる。さっさと毒銃を回収して、撤収するぞ」
「う、うん……」
ぶっきらぼうな命令に頷き、祭壇室のど真ん中に横たわっている『十弐式毒銃』の元へ歩み寄る。続け様に、華白が毒銃へ手を伸ばした。その刹那……
「止まれ! 動くな! 」
突如、とある男の『主人公ボイス』が怒鳴りかけてきた。
「その声、もしかして。つ、翼さん?! 」
「フン。それだけではない! 奴らめ、全員集合しておる! 」
その通り、翼とガスマスク兵たちが、彼女らを包囲していたのである。
(や!ヤバい、かも……相手は数十人。しかも、みんな鉄砲を持参してるし)
華白は心の中で困惑しているものの、傍らに立つ雷昂は冷静に状況を解説した。
「それがし達を炙り出す為に、神具(毒銃)を餌にするとはな。フン、猿にしては知恵を絞ったな…褒めてやるから、ありがたく思うがいい」
翼が、雷昂の上から目線の態度に鼻息を荒げる。
「負け惜しみをッ……チンパンジーはテメエらの方だ!こんな見え見えのトラップに釣られるなんてよ! 」
猛獣のように吠えながら、翼が「射撃用意! 」と部下へ命令をくだす。
ーーーカシャ……リーーー
狂気に歪む翼の声を合図に、兵士たちがアサルトライフルを一斉に構える。
「さあーて、教育のお時間だ。メスガキ・ブラザーズさんよ! 」




