114話「硫酸の血の…正しい使い方」
目的を見定め意気込む華白。
しかし、雷昂は呆れながら『手錠に拘束された両手』を華白に見せつけた。
「それがし達の滑稽な様を見てみろ。二人揃って、この玩具に拘束されておる」
「この手錠はチタン合金製だから、どんなに力を入れてもビクともしない、かも」
(どうしよう? 両手を拘束されたまま、翼さん達から逃げ切るなんて……天地がひっくり返っても、できっこないし~)
「キサマが偶然、手錠の鍵を持っている……という、三流脚本みたいな展開でもなかろう? 」
「鍵なんか、無いかも。それどころか、毒銃も落っことしちゃったし」
「嗚呼! 神具を紛失したのか?! 愚か者め」
雷昂は「華白が十弐式毒銃を手放した」事に苛立っているが、元凶の華白は悪びれる素振りもなく、ハキハキと更なるアクションへ移った。
「クレームなら、後で、た~ぷっり受け止めてあげるから! ここは一発、『毒人のわたし』に任せて! 」
華白は、チタン合金の手錠を何とかする……と宣言し、奥歯を噛みしめ、手錠に拘束された手を激しく動かし始める。
……グリ! グリ! グリ!
華白の凶行を前に、雷昂は目をまん丸にさせてしまう。
「な、何が狙いだ。腕がズタボロになるぞ? 」
「うッ、うぅ……たしかに、この感じだと『手が血まみれ』になっちゃうかも」
唸るように呟きながら、華白は口端を上げて、もっと強く手を動かし続けた。
「ちっとも嬉しくないけど。わたしの血は『緑色の血』」
その台詞に続いて、華白の両手首から「グリーン・ブラッド」がポタポタと滴り落ちてくる。
「どんなモノだって溶かす! 硫酸の血! 」
グリーン・ブラッド(硫酸の血)がチタン合金のフレームに触れ、手錠から「ジュ―」と煙があがる。それから、手錠が真っ二つに割れてしまった。
雷昂は、華白の斜め上をついた行為に驚愕し、口をポカンと開いてしまう。
「これまで、大勢の毒人を見てきたが……毒人の血をこんな風につかった馬鹿は、キサマが初めてだ」
「誉め言葉として、受け取っておくかも。次は謹崎さんの番。手錠を見せて」
「くそったれ。好きにしろ」
ドロドロに溶けた手錠を放り投げ、雷昂の後ろへ。
「……じっとしててね」
『硫酸の血』を手首から流し、雷昂の手錠へ慎重に滴り落とす。
当然、雷昂の手錠もパキン! と壊れてしまった。
「これで……多分OKかも」
華白から拘束を解いてもらい、頬を膨らませソッポを向く雷昂。
「フン。一応、感謝してやろう。ありがたく思え」
「……まるで、ツンデレ巫女さんかも」
「ふざけた仇名をつけるな。馬の骨め」




