112話「彼の分まで」
「しかし、解せぬな。どうして戻ってきた? それがしは『使命を果たせ』と命令した筈だが? 」
「了解です☆って、素直に従えるワケないかも」
「愚か者め。荒神業魔を打破できる最後の機会を、自ら棒に振るとは……」
「言われなくたって『バカな事をしてる』って自覚してる。それでもッ」
青い瞳を震わせながら、己の決意をハッキリと口にしてみせる。
「これ以上、大切な人を失いたくない、かも!」
「嗚呼? 大切な人……だと? 」
対する雷昂は、そっと目を細めてから「…」と数秒の間だけ沈黙。そして『大切な人』というワードを汲み取り、重々しく問いかけた。
「……小僧は、どうした? 」
雷昂の鋭い質問が、華白の胸に突き刺さる。
彼女(華白)は肩を小刻みに震わせながら、雷昂の問いに答えようとする、が……声が無意識に震えてしまい、思ったように喋る事ができなかった。
「か! カケルはッ……か、かける……はッ! 」
「……そうか。おおよそ理解した。ソレ以上…言葉にせずともよい」
自分を責めるような華白の表情を見て、雷昂は察したように優しく頷いた。
「ならば……小僧の分まで、悪あがきをしなければ、な」




