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8話「出撃」

 

 勝手に落ち込む華白をよそに、カケルと大尉がバチバチと火花を散らす。


「戦場で女にキャリーしてもらうつもりか? 弱っちい王子様だな。たくましいぜ」

「王子プレイなんて、趣味じゃありませんよ。でも、ソレも事実ですね。現在進行形で彼女に助けられてますから……」


「でも…」と、まっすぐ先輩(大尉)の面を見据えて、決意を綴ってゆく。


「弱者にしか、出来ない事もあります。ボクはボクとして、人々の役に立ってみせますよ」

「綺麗ごと言ってんじゃねえ。吠える前に、身長伸ばして女々しい面構えを変えやがれ」

「せ、狭いところで、ケンカは止めてほしい……かも」


 一方の華白は、そんな二人に挟まれオドオドするのみ。威圧的な空気をまえに萎縮してしまい、ぎこちない声しか出てくれない。


 …すると…

 聞き覚えのある、青年のハキハキした声が割り込んでくる。


「お前たち。仲間割れしているヒマは一秒もないぞ」


 声の方を見る……と、そこには井竜翼。

 彼(翼)は手慣れた動作で、アタッシュケースを車内にある荷台へ載せた。

 その動作を、華白は口を開けながら傍観する。


(わたしィが、選ばれし者だったらな~あのアタッシュケースの中にある神具で無双プレイして、カケルに自慢できるのにな~)


 翼がアタッシュケースを荷台に収納し、座り込む部下たちを一望する。


「知っての通り、異空の狭間から現れた毒森によって、我々の街『伊吹町』は侵食されてしまった」


 カケルと大尉も「………」と押し黙り、彼(翼)の力強い演説に耳を傾けている。


「青空は毒雲に覆われ、新鮮な空気も毒霧に変貌……そして、太陽からも見放された。伊吹町を奪われ、それから十年! オレたちはずっと、地下都市で餓えと戦ってきた」


 …だが、しかし…


「狭くて窮屈な地下都市生活も、今日限りで幕締めだ。荒神業魔を倒し、法術核を破壊し、この世界から毒森を追放してやろう。伊吹町は、異世界のモノじゃない! 俺たちのモノだ!」


 選ばれし主人公(井竜翼)の演説に、車内がドッと盛り上がる。


「ああ! 井竜隊長の言う通りだ! 」

「オレたちの伊吹町を取り戻してやろうぜ!」

「仲間がいればッ! コボルトなんか脅威にもならねえ! 」


 慣れた手つきでガスマスクをかぶる兵士たち。続けて、カケルと大尉もガスマスクを装着する。


 華白も、横のカケルの真似をするように、ガスマスクを頭に装着させた。


「うぅ、息苦しいィ……視界も、せまい……。こんな……ハエ頭みたいな顔パック? が命綱とか、冗談キツイかも」


 そして最後に、翼が部下がガスマスクを装備したのを確認してから、自らの頭にガスマスクを装備する。


 ーーそして遂にーー


 ブロロロロロロロ!と、装甲車のエンジン音が響き渡り、車内が激しく揺れ始める。

 十式装甲車が振動すると同時に、地下都市のゲート(出口)がゆっくりと開かれて、外の灯りが地下へ流れ込んできた。

 開かれたゲート(出口)を我が物顔で通り過ぎてゆく、十式装甲車。華白とカケル、そして12人の兵士を乗せて外の世界の地を走行する。


 ……地下都市から発ち、十式装甲車がコンクリートの道路を駆けてゆく。


 華白は装甲車の窓から、外の様子を恐る恐る目視した。


「こ、これが外の世界……今の伊吹町。ビルも、道路も、ぜんぶ廃墟になってる。空だって、紫一色。絵具をぶちまけたみたい……かも」


 毒森によって汚染され、荒廃しきってしまった伊吹町を見て、華白は青い瞳を震わせることしかできない。


「はッ…はあ…はあ…」

(こわい、かも……手が震えちゃう)


 すると、カケルが怯える華白の左手へ、そっと手をのせた。


「リン……大丈夫? 」


 彼の温かみを感じ、華白の緊張感がほんの少しだけ和らぐ。


「あ、ありがとう…カケル。一ミリだけ、気持ちが楽になった…かも」

「そうかい? なら、よかったよ」


(やっぱり私。この人の為なら…なんでもできる…カケルの為なら、多分100回死ねるかも)



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