99話「きみの『隣』にいる」
「……リン」
ドロドロに溶けたカケル右手が、涙でクシャクシャになった華白の頬をそっと撫でる。
「ボクの夢に、感染してくれるかい?」
「か、カケ、ルの……ゆめ?」
「うん。キミに、すべての『欠落した世界』を助けて欲しいんだ」
正直、その願い(夢)の意味はよく分からない。
だとしても、華白はカケルの望みならば何でも叶えてやる!と、強く決意した。
「やッ! 約束ずるッ! この約束は…永遠に破らないから! だから……」
「一人にしないで! 」と、すがりつこうとする、が……
「……迎えが、来たみたいだね」
数百もの毒蛍たちが、カケルと華白の周りで踊り閉幕の合図をする。
「そろそろ時間みだいだ。ボクは、いかないと」
カケルの体がキラキラとした幻想の灯火に包まれ、身体が光りの粒々と化し、ショタ男の体が砂のように崩れてゆく。
(カケルの体が、消えて……る?! )
「だ、だめッ……ダメェ」
華白はどんどん軽くなっていくカケルを抱きながら、涙を零すことしかできない。
すると、カケルは半透明になった指先で華白の涙をそっと撫でた。
「……大丈夫。どんなに足が震えたって……君は、もう諦めない」
「う、うぅ」
もはや華白には嘆くことしかできず、一言の返事すらもままならなかった。
「泣きそうになったら……いつでも、思い出して」
ヒラヒラと舞い踊る毒蛍たち。カケルの体そのものが「鮮やかな光の粒子」になって、人の原型が失われてゆく。
「僕はいつだって、君の『隣』にいるよ」
そして、愛野カケルは跡形もなく、この世界から『消滅』してしまった。




