仲間
「うちだ!うちのパーティを入れてくれ!」
「俺たちのパーティーははぐれ赤龍を討伐したことがある!絶対に力になるぜ!」
「ラインバード!後世だ!頼むから入れてくれ!!」
「これまでの酒場代のツケ、チャラにしてやる!だから入れてくれ!ってどこいったヌストぉ!!」
冒険者たの集まるテントの周りは異様な熱気に包まれていた。話がどこから漏れたのか、或いは最初から聞き耳を立てていた者がいたのか、冒険者で形成される救援部隊に入れば金貨100枚が貰えるという話は一瞬にして広まった。結果ヌスト、ラインバード、ギルの3人は帰り際冒険者連中に捕まり俺のパーティを入れろとどんちゃん騒ぎになっているのである。
ちなみに、ギル、ヌストの両名は面倒ごとをラインバードに押しつけ既にその場から消えている。
「あぁもううるさいねぇ!!一回鎮まんなさいよ!」
ラインバードの一喝に一様に冒険者たちは口をつぐむ。
彼女は”怪鬼”の異名を持つ冒険者。鬼の生まれ変わりと揶揄され、その怪力に基づく戦闘力は冒険者たちの中でも一目置かれる存在であった。
「いいかい、お前らみたいな荒くれ者が物事を決めるのに言葉なんて意味ないんだ。どうせ後から文句が山のように出てくるからねぇ・・・冒険者なら腕で決める!そうだろ!?」
「そうだな!」
「確かに!」
「当たり前よ!」
賛同する冒険者一同。
「文句はないね!!じゃあ各パーティー、一番の腕利きをだしな!募集するパーティーの数は10、試合形式はバトルロワイヤル、残り10名まで生き残った奴らが勝ちだ!」
「「「「おうよ!!!」」」
続々と集まる各パーティの代表者たち。賞金は100金貨、多額の金を前にしてならず者たちは今回の軍に参加してから一番のやる気を見せていた。ものの数分もしないうちに代表者たちが集まり、場は殺気に満ち溢れる。
「審査員は私が勤める!戦闘範囲は私たちに与えられた冒険者居住地全域、間違っても義勇軍の居住地まで行くんじゃないよ!今回に限っては協力も共謀もなし!漁夫の利は許す!不正したやつは私が直々に天誅下すから覚悟しな!!」
ラインバードが腕を振り上げ、それと同時に場の戦意が最高潮にまで達する。
「始め!!!」
腕を下ろした瞬間、戦意爆発、火蓋は切って落とされた。
瞬間立ち上る膨大な火炎球。数は50を超えるであろうか。その真下には一人の魔法使いが佇む。綺麗な金髪を腰まで流し、強気な笑みを浮かべる女性。ギルのパーティーメンバー、マリーその人であった。
瞬間放たれる火球。
「「「「「「「え?」」」」」」」
ほとんどの冒険者はその光景に呆然と声を出した。抵抗の余地もない開幕の一斉射撃。
「は、反則だろぉぉぉ!!!!!!」
着弾、轟音、撃沈。
残ったのはちょうど10名。
「ふふふ、ごめんなさいね。でもこれでちょうど10人ですねラインバードさん」
冒険者たちが倒れ伏す、死屍累々の光景。それを前にその状況を作り出した女性は可憐な笑顔を見せる。
「・・・・・・はっはははははは!!あんたいいねぇ!好きだよあんたみたいな強かな女!」
一瞬呆然としていたラインバードだったが、次の瞬間には前に佇む魔法使いに破顔した。
バトルロワイヤルや決闘というものは魔法使いが行うものではない。それは魔法を放つ前に詠唱を完了させねばならず、決闘の最中にそんなことをすれば魔法を発動する前に切り伏せられるのがオチであるためだ。
しかし、彼女は戦闘が始まる前に必要な詠唱を完了させていた。誰にも気づかれぬよう細心の注意を払い、小声で。
加えて、魔法使いの必需品である杖を剣の鞘に隠し、剣士に偽装した。誰にも彼女が魔法使いであると悟らせなかった。彼女の知恵を前に屈強な冒険者たちは一瞬で制圧された。
「ったく恐ろしい女もいたもんだ。”怪鬼”よりもよっぽど恐ろしいわ」
「違いねぇ、ま何とか防げたから良かったけどな」
火球を防いだ冒険者たちは生き残ったもの同士言葉を交わす。咄嗟に迫り来る火球に防御を回避を行い、危機を潜り抜けた熟練者たちである。
周りでは生き残った冒険者のパーティーがどんちゃん騒ぎ。
「あーこりゃ全員伸びてんなぁ情けねぇ」
そんな中マリーの活躍を見守っていたロルフは倒れ伏す冒険者たちをビンタをして起こしていく。
「くっそやってくれやあがったなぁ!!」
起きた冒険者たちは怒りをあらわにする。当然だ、不意打ちも不意打ち。騎士同士の決闘であれば許されたものではない。戦うまでもなく決着がついたのだ。
マリーを憎々しげに見つめ
「ぬあーしてやられた!!」
「おい誰だこの嬢ちゃんの近くにいたやつ!!!詠唱聞こえてないとかお前ら耳ついてんのか、あ!?」
すぐに視線を逸らすと負けたもの同士で争いはじめた。
誰もマリーを糾弾するものはいない。冒険者は良くも悪くも勝者が全て。勝つのであればルールの抜け穴も共謀も、バレないのであればルールを侵すことも許される。だからこそ誰もマリーを責めないし、なんなら戦いに参加していなかった冒険者たちはしてやられたパーティーメンバーをボコボコにしていた。
「何してんだお前ぇぇぇ!!」
「あんな華奢な女が剣士な訳あるか!!ちょっとは頭使えよぉぉぉ!!このみじんこ脳がぁ!」
「お、俺たちの一攫千金の夢がぁぁぁぁぁ!!!」
「バカ、アホ、カス、死ね!」
バシバシ、ゲシゲシ、ボコボコ。明らかなオーバーキル。意識を取り戻した冒険者たちの多くはもう一度意識を手放した。主に仲間の暴力が原因で
「あんた、ギルのパーティーメンバーだろ。前にあいつと一緒にいいるのを見たことがあるよ」
そんな様子を背景にラインバードはマリーに話しかける。
「は、はい!かの有名な”怪鬼”ラインバードさんに認知されているなんて光栄です!」
「そんな大層なもんじゃないよ、あたしは」
そう言うとラインバードはポリポリと頬をかき、気まずそうに言葉を続けた。
「これは言ってなかった私が悪いんだがギルからあんたらは救援部隊に入れるなって言われてんだ」
せっかく勝ったのに申し訳ないとラインバードはマリーに謝ろうとし、それをマリーは恐れ多いとばかりに手で遮った。
「やめてくださいラインバードさん!謝るのであれば私の方です!」
「?どういうことだい」
「私、ギルさんがどうせそういうだろうと思ってあえてこの選抜に参加したんです」
「あいつは俺たちを危険な場所に連れて行きたくないらしいからなぁ」
「ロルフさん!」
スキンヘッドを焚き火の火でテカらせたロルフはそう言うとマリーの頭をワシワシと撫でる。
やめてください!と手をはたかれので手を離し、ラインバードへと目を向ける。
「どうもラインバート、お噂は予々」
「あんたか、戦場で暴れ回ってるスキンヘッドってのは」
「おうよ、戦場で最も輝くスキンヘッドとは俺のことよ」
「あんたもギルとよくつるんでいるところを見たことがある」
「おう、俺はあいつの唯一の喋り友達だからな」
つるんでいるんじゃない、絡まれているんだと、ギルがここにいれば反論しそうな物言いに隣にいるマリーは苦笑する。
「あいつはよ、何でか知らねぇが俺たちと離れて戦いたがる。いつの間にか傍から消えて戦闘が終わったら帰ってくる」
「ギルさんいっつも傷まみれなんです。私たちにも協力させて欲しい、一緒に戦いたいと何度言っても聞いてくれないんです」
そう言うと悔しそうにマリーは俯いた、かと思うとバッと顔をあげ告げた。
「だから!私達の方からギルさんを追ってとっ捕まえることにしました!あの人が一人で戦おうとどこに行ったってどこまでも追い回して一緒に戦ってやる!そう決めました!」
ふんす!と拳を握り締め決意新たに意気込むマリー。その剣幕にラインバードは苦笑する。
「じゃあ何かい、今回はギルの言うこと無視して強引にでも救援部隊に入ってやるって感じかい」
「そうです!そもそも、私たちの言うことを聞かないギルさんの話を聞く必要ないですし!普通にお金も欲しいですし!」
「はは、そりゃそうだな嬢ちゃんが正しい!」
マリーの言い分に至極当然だとラインバードは頷く。
「つーわけでだ。俺ら二人も救援部隊に参加させてくれ。ギルには俺らの方から言っておく」
「了解した。だとさお前ら。ハイエナは帰った帰った」
ロルフらの意思を承諾し、周りで聞き耳を立てていた冒険者にシッシッとジェスチャーを送る。
「やっぱダメかぁ」
「よし、もう一回あいつボコそ」
「やけ酒だぁ」
マリーのパーティーが抜けるかと万一の期待に賭けていた冒険者はゾロゾロと各々のテントへと戻っていく。
「じゃあマリー早速ギルのところへと向かうとするか」
「はい!!」
(なんだい、あいつにもいい仲間がいるじゃないかい)
目の前の二人を見てラインバードは一人愚痴る。
夜は更け、月の光が2人の歩みを照らすかのように輝いていた。
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