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プロローグ

「はははははっっ!!!」




血濡れた丘に1人の男が立っていた。男は笑いながら涙を流した。


男の足元には首を断ち切られた敵が1人、そしてその周りには3人の仲間だった者達が倒れ伏す。


男が眺める先はモンスター達によって蹂躙されていく故郷。


気が狂っているほどに笑いがこみ上げるのはなぜだろう。


臓物が煮え繰り返りそうになるほどの怒りは何と呼ぶのだろう。




「ああああぁぁぁぁぉぁ!!!」


男は1歩、蹂躙される故郷へ向けて足を踏み出した。








男、ギルとその仲間で構成されたパーティーはその日もいつも通りの魔物の討伐を終え帰っている途中だった。


Cランク、冒険者でいう中堅にあたるそのパーティーは依頼達成率が90%を超えている優秀なパーティーだ。


彼らは自分達の力量を正確に把握していた。それ故に失敗なく自らにあった依頼を選び続けることができた。


この世界にはスキルと呼ばれる人が持つ才能がある。


強いスキルを開花させることができれば更なる上を目指すことができる。


しかし彼らには特別強いスキルは宿らなかった。


それでもめげす10年間の間研鑽を続け、丁寧に依頼をこなしてきた。


今日も無理なく依頼を達成し、その依頼金で麦酒を飲み、自分たちより早くランクを上げていく者達への愚痴を零すはずだった。


事は依頼の帰りに起こった。


ギル達は突如現れた男に襲われた。男は頭から1本の角が生えており肌は青白かった。この世界ではそれは魔人と呼ばれていた。


瞬き1つでギル以外のパーティーメンバーは致命傷を負った。ギル自身も身体に斜めに走る大きな傷を負った。咄嗟に反応し後ろに飛んだことが幸いしたようだった。


ギルが分かったことは2つ。


敵が自分達ではどうしようも出来ないほどの強者であるということ。そして自分もすぐに殺されるのだろうということ。


だがそう思い至る前に既に身体は動いていた。


仲間の死を悲しむ時間も絶望に心が砕ける時間もなく、ただ敵の攻撃に対しての反撃の剣を振るった。


冒険者家業10年で染み付いた身体の動きだった。


思考すらも置き去りにして繰り出した一撃は魔人の首を跳ねていた。


意味がわからなかった。急に身体から莫大な力が湧き自分より圧倒的に上の実力を持つ相手に反応すらさせずに首を断ち切ったのだ。


ギルはしばらく呆然とした後何が起きたのかようやく理解した。今もなお身体から湧き出る力。試しに剣を振るうと近くにあった岩が余波で砕け散った。


スキルが開花したのだ。10年間の研鑽のうち5年前からは1つもスキルを覚えることができなかった。それが今になってようやく身を結んだのだ。


体が震えた。


思わず口から言葉が漏れた。




「何で、何で今なんだよ!!今さらスキルが使えたって意味ねぇだろうが!リズもベートもソルも死んでたら意味ないんだよ!何がスキルだ、何が才能だ!誰1人仲間を守れないスキルなんて要らないんだよ!!!」




ギルに残ったのは凄まじい寂しさと耐えがたい悲しみだった。ギルは孤児で最初にできた仲間であった彼らは家族とも同義だったのだ。滂沱の涙が頬をしたっては落ちていく。身体から力が抜け、膝から崩れ落ちた。常に明るく輝いていた朱色の瞳は光をなくしてしまっていた。






失意の中にあるギルを起こしたのは地鳴りだった。


最初は地震だと思っていた、今のギルにとっては自然がどう動こうとどうでも良い些事だった。


だがそれが規則性を帯びていない揺れと気付いた時ギルは目を見張った。


唐突に現れた魔人、聞こえてくる地鳴り。


2つの事を結びつけて出た答えに、思わず笑いが溢こぼれた。


ギルが目にしたのは街を襲う万の魔物の群れであった。


あぁまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。


いとも容易く街の守りは突破され、街に魔物が流れ込む。


町の人達の泣き声が、悲鳴が、嘆きが響く。ギルの耳に聞こえるその声は怨嗟となり彼を焼く。


1歩、2歩、大地を踏み締める。


もうどうにもならないことは見たら分かる。


歩みは駆け足へと変わり、そして全速力の走りへと変わる。


1人で行っても死ぬことはわかりきっている。スキルの効果は切れ、反動からか身体も悲鳴を上げている。


街の故郷の人々の声が聞こえる。聞くに耐えないその怒号は自分と仲良かった人の物も混じっているのだろう。


そう考えるだけで悲鳴を上げる身体は、足は、腕は燃えるように熱くなる。


義憤にかられたのではない。仲間を殺され、故郷を襲われて凡夫が感じることなど知れたものであるはずである。


ドロドロとしたものである。


心の臓から溢れ出し、身体中に駆け回る。


怒り憎悪嫌悪恨みそれらを混ぜ合わせまだ足りない。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


復讐なんて生優しい言葉で言い表すことはできない、この不愉快極まりないものを何と呼ぶのか彼には分からなかった。









星暦567年

コストリア大陸の各地にてモンスターの大規模集団による攻勢”パレード”が発生。コスタリア大陸の人類生息域を大幅に蹂躙。これによりコスタリア大陸に誕をなす3つの大国バレン、アルファ、コイネによる三国同盟が成立。各国は大陸全土に及ぶモンスターの組織的行動からモンスターの最大格とされる将軍級をも超える個体が出現したと判断。三国はその個体を魔を束ねる者の王”魔王”と呼称した。

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