一縷の希望
「これで分かるだけは能力が分かりましたね」
「残りの方々は、現時点では分かりませんが、な」
一通り全員の能力を模索したところで塚原が呟くと、オタクもそれに同意を示す。
現在能力が判明しているのは十一人。
「ヤナギ」の「身体強化」、「塚原」の「バリア」、「ハルナ」の「事典」、「ハヤト」の「駿足」、「オタク」の「爆発」、「アヤノ」の「魔剣」、「タムラ」の「収納」、「ユウナ」の「火」、「ミヅキ」の「闇」、「リョウマ」の「飛翔」、「ミモリ」の「治癒」。
そして、腕を欠損したダメージから、気を失ったままの優愛を含め、迷彩服の男「黒島颯」、「冴山悠」、「ヒオ」、看護師だったという「高杉詩帆」、イヤホンを着けた寡黙な少女「永瀬日葵」、「七海薫」、軽薄な雰囲気の男「野々村陽介」、そしてカナタの九人だ。
(くそ……っ、なんで、異世界に来たのに僕は、何もできないんだ)
自身に宿っている能力が分からなかったカナタは、唇を引き結ぶ。
特別な何かになりたくて、自分を変えるために異世界に来たはずだったのに、結局何も変わらない事実に、悔しさを噛みしめる。
「ひとまず、これからすることは、みんなで役割分担をして生活していくこと。何としてもこの世界で生き抜きましょう」
そんな中、全員を見回したハルナは、励ますようにして呼びかける。
あえて明るく振る舞ってはいるが、その心にはこの世界に来てすでに命を落とした者達のことがこびりついているであろうことは想像に難くない。
「ん……」
「どうしたの?」
その時、たまたま隣にいたイヤホンをした少女が、何か煩わしさを感じているような落ち着かない様子をしているのを見て、カナタは声を潜めて尋ねる。
見知らぬ人――ましてや異性に話しかけることには抵抗があったが、能力が発現できなかった焦燥からか、少しだけ普段とは違う大胆な行動をとることができてしまった。
「なにか、ピリピリする」
「ピリピリ……?」
そんなカナタに、少女は曖昧な言葉を返す。
その曖昧な答えに怪訝に眉を顰めたカナタだったが、イヤホンをした少女は、その双眸に剣呑な光を灯す。
「この感じ、前にもあった」
つい先程、襲撃を受けた時にも同じ感覚を覚えたことをさ思い返していた少女は、その感覚に集中し、とある一点を指し示す。
「こっち」
少女の言葉に、カナタとそのやりとりに気づいていた面々が釣られるように視線を向ける。
次の瞬間、そこから姿を現したのは、先程ヤナギとアヤノが決死の思いで倒したものと同種の獣だった。
「うわああっ!?」
「きゃあああっ!?」
仲間を殺したものと同じ獣の出現にその脳裏に刻まれた恐怖を思い出される。
「また出やがったか。オイ、メガネ」
「メガ……そういう呼び方はやめてもらえませんか?」
そんな中、指の関節を鳴らすようにして闘志を漲らせたヤナギは、塚原――メガネに声をかけると前へと歩み出る。
「メガネは戦えない奴を守れ!」
「命令しないでもらえますか!」
抗議の声にも聞く耳を持たないヤナギの命令に反発しながらも塚原――メガネは、光の壁を生み出して自分と戦えない者達を守る。
それを視界の端に映しながら、ヤナギは太刀を抜くアヤノに一瞥を向ける。
「いくぜ」
「はい」
「ユウナさんと僕が牽制します」
ヤナギとアヤノが臨戦態勢に入ったのを見たオタクは、恐怖に声を震わせながら手をかざす。
「私!?」
「お願いします」
突然で名指しされて目を見張ったユウナは、オタクの言葉と獣を交互に見て覚悟を決める。
「ああ、もう!」
なかばヤケクソでやけくそでユウナが手を振るうと、そこから放たれた炎が一直線に獣へ向かって奔る。
当然そんな単調な攻撃など獣は難なく回避するが、同時に放たれていたオタクの爆弾が炸裂し、獣に爆風を叩きつける。
その爆発を発生させた張本人――迷彩服の青年は、モデルガンを構えた態勢で息を吐く。
オタクの能力である爆発は、放たれた光弾が何かに命中するか刺激を与えて初めて爆発する。
その特性を把握していた青年は、モデルガンの弾で爆発を誘発したのだ。
「今だ!」
その爆風で生じた隙を逃さず、ヤナギとアヤノが獣に向かって切り込んでいく。
「オラァ!」
「はあっ!」
ヤナギの拳が獣を殴打し、アヤノの斬撃がその首を切り落とす。
鮮やかな連携によって獣は討ち取られ、鮮血を噴き上げながらその場に崩れ落ちる。
先程は決死の思いで倒した獣を、能力を把握したうえで連携したことで、圧倒して倒すことができた。
その事実は全員に希望を抱かせるには十分だった。
「凄い……」
(僕も、あんなふうに戦えたら……)
獣の亡骸を一瞥し、勝利に歓喜するメンバー達の声を聞きながら、カナタは羨望と嫉妬に駆られていた。
地球で、そしてこの世界で憧れた自分ではない自分。ヤナギやアヤノと同じとまではいかないが、共に喜びを分かち合える場所に立ちたいという想いがカナタの中でより強くなっていた。
「お疲れ様」
「ああ。俺より、あっちの嬢ちゃんに礼を言いな。不意を突かれてたら、こんなふうに楽には勝てなかっただろうからな」
「私もそう思います」
「そうね――ありがとう。あなたが教えてくれたから、対処することができたわ。けど、なんであそこに獣が至って分かったの?」
この勝利をもたらしたヤナギやアヤノはもちろんだが、獣の襲撃を事前に察知し、警戒していたことで安全が確保されたことは間違いない。
感謝と共にハルナがイヤホンを着けた少女――「永瀬日葵」が尋ねるが、当の本人は恥ずかしげに目を逸らしてしまう。
そんな日葵に代わってカナタが先ほどのやり取りをかいつまんで説明すると、それを聞いたオタクご思案気に口を開く。
「もしかしたらそれが彼女の能力なのかもしれません。危機察知とでもいうべきか、そういう能力なのではないでしょうか?」
「なるほど」
その言葉に合点がいったようにハルナが呟くと、迷彩服を着た男性がゆっくりと手を上げる。
「多分、俺も能力が分かった」
「ええと……」
「黒島颯だ」
あらためて名乗った迷彩服を着た青年――「ハヤテ」は、自分が気づいた能力について説明する。
「おそらく、隠蔽系の能力だ。この銃に消音機能はないが、撃っても音がしない。
それに思い返せば、さっき襲われた時も俺には目もくれなかった。見つかりたくないと思っていたからかもしれない」
自身の手の中にあるモデルガンへ視線を落とし、先程の戦いについても思い返したハヤテの説明に、オタクが嬉々として目を輝かせる。
「おお! 自分にも適応できるなら、ステルスのように気配を消せるのかもしれませんな!」
検証は必要だが、かなり応用力の高い能力を有しているらしいハヤテに、一同の期待が寄せられる。
「能力の検証もしたし、とりあえずコテージに戻りましょう」
その様子を見ていたハルナが言うと、メンバー達は各々コテージへと戻っていく。
未だ能力が判明しないことを口惜しく思いながら、カナタは自分の中にある想いを振り払うように歩を進める。
能力について判明したのはもちろんだが、獣を倒すことができた事実が絶望感を緩和し、どこか晴れやかな面持ちを浮かべ、和気藹々とした様子でコテージへと戻っていく。
「……うぅ」
少しだけ楽観的な気分になっていたからだろうか。――冴山悠と名乗った男が怯えた表情でなにもない場所を見つめていたことに、誰も気づかなかった。
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
ミヅキ 「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
ハヤテ 「黒島颯」
迷彩服を着た男。 能力「ステルス」
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。
リョウマ 「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
ヒオ 「鈴木日緒」
ギャルのような女性。
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
ハヤト 「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
ヒマリ 「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」
「七海薫」
平凡な女性。
「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
アヤノ 「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。