力を望む心
「さて、では他の方の能力の検証をしましょうか」
「まずは、能力を使うタイプを探しましょう。とりあえず、能力が分かっていない人はそう念じてみて下さい」
塚原の言葉を引き継ぐように春奈が声をかけると、外に出た参加者達が思い思いに何かを出そうとする姿勢を見せる。
(僕も、なにか力が……!)
期待に胸を膨らませてそれに参加したカナタだったが、なにかが発生する気配はない。
だが、それは誰もが同じだった。
唯一の例外は、おさらいのために力を使った綾乃。普通の日本刀が黒みを帯びた剣に変わり、怪しく輝く。
「彼女は使えるのよね……この系統の能力を持っている人はもういないのかしら?
……いや、待って。もう少し具体的に使う能力を想像しないといけないのかも」
その様子を見ていた春奈は、思案気に呟き、一つの閃きを得る。
その言葉に、「どういうことだ?」と言わんばかりのヤナギや、一部のメンバーの視線を受けた春奈は、自分の考えを伝える。
「さっき二人が言ってたでしょ? 『速く走りたいと思った』、『戦う意思を持った』って――つまり、刀で斬ろうと思ったってことじゃない?」
「なるほど! 能力を使うためにはどんな力を使うのかをイメージする必要があるということですね。では皆さん、『火を出すぞ』と念じてみて下さい」
それを聞いたオタクは、合点がいった様子で声を発すると、全員に声をかける。
(炎、火よ、出ろ……!)
言われた通り、懸命に念じるカナタだったが、その手から炎が生み出されることはなかった。
「あ、出た」
その時、煌々と燃える赤い炎を出したのは、顔立ちは整っているが地味な印象の女性だった。
「火はありがたいわね。戦う以外にも明かりとか使い道が多いもの。えっと――」
「石田優菜です」
「ユウナさんね」
あらためて名乗った優菜――ユウナが能力の判明している側へと移動する。
(僕だって――)
「次は『水を出すぞ』と念じてください」
それを羨ましく思いながら見送ったカナタは、続くオタクの言葉に水をイメージする。
だが、その力は誰もが発現することはなく、オタクが思いつくままに属性を並べていく。
「冷気」、「氷」、「風」、「電気」、「土」、「砂」、「土」、「光」、「闇」――
「あ」
その時暗い闇を放ったのは、胸元の大きく開いた服を着たグラマラスなスタイルの女性だった。
「なんだか微妙……」
「闇は羨ましい……っ」
ある種の人間ならば歓喜しそうな力を得たものの、当の本人は微妙な表情を浮かべる。
実際、オタクは悔しげな表情をしていた。
その女性――江口美月ことミヅキが能力判明側へと移動するのを待ってオタクは、能力の検証を再開する。
「次は『重力』、『爆発』――!」
瞬間、オタクの手から放出されたオレンジ色の光球が正面の木に命中し、爆発を引き起こす。
「お、おおっ!」
その爆風に煽られたオタクは、驚愕と歓喜の入り混じった声を上げる。
「これが、僕の能力……!」
「感極まってんじゃねぇよ」
感動に打ち震えているオタクに、ヤナギは辟易したように言う。
「とりあえず、属性系は一通り試したので、次は違う系統も探ってみましょう。
そちらの彼のように、スピードが特化しているという可能性もあります。あ、あと一応同じ能力が重複していないかも確かめねばなりませんな」
「橘隼人です」
「了解です、ハヤトくん」
ハヤトを一瞥したオタクは、この場にいる全員が理解を共有できるように説明する。
肉体の能力を向上させるという点では似ているが、全てが強化されているヤナギとは異なり、ハヤトはスピードだけしか強化されていない。
このように身体能力の一部への特化、あるいは身体が伸びる、変身するといった変則的な能力の可能性も調べる必要がある。
「色々あるんだな」
嬉々として能力判別を楽しむオタクを見て、ヤナギは思わず呟く。
「ちょっといい?」
「なに?」
その時手を挙げたギャル風の容姿をした少女に、春奈が応える。
「鈴木日緒」
春奈の言葉に名乗った日緒――「ヒオ」は、未だ能力が判明せず、模索しているメンバーの一人を見て言う。
「あたし見てたんだけど、あんた空飛べるでしょ?」
「ッ!」
ヒオに指定された男――「桜庭竜馬」は、目に見えて狼狽する。
その様子は、明らかにその指摘が事実であることを証明していた。
「そうなんですか?」
「さっき化け物に襲われたとき、上に飛んで助かってたのを見たんだから」
塚原がヒオと竜馬の二人を交互に見ながら尋ねる。
「飛行能力! それは、願ってもない力です! 上から見渡せれば、地形を把握することができますし、人がいる方向を見つけ出せるかもしれません」
ヒオの証言を聞いた春奈は、その瞳に希望の光を灯して言う。
現状の最大の問題点は、現状を把握する情報が少ないことだ。
ここが異世界であり、生命の危険すらあることはわかりきっている。
だが森を抜けるにしても、人里を探すにしても何の情報もない。
主催者からの説明はない。地図もない。知識もない。情報を得る手段もない。
そんな中で上空から周囲を俯瞰できる能力となれび、その価値はまさに計り知れない。
「……り、です」
だが、興奮していく周囲とは裏腹に、当事者である竜馬は青褪めた顔で言葉を絞り出す。
「え? 何?」
それを聞き取れなかった春奈があらためて尋ねると、竜馬は意を決して言い放つ。
「無理です!」
「無理って、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう? 私達が助かるためには――」
それを聞いて語気を鋭くした塚原を手で制し、春奈は落ち着いた声音で言葉を続ける。
「確かに、空にも怪物がいる可能性はあるから怖いのは分かります。
でも、どうかその力を貸してもらえませんか?」
先程獣に食い殺された人を見たばかりで、上空に同様の脅威を想像するのは当然のことだ。
明らかに怯えている竜馬に、春奈は優しく慰めの言葉をかけて頭を下げる。
竜馬が怪物に襲われることを恐れているように、他のメンバーも、自分が殺されるかもしれないと怯えている。
生き残るためには、最大限の安全を確保しつつも、時にリスクを取る必要がある。
そしてそのために竜馬の飛行能力は必要不可欠な力だった。
「違います! いや、違わないけど、そうじゃなくて、その……俺――」
春奈の言わんとしていることを理解しつつも、竜馬は言葉を濁して逡巡し、やがて意を決して言う。
「俺、高所恐怖症なんだよ! 高いところは無理なんだ……」
「えぇ……」
絞り出すような声で竜馬が明かした事実に、誰からともなく声が零れる。
「空を飛べる能力者が高所恐怖症って……宝の持ち腐れもいいところじゃん」
そんな中零れたヒオの呟きに、リョウマはその場にうずくまるようにして落ち組んでしまう。
「……だから、言いたくなかったのに……っ」
落ち込んだ様子のリョウマは、その後の能力を見出した者達に合流したものの、その整った顔に暗い憂いの色を浮かべていた。
(僕にもなにかできれば……違う。あの二人は、誰かに何も言われなくても、特にあの子は何の力が無くても戦おうとしていた。戦おうとしたから、あの力に目覚めることができたんだ。
それなのに僕は、力がないことを理由になにもしなかった。
死ぬのが怖くて、怖い思いをしたくなくて、何も言われないことを理由に、何もしないことを正当化していただけだった)
次々に能力を見出していくメンバーを一瞥したカナタは、拳を握り締めて心の中で自らを省みる。
命の危機にもかかわらず、勇敢に戦ったヤナギと綾乃。
我が身を顧みず怪我人を助けようとしたハヤト。
懸命に命を救おうとした美守。
みんな、力があったからそうしたのではない。
彼らには最初から意思があった。
力を得ても彼らと同じようになれるかはわからない。
だが、せめてそうしなければ自分は彼らと対等になれない。
なにより、そのために異世界へと来たのだ。
(僕だって、なにかできるはず……!)
決意を新たにしたカナタは、自身を奮い立たせるように拳を握る。
だが、カナタは自身の能力を見出すことはできなかった。
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
「黒島颯」
迷彩服を着た男。
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。
「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
「鈴木日緒」
ギャルのような女性。
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。
「七海薫」
平凡な女性。
「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。