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壊滅(後)



「みんな逃げて! 一人でも多く!」


 ハルナのその言葉を聞いた時、リョウマはいち早く空へと逃げた。


 本当は、最初にメガネが殺された時から、そうしたかったが、仲間意識――あるいは、この後勝利した場合、真っ先に逃げたことを非難されることを恐れてそれができなかった。

 だが、実質的なリーダーであるハルナがそう言ってくれたことで、逃げても許される状況ができた。


(ごめん、皆。俺がみんなを連れて飛ぶことができたら――)


 リョウマの飛行能力は、リョウマ自身の身体能力に依存するため、人を抱えて飛ぶことは難しい。

 一人くらいならできたかもしれないが、そんな余裕は生存危機にあるリョウマにはなく、心の中で許しを乞いながら、免罪符を盾に一人で一目散に逃げだしたのだ。


 ハルナの事典によれば、ニアドラゴンには翼もなく、遠距離攻撃もないため、上空まで逃げればその脅威が届くことはない。


 だが、ニアドラゴンの脅威と恐怖に我を忘れていたリョウマは失念していた。


 なぜ、空を飛んで橋を渡るという選択肢をこれまで取らなかったのか、飛行能力を得て高所恐怖症を克服した自分が、その能力を遣わずにここまで来たのかを。


「――っ!?」


 それを思い出した時、リョウマの眼前には全長五メートルにも迫る巨大な猛禽が迫っていた。

 天を遮る翼は雄々しく勇壮で、下から見上げていたならば畏敬の念すら抱いていたかもしれない。


「ひ、ひいっ!」


 だが、自身へと迫るそれは、明らかに捕食者の目をしており、リョウマは恐怖に心臓を竦ませて一目散に逃走を図る。


 だが、リョウマとその猛禽の飛行速度は比べるべくもないものだった。


「ガッ!」


 背を向けて逃走を図ったその瞬間に鋭利な鉤爪を持つ足に捕らわれたリョウマは、そのまま反転した空の覇者に連れ去られてしまう。

 その運命は語るまでもない。その身を嘴で引き裂かれ、恐怖と苦痛の中で巨鳥の食料にされるのだ。





 闇が怖かった。


 大学を出て、それなりの企業に就職していた。社会人としての生活は学生生活とは違ったが、それなりに充実していた。

 だが、それも最初だけ。

 ある時から、帰り道で視線を感じるようになった。最初こそ気の所為だと思っていたが、ある時に気づいてしまう。


 ――自分を見ていたその人物に。


 端的にいえば、その男はストーカーだった。見知らぬ人物に追い回される恐怖に警察に駆け込み、一応当人には接触禁止の沙汰が下りた。

 だが、その恐怖から夜も電気をつけていないと眠れなくなり、仕事を辞めて引っ越し、夜でも明るい飲食店で働くことにした。


 身体を売るのは抵抗があったため、いわゆるキャバクラで働いていたが、その日々に満足していたわけではない。

 いつかあの男が現れるかもしれないと怯えていた。

 その生き方しか選べなくなってしまった。だから、メールが来た時に選んだのだ。あの世界を棄てて、こちらの世界でやり直す道を。


「……っ」


 逃げるために全力で拡散した闇を切り裂いたニアドラゴンの手で地面に叩きつけられた女――ミツキは、その一撃で瀕死の重傷を負って走馬灯を見ていた。

 血に塗れたその身体がニアドラゴンの鋭い鉤爪を持つ手で掴まれ、大きく開かれた巨大な顎の中へと消える。


「グルルル……」


 ミツキを呑み込んだニアドラゴンが周囲を見回した時、闇の残滓だけを残して、その場には誰の姿もなくなっていた。



※※※



「ハッ、ハッ……」


 森の中へと逃げ込んだハヤトは、肩で息をしながら、身近にあった木に手を突く。

 その手は先ほどまで身を置いていた絶望の恐怖によって震えており、ニアドラゴンの姿がないことを確認して、安堵したハヤトは膝からその場に崩れ落ちる。


「なんだよ、あれ。あんなの、反則だろ」


 その場に座り込んだハヤトは、頑丈そうな木を背にしてもたれかかり、恐怖に震える声を絞り出す。


「なんで、なんでこんな……」


 ニアドラゴンの圧倒的な力を絶望的な死の恐怖を目の当たりにしたハヤトは、涙を流して嗚咽を漏らす。



 ハヤト――「橘隼人」という人物は、一言で言えばリア充である。


 両親は早くに離婚して母子家庭。だが、そのことに特に不満はなかった。家族友人含めて人間関係も良好で、勉強も運動も人並み以上にできた。


 しいて悩みを言うならば、「将来なりたい職業はない」くらいのものだったが、別にそのことを真剣に悩んでいたわけでもない。

 特別な人間になりたいという願望がなかったわけではないが、別になれなかったらそれはそれで構わないという程度の、それなりの人生を送っていた。


 そんなハヤトが異世界移住に参加した理由はなにかと聞かれれば、偶然届いたメールの内容に好奇心を持ってしまったから。若気の至り、気の迷いと言い換えてもいい。

 趣味らしい趣味もなく、ただネットの海を漂って過ごすだけの日々に、刺激を求めてしまった。


 ハヤトにとって、地球での日常はさしたる不満もないものだった。

 だが、同時に執着し、固執するものでもなかった。


 平凡な日常が何よりも尊いと、知識で、頭の中では分かっていながら、少しだけ非日常に憧れ、魔が差してしまった。


 そんなハヤトが駿足の能力を得たのは、社会がどれだけ激動であっても、緩慢に感じられる変わらぬ日々からの脱却を――目まぐるしく過ぎる時間を感じたかったからなのかもしれない。



「……」


 ニアドラゴンの恐怖と、現実の絶望に打ちのめされたハヤトは、そこから逃げることに成功した安堵と悲壮感故に油断していた。

 ――忘れてしまっていた、と言い換えてもいいかもしれない。


 この島の脅威は、ニアドラゴンだけではないという当たり前のことに。


「?」


 うずくまり、俯いていたハヤトは、何かが擦れるような奇妙な音に気づいてゆっくりと周囲を見回し、おもむろに上を見る。


 そこには、人間の身の丈をはるかに超える巨大な蛇が大木に絡みついてハヤトの間近まで迫っていた。


「ひっ」


 悲鳴を上げるが早いか、すでに間合いに入っていた大蛇は目にも止まらぬ瞬発力でハヤトに襲い掛かり、その身体を呑み込む。


 速さに特化したハヤトの能力よりも、大蛇の瞬発力の方が優れていた。さらにハヤトは腰を下ろしており、逃げるために更なる時間が必要な状況。

 そんな状態で、大蛇がハヤト(獲物)を仕留めそこなうはずはなかった。


「あ、あっ……」


 一瞬で喰らいつかれ、その身体に絡めとられたハヤトは、身体に巻き付く大蛇の圧倒的な膂力と、刃のように鋭い鱗に身体を突き立てられ、呼吸もままならない状態で絞め殺されていく。

 血に塗れ、小さな呻きと共に大蛇の腹に呑み込まれていくハヤトはすでに意識を失っており、自身の死を知ることすらなく、その生涯に幕を下ろした。



※※※



 ニアドラゴンとの戦いの後、夕暮れが近くなってきた頃には、空に黒い雲がかかり、そこから大粒の雨が降り出していた。


 それはまるで、異世界(地球)からの来訪者達が多くの仲間を失い、絶望と共に壊走した胸の内を表す涙のようだった。


「ヤナギさん、大丈夫ですか」


「ああ。全然大したことねぇよ」


 雨の中、大きな木の陰に身を顰めたカナタは、背負っていたヤナギを降ろす。

 呻くように答えたヤナギは気丈に振舞っているが、その腕はあらぬ方向に曲がり、口からは血が零れている。


(多分、ものすごい重傷だ。ミモリさんさえいれば、治してもらえるのに、どうしたら……)


 深手を負ったヤナギの姿を見て、カナタは動揺する心を抑えるように唇を噛み、拳を握り締める。


 これほどの傷を負っている人物を応急処置する知識も技術もカナタにはない。唯一の可能性はミモリの治癒能力だが、本人がここにいない以上どうすることもできない。

 このままではいずれヤナギは命を落としてしまう。仮にヤナギを置いてミモリを探しに行ったとしても、万一森に潜む獣に襲わるようなことがあれば成す術もないことは明白だ。


(なんとかして僕達の意場所を伝える? でも、仮にできたとしても、もしミモリさん達が誰か戦える人と一緒にいなければ、かえって危険だ)


 ヤナギを助けたい。だが、やみくもに探しても、ミモリを見つけることは困難であり、呼び寄せるにしても、戦えないミモリを呼び寄せることは、彼女の身の危険を脅かしかねない。

 打つ手が見いだせず、降りしきる雨の音が聞こえないほどに思考を回転させていたカナタは、不意に草が不自然に揺れる音を感じ取って顔を上げる。


「カナタ君?」


 その時、生い茂る木をよけて姿を見せたのは、ギャルの出で立ちをした少女――「ヒオ」だった。


「君は……!」


「やっと見つけた」


 驚きに目を丸くするカナタとは対照的に、ヒオは安堵の表情を浮かべる。


(そうだった。彼女の能力は……)


 その様子を見て、カナタはヒオの能力が「ビーコン」――仲間の位置を把握することができる能力であることを思い出す。


「もう。何度も呼びかけたのに、無視するんだから! 気絶でもしてるのかと思って心配したじゃん」


 そんなカナタの姿に、ヒオは不満を露わにする。


「え? ごめん、気付かなかった」


 ヒオのビーコンは、仲間の位置を把握し、相手の頭の中――心に直接連絡を取ることができる優れた能力だ。

 だが、ヤナギのことでいっぱいいっぱいになっていたためか、カナタはその呼びかけに気づくことができていなかった。


「その話はあとで」


 その時、ヒオの後ろから現れたミモリが真剣な声を残してカナタの隣をすり抜け、ヤナギの元へと駆け寄っていく。


「ヤナギ!」


 そんなミモリを追い越すような勢いでヤナギに駆け寄ったのは、安堵と不安の入り混じった表情のハルナだった。

 ミモリが傷ついたヤナギに治癒の能力を施すのを見て、カナタはその表情に安堵の色を浮かべる。


(よかった)


「……お前ら、無事だったんだな」


「ええ」


 苦痛に声を歪めながらも、普段通りに振る舞うヤナギを見て、ハルナが涙を流す。


「先に合流してたんだ。まあ、普通に、逃げた方向的に出会いやすかったってだけだけど」


 その様子を見守っていたカナタに少し沈んだ声で言うヒオの背後には、アヤノとヒマリの姿があった。


「ありがとう。おかげでヤナギさんは助かるよ」


 ミモリの治癒を受けているヤナギを見て胸をなでおろしたカナタの感謝の言葉に、ヒオは憂いを帯びた表情を浮かべる。


「だね。でも、もう……」


 声を震わせるヒオと、暗い表情を浮かべるアヤノとヒマリを見たカナタは、その言葉が何を言いたいのかを理解していた。

 ヤナギを治療しているミモリと、それを見守っているハルナ。誰もが、現状を理解していた。


(そうだ。僕達は負けたんだ)


 目の前で次々と命を奪われていった仲間達のことを思い返し、カナタの頬を涙が伝う。

 それは、降りしきる雨に紛れたが、誰もがその現実に打ちひしがれていた。


「あたしの能力で分かってるのは、今生きてるのはあたし達含めて――」


 降りしきる雨の中、ゆっくりと言葉を紡いだヒオの言葉に、カナタは耳を傾ける。


「十一人よ」


(じゃあ、九人も……」


 ヒオの口から明かされた生存人数に絶望するカナタに、治療を受けているヤナギを一瞥したアヤノが重い口を開く。

 


「私たちは、これからどうすればいいのでしょうか」





浅野由紀子あさのゆきこ」 死亡


 女子高生か女子大生らしき女性。


生駒優愛いこまゆあ」 死亡


 大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。 能力「悪運」



ユウナ 「石田優菜いしだゆうな」 死亡


 顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」



ミツキ 「江口美月えぐちみつき」 死亡


 胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」



オタク 「小田拓也おだたくや


 オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」



ハヤテ 「黒島颯くろしまはやて


 迷彩服を着た男。  能力「ステルス」



権藤大河ごんどうたいが」 死亡


 色黒の男。



斎藤朝陽さいとうあさひ」 死亡


 少し派手な印象の男性。



イツキ 「九条樹/冴山悠」 死亡


 冴えない印象の男性。

 恋人の冴山悠本人を誤って殺してしまい、逃げるためにその名前を騙って紛れ込んだ。 能力「霊視」。




リョウマ 「桜庭竜馬さくらばりょうま」 死亡


 顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」



ミモリ 「式原美守しきはらみもり


 少女。能力「治癒」




ヒオ 「鈴木日緒すずきひお


 ギャルのような女性。 能力「ビーコン」



高杉詩帆たかすぎしほ


 明るく人当たりのよさそうな女性。



ハヤト 「橘隼人たちばなはやと」 死亡


 好青年。 能力「駿足」



タムラ 「田村健吾たむらけんご


 ふくよかな体型の男性。 能力「収納」



メガネ 「塚原敬つかはらけい」 死亡


 知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」



ヒマリ 「永瀬日葵ながせひまり


 イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」



カオル 「七海薫ななみかおる」 死亡


 平凡な女性。幼い頃に川で溺れて以来、重度の水恐怖症でカナヅチ。能力「水中活動」



ヨースケ 「野々村(ののむら)陽介ようすけ


 髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。能力「不眠不休」



アヤノ 「氷崎綾乃ひさきあやの


 日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」




ハルナ 「美作春奈みまさかはるな


 清楚な印象の女性。 能力「事典」




宮原誠義みやはらせいぎ」 死亡


 中年男。




ヤナギ 「柳克人やなぎかつと」 


 強面の男性。 能力「身体強化」




カナタ 「結城叶多」


 平凡な少年。能力「シンクロ」


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