表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

壊滅(前)



「アヤノ!」


 眼前で咀嚼され、胃の中へと呑み込まれたメガネを見たヤナギは、怒りに満ちた声でアヤノに声をかけて駆け出す。

 それが何を意味しているのかを察したアヤノは、手にしていた魔剣を投げ渡す。


「オオオオッ!」


 アヤノの魔剣を借り受けたヤナギは、激情に任せた咆哮と共にそれを力任せにニアドラゴンの首へと突き立てる。

 身体強化によって強化された破格の膂力に魔剣の破壊力を加えたその刺突は、ニアドラゴンの外殻を砕き、深くその身体に突き刺さる。


「ギ、ギャアアッ!」


「刺さった!」


 苦悶の声を上げたニアドラゴンの声にカナタが目を瞠ったと同時に、魔剣の変化が解除されて元の真剣へと戻り、さらに暴れる巨体に振り落とされたヤナギの身体が宙に舞う。


「しまっ――!」


 瞬間、自身へと迫るニアドラゴンの尾に目を瞠ったヤナギは、反射的に腕を構えて防御する。


「ガハッ!」


 だが、ニアドラゴンの巨躯から生み出された尾の一撃の衝撃は想像を絶し、ヤナギの腕があらぬ方向へと曲がって吹き飛ばされる。


「ヤナギさん!」


「ヤナギ!」


 宙を舞い、地面に叩きつけられて何度も跳ねるヤナギの姿にカナタが息を呑み、ハルナが悲痛な声を上げる。


「ハルナ殿!?」


 思わず反転し、ヤナギの元へ駆け寄ろうとしたハルナは、オタクの言葉で我に返り、混乱する心を理性で押さえつけて叫ぶ。


「みんな逃げて! 一人でも多く!」


 それは、ニアドラゴンからの撤退――敗走を意味するものだった。

 すでに一部の非戦闘員達は、各々が森へと逃げ戻らんと駆け出しており、カナタやヤナギといった残った者達にそれを命じるためのもの。


「ヤナギさん」


「すまねぇ」


 それを聞くなりヤナギの元へと駆け寄ったカナタは、その身体を抱え上げて逃走を図る。


「こっちだ!」


 それを見ていたハヤトは、カナタとヤナギを生かすため、手近にあった石を投げてニアドラゴンにぶつけて気を引く。

 自身の能力である駿足を以てすれば、ニアドラゴンからでも逃げられると考えたハヤトは、そのままニアドラゴンに背を向けて全力で駆けだす。


 だが、ニアドラゴンはそんなハヤトの挑発に乗ることなく、そのまま地を蹴って逃げた非戦闘能力者達を追う。



「うそだろ!?」


「いや! 死にたくない!」


 真っ先にその標的になったイツキが目を瞠り、優愛が以前腕を食いちぎられた恐怖を思い出して声を張り上げる。


「――っ!?」


 瞬間、イツキは足をもつれさせて、体勢を崩す。


 事故とはいえ、恋人を殺め、その名を騙ってこの移住へ参加した男は、その瞬間、追い付いてきたニアドラゴンの口の中へと呑み込まれる。


「ひ……ッ」


 それを見て恐怖に顔を引き攣らせた優愛が逃走を図るが、ニアドラゴンの爛々とした瞳はその姿を次の獲物として定めていた。


 周りにいた誰も、本人すら気づくことはなかったが、優愛の能力は「自身の生存確率を高める」――いわば、〝運〟ともいえる確率を操作するものだった。

 先程イツキが足をもつれさせたのも、最初に襲われた時に腕を食いちぎられながらも死なずに済んだのも、ミモリの治療が間に合ったのも、全てその能力によるもの。

 不幸の最中でも、生き残ることができる幸運――「悪運」が作用したが故。


 だがその能力も、あくまで確率を上げる(・・・・・・)ものでしかない。つまり、どうしようもない絶望的な状況を覆すほどの運命への干渉力は持ちえない。


「あ、あ゛ああっ!」


 そしてその能力によって、優愛は一口でニアドラゴンに食い殺されることができなかった。

 巨大な牙に下半身を挟まれながらも、頭部や心臓が無事だったために即死することができず、激痛に悲鳴を上げる。

 口からは血が吐き出され、痛みと恐怖に歪んだ顔は、真っ青に青褪めていた。


「あっ、あ、ぐ……っ」


(いや! いやよ! まだ死にたくない!)


 半身を食われ、言葉にならない苦悶の呻きを漏らすしかない優愛の脳裏には、今日までのことが走馬灯のように巡っていた。


 見た目も性格も良い素敵な男性に見初められ、仕事もプライベートも充実した生活を夢見ながら、運悪く(・・・)手に入らなかった。

 好意を寄せた男性は別の女と結ばれ、婚活をしても希望通りの男には選ばれない。言い寄ってくるのは年収も条件も低い男ばかり。

 だから優愛は異世界に来た。本当の(・・・)、あるべき自分の人生を手に入れるために。


(助けて! 助けて、誰か! お願いだから、まだ死にたくない!)


 だが、それもそう長い時間ではない。首を軽く振ったニアドラゴンが再び口を開き、半分だけ咥えていた優愛の身体を一口でその巨大な顎の中へと呑み込む。



「……もうだめね。できれば試したくはなかった(・・・・・・・・・)んだけど」



 その様子を見ていた参加者の一人「七海薫」――カオルは、乱れた呼吸を整えて、覚悟を決めた様子で呟く。


(私達の能力は、自分の負の面が影響してる……その話が本当なら、私の能力は分かり切って(・・・・・・)いる)


 異世界へ招かれた者達が得た能力の法則を聞かされた時点で、カオルには自身の能力に見当がついていた。

 だが、それが分かっているからこそ、使わずに済むならそれに越したことはない――「使いたくない」と考えて、誰にも明かさずにいたのだ。

 なぜならそれは、リョウマと同じ理由だったから。


(子供の頃、川で溺れてから、私は水恐怖症のカナヅチ。でも、私は水を出したり操ったりできなかった)


 オタクの能力分析の際に、自分が水を出したり操ったりできないことは確認済み。ならば、可能性は一つしかない。


 森に逃げるよりも近い、崖へ向かって走ったカオルは、そのまま意を決して宙へと身を投げ出す。


(私の能力は、「泳ぐ」能力!)


 崖下に広がっている海へと向かって落下していくカオルは、死と落下と水――三重の恐怖に顔を唇を引き結ぶ。


 あくまで推察、可能性ではあるが、能力の法則を知った後、お風呂でお湯に顔を付けたカオルは気付いた。

 ――自分が水の中で呼吸できる(・・・・・・・・・)ことを。


「ッ!」


 全身を叩きつけるような水の衝撃を感じながらも、カオルは崖の下に広がっていた海の中へと身を投じることに成功する。


(水、怖い……! でも、そう。でも……)


 水に身体を打ち付けた痛みで全身が痺れるが、能力のおかげなのか、あるいは強化された身体能力故なのか、意識を失うこともなく、カオルは海の中でもがくことができた。

 普通ならば、口の中に入ってくる海水にパニックを起こし、溺れていてもおかしくない。だが、今のカオルは、海中でも普通に呼吸を行うことができる。


(やっぱり、そうだわ。彼と同じ……)


 水の中に落ちてもパニックにならず、まるで普通に地面の上にいられるような状態であることに気づいたカオルは、安堵と共に海面へと浮き上がる。

 その位置からは、すでに崖の上の様子を見ることはできないが、ニアドラゴンの咆哮と、時折見える爆炎がまだ戦い――壊走が続いていることを教えてくれる。


「ごめんなさい。普通に脱出できたなら、こんなことをするつもりはなかったけれど、私は死にたくない」


 カオルとしても、これは不本意な決断だった。別に仲間達を裏切りたかったわけではないし、利用したつもりもない。

 普通にニアドラゴンを倒して脱出できるならば、協力することに何の不満もなかった。

 だが、こうして敗北した今、ここで殺されるくらいならば、自分の命を守るために一人で脱出するのはやむを得ないことだ。


「急いで陸に上がらないと。海の中にだって、恐ろしい化け物がいるはずだから」


 自身の罪悪感を打ち消すように弁明を独白したカオルは、仲間達への謝罪と共に身を翻す。


 海の中に逃れたからと言って安心することはできない。なぜなら、海の中にも恐ろしいか怪物がいることなど分かり切っている。

 一刻も早く地面の上――対岸までとはいかずとも、橋の上に戻ることができるか、一時様子を窺える場所へ逃げる必要がある。


(すごい。凄いわ。全然泳げなかったのに、まるで今まで水の中で生きてきたみたいに動ける!)


 水中での呼吸はもちろん、水中を自在に動けるようになったカオルは、初めての海の感覚に高揚していた。

 今までもこうしていたようなよどみのない自然な動きで海を移動することができる。


(綺麗。海はこんなにも綺麗だったのね)


 透明度が高いのか、能力によるものか、カオルの目には赤や緑、黄色といった色とりどりの魚たちが生き生きと泳いでいる様子が映っている。

 その光景はどこか幻想的で、青い空に浮かぶ星々のように思われた。


「っ!?」


 だが次の瞬間、カオルは思わず目を瞠る。


 これまで見えていた青い星空が、一瞬にして光一つない漆黒の空へと変わったのだ。


「――ぶッ」


 自分の身に何が起きたのか分からずに呆然としている中、カオルは周囲にあった何か――おそらくは、先ほどまで周囲を泳いでいた魚たちが、自分の全身に押し付けられて、圧し潰されるのを感じる。

 身動ぎ一つできず、声を出すことすらできない圧迫感に襲われたカオルは、ようやく自分が置かれた状況を理解する。


 なにか、巨大な生き物に周囲にいた魚ごと、丸呑みされたのだと。


 地球にいた頃テレビで見た、鯨がオキアミを呑み込むような――そんな狩りの獲物の一匹に自分がなったのだと理解したその時には、もうどうすることもできない。


 カオルを呑み込んだのは、島の海域に生息する巨大生物。


 凶暴ではないが、貪欲で大食漢のその生物は、全長五十メートルを超える蛇のように長い身体を持ち、その筒のような口で獲物を丸呑みして餌にする。

 全身を覆う鱗は光を乱反射することで周囲の景色に溶け込み、よく見ていなければその姿を捉えることは難しい。カオルが気が付かなかったのもそのためだ。

 そしてその口には呑み込んだ獲物を海水と分離してこす(・・)機能があり、そして喉には小さな牙がおびただしく生えており、消化しやすいように擂り潰す(・・・・)機能が備わっている。


「――ッ!」


 海水が消え、大量の魚たちと共に喉へと送られたカオルは、小さな牙が身体を擂り潰す激痛に声にならない叫びを一瞬だけ上げ、巨大な生物の中で形も分からない肉片へと変えられて、その胃へと消えていった。



浅野由紀子あさのゆきこ」 死亡


 女子高生か女子大生らしき女性。


生駒優愛いこまゆあ」 死亡


 大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。 能力「悪運」



ユウナ 「石田優菜いしだゆうな」 死亡


 顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」



ミツキ 「江口美月えぐちみつき


 胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」



オタク 「小田拓也おだたくや


 オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」



ハヤテ 「黒島颯くろしまはやて


 迷彩服を着た男。  能力「ステルス」



権藤大河ごんどうたいが」 死亡


 色黒の男。



斎藤朝陽さいとうあさひ」 死亡


 少し派手な印象の男性。



イツキ 「九条樹/冴山悠」 死亡


 冴えない印象の男性。

 恋人の冴山悠本人を誤って殺してしまい、逃げるためにその名前を騙って紛れ込んだ。 能力「霊視」。




リョウマ 「桜庭竜馬さくらばりょうま


 顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」



ミモリ 「式原美守しきはらみもり


 少女。能力「治癒」




ヒオ 「鈴木日緒すずきひお


 ギャルのような女性。 能力「ビーコン」



高杉詩帆たかすぎしほ


 明るく人当たりのよさそうな女性。



ハヤト 「橘隼人たちばなはやと


 好青年。 能力「駿足」



タムラ 「田村健吾たむらけんご


 ふくよかな体型の男性。 能力「収納」



メガネ 「塚原敬つかはらけい」 死亡


 知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」



ヒマリ 「永瀬日葵ながせひまり


 イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」



カオル 「七海薫ななみかおる」 死亡


 平凡な女性。幼い頃に川で溺れて以来、重度の水恐怖症でカナヅチ。能力「水中活動」



ヨースケ 「野々村(ののむら)陽介ようすけ


 髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。能力「不眠不休」



アヤノ 「氷崎綾乃ひさきあやの


 日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」




ハルナ 「美作春奈みまさかはるな


 清楚な印象の女性。 能力「事典」




宮原誠義みやはらせいぎ」 死亡


 中年男。




ヤナギ 「柳克人やなぎかつと」 


 強面の男性。 能力「身体強化」




カナタ 「結城叶多」


 平凡な少年。能力「シンクロ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ