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大いなる絶望




 この島には、何匹か生態系の頂点となる生物が存在する。


 その一つがこの橋を住処とする「ニアドラゴン」。


 繁殖期以外自身の縄張の中でのみ生活するニアドラゴンの一体にして、この島では最大最強を誇るこの個体は、この橋の一帯を自身の縄張りとしていた。


 その縄張りに踏み込んできた獲物達。それを前にしたニアドラゴンは、舌なめずりをして、天を脅すような咆哮で大気を震わせる。


「グオオオオオッ!」


 瞬間、強靭な両手両足が大地を蹴り、その巨体からは想像もできないほどの速さで襲いかかる。

 翼を棄てた代わりに、俊敏さを獲得したニアドラゴンは、瞬く間に獲物をその射程に捉えて牙を剥く。


「させません!」


「グベッ」


 瞬間、メガネが展開した障壁に激突したニアドラゴンが鈍い声を上げるが、その声に笑う余裕のある者などこの場には一人もいない。

 なぜなら、ただの突進を受けただけで、メガネの防壁に無数の亀裂が入り、今にも砕けてしまいそうなほどの損傷を受けていたのだ。


「くっ」

(なんという力……質量と筋力でここまで……)


 大地に亀裂が奔るほどの圧倒的な衝撃を防壁越しに感じたメガネが歯噛みすると、ニアドラゴンは、その腕を掲げて力任せに振り下ろす。


「逃げて!」


「……え?」


 ヒマリの鋭い声が飛んだ次の瞬間、大地が数メートルにも渡って豆腐のよう斬り裂かれ、メガネは自身の身体が右肩から真っ二つに両断されていることに気づく。


 それだけではなかった。地面に刻み付けられていたのは、ニアドラゴンの手の指と同じ五本の傷跡。

 それはつまり、ニアドラゴンの爪撃がメガネの防壁ごと地面を切り裂いたことをものがたっていた。


「きゃああああああっ!」


 自分の身に何が起きたのも分からず、呆然としたまま鮮血を噴き上げたメガネに、優愛が狂乱の悲鳴をあげる。

 優愛が上げなければ、誰かが上げていただろう。それほどまでに一瞬で、それほどに呆気ない死の訪れだった。


「メガネ! ――ッ!」


 それを見たヤナギが激情を露わにして突進すると、カナタとアヤノもそれに続く。

 だが、ヤナギも怒りに任せているわけではない。寸前にカナタと手を合わせて能力を継承し、駿足の能力を持つハヤトも加わって、四方へと散り、ニアドラゴンの注意を引く。


「はあっ!」


 そこにオタクの爆発とユウナの炎が炸裂し、さらにミツキが放った闇がニアドラゴンを覆い尽くして視界を奪う。


「メガネ君!」


「――っ」


 そうしている間に、悲痛な声を上げるハルナの横を駆け抜けてメガネの元へと駆け寄ったミモリが治癒の力を注ぎ込む。



「グルオオオオオッ」


「はあっ!」


 メガネの治癒が行われている一方で、身体に絡みつく不定形の闇を力任せに振り払ったニアドラゴンが姿を見せると、その背後にいたアヤノがすかさず魔剣を振るう。

 闇によって視界だけでなく五感を奪われていたニアドラゴンは標的を見失っており、その隙を衝いたアヤノの攻撃は、正確にその太く強靭な尾を捉える。


「っ!?」


 だが次の瞬間、金属質の高い音と火花を散らし、アヤノが振るった魔剣が弾かれる。


(硬い……!)


 メンバーの中で最大の攻撃力と殺傷力を有する魔剣を通さないほどの頑強な鱗にアヤノは瞠目するが、咄嗟に距離を取って追撃を回避し、それを援護する爆発と炎と闇が、ニアドラゴンの標的を奪う。


「あの外皮はアヤノの剣でも斬れねぇくらい硬ぇってわけだ。なら、狙うのは――」


 魔剣が通じないのを見て取ったヤナギは、ニアドラゴンの全身を観察して狙うべき場所を定める。


「アヤノ! 次は外皮のないところを狙え!」


 ニアドラゴンの外皮は魔剣すら弾くほどに堅牢だが、それが全身を覆っているわけではない。

 例えば喉。例えば目や体内。腹側も外皮が薄いように見える。


「はい」


 その言葉に応じたアヤノだったが、同時にその顔に渋い表情を浮かべてニアドラゴンを観察する。


 ヤナギの言い分はもっともだが、それを実行するのは困難を極める。

 ニアドラゴンの柔らかそうな部分に攻撃を加えるためには、その正面からそれに近い角度で攻め込まなければならない。

 メガネの防壁すら切り裂いた爪の射程に堂々と身体を晒し、さらにその牙が届く間合いまで踏み込む必要があるのだ。


「カナタ。俺達で、あいつの動きをできるだけ止めるぞ」


「はい。アヤノさん。余裕があれば、魔剣を作って僕かヤナギさんに渡してください! もしかしたら力ずくで魔剣を多少通せるかもしれません」


 ヤナギの言葉に頷いたカナタは、自分からもアヤノに戦術を提案する。

 アヤノの膂力では魔剣を通せなかったが、身体強化されたカナタかヤナギなら、外皮を切り裂ける可能性はある。


「分かったわ」


 ニアドラゴンを攪乱するため、走りながら作戦を交わしたカナタ達は、諦めることなく勝機を探る。


「無理よ。あいつらは、最初から私達を生かして出すつもりなんてなかったんだわ……あれには、絶対勝てないのよ!」


「諦めないで! 彼らはまだ戦っているの!」


 それを見て狂乱に声を震わせる優愛に、ハルナが声を飛ばす。

 だが、優愛の言葉が優愛だけのものではないことを――自分すら含めて、ここにいる全員の脳裏に、わずかにその可能性がよぎっていることは事実だった。


「皆、そいつは火を噴いたり、毒を出したりしない! 遠距離攻撃には警戒しなくて大丈夫よ!」


 自身の脳裏に浮かぶ最悪の可能性を振り払うように頭を振ったハルナは、自らを鼓舞するように声を張り上げる。


(大丈夫よ。私達の能力は万能でも最強でもない。アヤノさんの魔剣で斬れなかったやつだって過去にいたけれど、他の方法で倒せている! 絶対に勝てないなんてことはない!)


「――ッ!」


 だが、その時、ハルナはニアドラゴンの双眸が自分を――否、自分達(・・・)を見据えていることに気づいて息を呑む。


 当たり前のことだ。考えるまでもなく、戦う力を持った相手よりも、戦えない、弱いものを狙った方が狩りの効率がいい。

 地球でも肉食獣は、草食獣の大人より子供を狙う。ならば、防壁という身を守る手段がなくなった自分達を捕食者が狙うなど分かり切っている。


「くそ……っ」


 それに気づいたヤナギが舌打ちし、ニアドラゴンの注意を引くためにあえて足を止め、自ら向かっていく。

 ヤナギに続き、カナタ、アヤノ、ハヤトも同様に身を反転させ、さらにステルスで身を顰めていたハヤテが改造したモデル銃で物陰からニアドラゴンを襲う。


 だが、五人で気を引き、注意を逸らし続けることで渡り合えていたニアドラゴンが目的を定めたならば、止める手段はない。


 その圧倒的な筋力から生み出される俊敏性は、まさに弾丸――否、ミサイルのようで、瞬く間に後衛にいた非戦闘員達へと迫る。


「くっ」


 咄嗟にユウナが全霊を振り絞り、炎の壁を作ってニアドラゴンを遮る。さらに放たれたミツキの闇が標的を失わせんと絡みつき、オタクの爆撃が撃ち込まれて勢いを殺す。


「……あっ」


 だが、それは無意味だった。メガネの防壁すら破損させたニアドラゴンの突進は、それでは止められなかった。

 炎の壁をものともせず、突き破ってきたニアドラゴンの頭部――大きく開かれた口腔を認識した次の瞬間、ユウナの脳裏に走馬灯がよぎる。


 地球にいた頃、ユウナは配信業を営んでいた。


 ネット上で仮想の自分を作り、それを介して配信を行うというもので、中堅規模の企業に所属して、そこそこに人気があった。

 だが、アイドル売りをしていたにも関わらず恋人が発覚し炎上、さらに――今思えば若気の至り、愚かだったとしか言いようがないが――人気を得るため、のし上がるために同僚や他の人気者を裏垢で誹謗中傷し、炎上に便乗して貶めていた。

 それも明るみに出て再度炎上して契約を打ち切られた。個人で配信業をはじめても、すぐに声から特定され、結局その活動も辞めざるをえなくなってしまった。

 どれほど悔やんで反省しても、世間は許してくれない。

 だから、行きたかったのだ。自分を知る者が誰もいない場所へ。そして、そこで改めて人生をやり直したかった。


 だが、その夢は巨大な牙を持つニアドラゴンの顎が火花すら散らして閉じられた瞬間に失われた。


「いやああああああっ!」


 上半身を食いちぎられたユウナの姿に、優愛が悲鳴を上げる。


 それが決壊の合図だった。この場にいればただ殺されるしかない。だから、一旦分散する必要がある。

 そんなことは分かっている。だが、その光景はまさに蜘蛛の子を散らすような、決壊と呼ぶにふさわしい光景だった。


「ごめんなさい」


 故に、ハルナも非情な決断を下す必要があった。


「ま、待ってください! まだ……」


 懸命にメガネを治療するミモリの手を掴み、強引に引っ張る。


「だめ! もうダメなの! このままじゃ、あなたまで殺される!」


 それに抗議するミモリの言葉を打ち消し、ハルナはメガネを見捨てるように言い放つ。


「失礼!」


 瞬間、反転したオタクがミモリを抱え上げる。


 ヤナギほどではないが、薬によってメンバーの基礎的な身体能力は地球人のそれを凌駕するほどに向上している。

 今の状態ならば、まともに身体を鍛えていないオタクであっても、女性一人を抱えて走ることは可能だった。


「……っ」


 オタクの肩に担がれ、遠ざかっていくメガネの姿を見て、ミモリは大粒の涙を流す。

 抵抗はしない。頭では分かっていた。もう、助けられないと。だが、決断できなかった。まだほんの一縷、助かる可能性があったメガネを見捨てる決断が。


「ごめんなさい」


 その耳に、ハルナから謝罪の声が届く。だが、ミモリはその言葉が、どこか遠くで響いているようにしか聞こえなかった。


「――……」


(それで、いいのですよ)


 その姿をかろうじて動く眼球で見送り、眼前――自身を見下ろすニアドラゴンの顔を見る。

 浅く、弱々しい呼吸をしながら横たわっていたメガネには、自身へと迫るドラゴンの顎が止まっているようにゆっくりに見えていた。


(私は、あなたのことが大嫌いですよ。ヤナギ――私にできない生き方をして、彼女(・・)に心を寄せられるあなたのことが)


 開かれた口腔へと呑み込まれる一瞬、必死な表情を浮かべている恋敵(ヤナギ)の姿を見て、メガネは小さく笑い、巨大な竜の口の中へと呑み込まれた。


「メガネ……!」


 その光景に絶望したように瞠目するヤナギの前で、数度咀嚼して喉を鳴らしたニアドラゴンが嗤う。


 少なくとも、ヤナギやカナタ達にはそう見える表情が、ニアドラゴンの顔に浮かんでいる。


 口端をいやらしく吊り上げ、目を細めるその顔は、メガネの――人間の味を楽しみ、そして守れなかったヤナギ達を嘲るような悪辣な嘲笑を思わせるものだった。




浅野由紀子あさのゆきこ」 死亡


 女子高生か女子大生らしき女性。


生駒優愛いこまゆあ


 大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。


ユウナ 「石田優菜いしだゆうな」 死亡


 顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」



ミツキ 「江口美月えぐちみつき


 胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」



オタク 「小田拓也おだたくや


 オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」



ハヤテ 「黒島颯くろしまはやて


 迷彩服を着た男。  能力「ステルス」



権藤大河ごんどうたいが」 死亡


 色黒の男。



斎藤朝陽さいとうあさひ」 死亡


 少し派手な印象の男性。



イツキ 「九条樹/冴山悠」


 冴えない印象の男性。

 恋人の冴山悠本人を誤って殺してしまい、逃げるためにその名前を騙って紛れ込んだ。 能力「霊視」。




リョウマ 「桜庭竜馬さくらばりょうま


 顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」



ミモリ 「式原美守しきはらみもり


 少女。能力「治癒」




ヒオ 「鈴木日緒すずきひお


 ギャルのような女性。 能力「ビーコン」



高杉詩帆たかすぎしほ


 明るく人当たりのよさそうな女性。



ハヤト 「橘隼人たちばなはやと


 好青年。 能力「駿足」



タムラ 「田村健吾たむらけんご


 ふくよかな体型の男性。 能力「収納」



メガネ 「塚原敬つかはらけい」 死亡


 知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」



ヒマリ 「永瀬日葵ながせひまり


 イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」



七海薫ななみかおる


 平凡な女性。



ヨースケ 「野々村(ののむら)陽介ようすけ


 髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。能力「不眠不休」



アヤノ 「氷崎綾乃ひさきあやの


 日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」




ハルナ 「美作春奈みまさかはるな


 清楚な印象の女性。 能力「事典」




宮原誠義みやはらせいぎ」 死亡


 中年男。




ヤナギ 「柳克人やなぎかつと」 


 強面の男性。 能力「身体強化」




カナタ 「結城叶多」


 平凡な少年。能力「シンクロ」


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