遺志と意志
「そんな……」
「これが、ゲーム?」
「誰が生きて、何人生きるかを賭ける博打だって?」
霊視の能力によって、カナタの口を介して伝えられた権藤の情報に、それを聞いていた誰もが息を呑み、絶望に顔を曇らせる。
誰からともなく口をついて零れる話の内容の反復に、メンバー達の表情に影が落ち、今自分達が置かれている状況への絶望が滲み出ていた。
(僕達は、あの人たちにとって、ただの賭けの道具……僕達の命も、想いも、ただあの人たちがゲームを楽しむために使われてるってこと?)
権藤の言葉を代弁していたカナタもまたその一人であり、話の途中からは半ば無意識に口を動かしていた。
心ここにあらずと言った様子で権藤の言葉を代行するカナタは、ノワール達による残酷な仕打ちにショックを隠せない。
「許せない……」
自分達の命が賭けの対象にされていたことを知ったハルナは、小さく唇を噛みしめる。
目の前で命を奪われていった者達、その姿が目に焼き付いているメンバーは、ノワール達の非道な行いに憤りを禁じ得なかった。
「俺達はゲームの駒……闘鶏のニワトリや闘犬の犬と同じってことか? ふざけるよ」
強く拳を握り締めたハヤトが絞り出すように声を発すると、ふと何かを思いついたように優愛が顔を上げて周囲を見回す。
「じゃあ、あいつらは私達のこと、どこからか見てるってこと?」
その言葉に、カナタを含めた全員が息を呑み、周囲に視線を巡らせる。
権藤が言ったことが真実ならば、ノワール達はこの場所を監視し、誰が死ぬのか、何人生きているのかを見て楽しんでいることになる。
だが、どれほど目を凝らし、周囲に注意を向けても、それらしいものは見つけることができなかった。
「何もないわよ?」
「ただの人間に超常的な異能を与えることができる相手です。私達に気づかれずに観察するなんて、造作もないことなのでしょうね」
ヒオが張り詰めた様子で言うと、メガネはその弦を軽く持ち上げて小さく呟く。
「ねぇ! もうやめる! こんなゲーム辞めるから、お願いだから、地球に……あっちに帰して!」
その時、優愛が恐怖に耐えかねて声を張り上げる。
この場を見ているであろうノワールに――あるいは、賭けを行っている者達に対して、涙ながらに、悲痛な叫びを上げて訴えかける。
だが、かえってくるのは静寂だけ。
優愛の言葉に対する反応は全くなかった。
「お願いだから……もういやなの。もう、いやぁ……」
膝から崩れ落ち、顔を覆って泣き出す優愛の姿を一瞥し、誰もが理解していた。
「二度と帰ることはできない」
異世界への移住をそそのかすメールに書かれていたその言葉通りに、自分達に、救いの――許し、あるいは解放の手が差し伸べられることは決してないのだということを。
ノワールが――彼を含む賭けの運営者達は、むしろ自分達のこんな状態をすら、嬉々として楽しんでいるのであろうということも。
「――ハハッ」
その時、静まり返った場に響いたのは、ヤナギの口から零れた笑い声だった。
「ヤナギさん……?」
「結局、俺達は全員甘ったれってことか」
目を手で覆い、口端を吊り上げたヤナギは、小さく肩を震わせて拳を握り締める。
自然と口を突いて出ているその言葉は、自身に向けたものでありながら、この場にいる全員の耳にしっかりと届いていた。
「自分の生まれた世界から逃げたような人間が新しい世界で暮らすなら、テメェの命を懸けるくらいの覚悟がいるだろって言いたいわけだ」
自嘲めいた声音とは裏腹に、ヤナギはこの場を見ているであろうノワール達を睨みつけるように視線を険しくする。
そして、その言葉の意味は、カナタをはじめ全員が理解していた。
「自分達の世界から逃げた私達が、衣食住全てを揃えた環境を与えてもらえるなんて考えていることがすでに甘い、ということですか。確かにその通りですね」
そんなヤナギに続くように自嘲の言葉を述べたメガネは、軽く目を伏せて自身の愚かさを悔いるように歯噛みする。
理由こそ異なっているが、ここにいる全員が自分達の世界から異世界へと逃げることを選んだ者達だ。
自分達の世界――社会で己の立場を変えようと努力もせず、何も知らない誰かに用意された新しい場所へ行くことを選んだ。
ならば、その新世界で自分達が生きる場所を確保するための最低限の努力――すなわち、犠牲と対価は必要になる。
それこそが、自分達の命というだけのこと。
「でも! そんなこと聞かされてたら、こんなことしなかった! こんなのおかしいでしょ!」
否応なくその事実を突きつけられた優愛が、その不条理を嘆く。
声を上げたのは優愛だったが、メンバーの中にもその意見に同意を示し、理不尽な現状とゲームの主催者たちへの不満を押し殺している者がいた。
「やめろ。もうゲームは始まってるんだ。どんだけ泣き喚いても何も変わりゃしない。奴らにとっちゃ、俺達の命も命乞いもどうでもいいもんだろうからな。
このまま何もせずにいたところで、全員が全滅してそれに賭けてた奴がいい思いをするだけだ」
「そうね。私達がするべきことは、これ以上犠牲者を出さずにそのゲームとやらをクリアして、堂々とこの世界で暮らしていく権利を獲得することよ」
その言葉を遮ったヤナギの言葉に、悲痛な表情を引き締めたハルナも顔を上げて頷く。
「ですな」
「それしかないですね。利用されているなら、その中で自分達が一番利益のある結果をだすしかないでしょう」
ハルナのその言葉に、オタクとメガネが同意を示す。
「そうです」
そんな言葉に、カナタも力づけられ、力強く頷いて同意を示す。
それを聞いたヤナギは、一つ頷くと、全員を見回して声を張り上げる。
「全部、奴らの勝手な理屈だ! 俺達があっちの世界から逃げたり、色んなもんから解放されたかったのは事実かもしれねぇ! だが、奴らはそんな俺達を利用して、ゲームに使ってるだけにすぎねぇ!」
「はい!」
力強く言い放ったヤナギに、珍しくミモリが声を上げて同意する。
目の前で命を無くした過去から命を救う能力を得たミモリにとって、命を軽んじるノワール達の行動は決して許せないものだったのだろう。
その様子からは、他の誰よりもノワール達に対する憤りが感じられた。
「俺達は全員で生き残ってやる! 奴らが何人生き残るのに賭けてるかは知らねぇが、こんなくだらねぇゲームを二度としようなんて思わせねぇように、クリアしてやる!」
力強く言い放ったヤナギの言葉にカナタを始め、大勢の仲間達が賛同するように表情を引き締める。
『話はまとまったようだな』
その様子を見ていた権藤の霊は、静かな声音で呟く。
「あ」
瞬間、その身体がゆっくりと崩れ始め、形を失っていくのを見て、カナタは思わず声を漏らす。
権藤はすでに命を落としている。だが、霊とはいえ、その姿が目の前で崩れ、消えていく様にカナタは感傷を抱かずにはいられなかった。
『なら、俺はこれで消える。もう、思い残すことはねぇ――いや、まあ、それは嘘だが、死んだら同じことだ』
消えていく中、権藤は自らの死を受け入れ、現世への未練を残しながらも、静かにこの異世界の風に溶けていく。
(この世界で死んだら魂はどこに行くんだろう? 地球に帰れるのか、それともこの世界のものになるのか――そんなこと、分かるはずもないけど……)
異世界に転生する話は数あれど、この世界で命を落とした者の魂がどこへいくのか、少なくともカナタには分からない。
ただ一つ思うことは、権藤や、この世界に来て命を落としてしまった人たちの死後の安寧だけだった。
「あの。ありがとうございました」
静かに消えていく権藤に感謝を述べたカナタの目には、最期にその口端がわずかに吊り上がったように見えた。
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
ミツキ 「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
ハヤテ 「黒島颯」
迷彩服を着た男。 能力「ステルス」
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。能力「霊視」。
リョウマ 「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
ヒオ 「鈴木日緒」
ギャルのような女性。 能力「ビーコン」
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
ハヤト 「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
ヒマリ 「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」
「七海薫」
平凡な女性。
ヨースケ 「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
アヤノ 「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
ハルナ 「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。能力「シンクロ」




