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異世界への旅立ち



「では、皆様を異世界へとお連れいたします」



「その前に一つよろしいでしょうか?」


 全員が席に着いたのを確認したところで、ノワールが言うと、塚原と呼ばれた男性が眼鏡を軽く持ち上げて怪訝な眼差しを向ける。


「なんでしょう?」


「本当に異世界があるのですか?」


 柔らかな表情で答えるノワールに、塚原という男性はおそらくこの場にいる全員が知りたいと思っている事実を鋭く切り込む。

 単刀直入に告げられたその疑問に、ノワールはその顔に浮かべた微笑を崩すことなく答える。


「もちろんです。少なくとも、それを信じよう、確かめようと思われたから、このツアーに参加されたのでしょう? その真偽は皆様の目でお確かめください」


「……まあ、いいでしょう。もし嘘だったなら、責任を取ってもらうだけです」


 どこか掴みどころのないノワールの言葉に、塚原はその目に険な光を宿す。


「あの、それでは私からもいいでしょうか?」


「はい」


 その流れに便乗し、手を上げた女性――カナタがここに来た後、男に絡まれていた「美作春奈」という女性は、ノワールに真剣な眼差しを向ける。


「あなた……達は、私達を異世界に連れて行く目的は何ですか? 私達になにかさせたいことがあるのですか?」


(確かに)


 その問いかけに、カナタは心の中で共感を抱く。

 さりげなく周囲に視線を向ければ、他のメンバーも同じ考えなのか、強い関心と共にノワールの心中を窺いながらその答えを待っているように思われた。


 なぜ、一般人に過ぎない自分達を二十四人も集め、異世界へ連れていくのか、人員の選定基準、その意図を知りたいと思うのは当然のことだろう。

 そして、そんな春奈の質問に、ノワールは微笑を崩すことなく応じる。


「特に何かをしていただきたいということはありません。これから赴く異世界で、皆様が思うまま何をしていただいても自由です。しいて申し上げれば、あなた達が何をするかを見たいのです」


「?」


「これから向かう世界は、例えば魔王に侵略されそうになっているとか、滅びの危機に瀕しているとか、そういった深刻な問題を抱えているわけではありません。

 皆様が暮らすこの世界のように、ただ日常を重ねているだけの世界です。その世界で異世界から来た皆様が何をするのか、それを我々は見たいのです」


 春奈の――あるいは、この場にいる全員の疑問に対するノワールの答えに、カナタは内心で首を傾げる。


(それってどういうこと? この人はどういうつもりなんだろう……?)


 なんの強制も要請もないというノワールの答えは、好意的とも取れるが、漠然とした不安を感じさせるものだった。


「つまり、僕達は異世界で団体行動を取る必要はないということですよね?」


 そんな中、その答えに対して問い返した塚原の言葉に、ノワールは微笑を崩すことなく応じる。


「それは、皆様が自由に決めることです」


 あくまでも自分達は異世界へ送るだけ。

 その後どうするのかは、参加者各員の判断に委ねられているのだと改めて強調したノワールのその言葉が、カナタの脳裏に強く焼きついていた。


「……なんだか、変な感じだ」


 その不安を紛らわせるかのように、カナタは自分の今の心情を誰にも聞こえないような声量で独白していた。


 先程の言葉には何をすればいいのか分からないという不安もあったが、何をしてもいいと取れる期待も感じさせるものがあった。

 それに魅せられたのか、あるいは異世界に生きたい理由があるのか――不安を感じている者は少なくないように見受けられるというのに、誰一人「帰る」、「移住を止める」といった言葉を発しない。


 そしてそれはカナタ自身も同じ。

 今日、ここに集まった者たちは、少なくとも異世界への移住をやめるつもりはないようだった。


「っていうか、男十三に、女十一って、これなら男女半々にしてくれてもいいのに」


 代わりに聞こえてきたのは、たまたま隣にいた生駒優愛と呼ばれた女性が零した小さな不満の言葉だけ。


「御納得いただけたのでしたら、こちらをお受け取り下さい」


 質問が止んだのを見て取ったノワールが合図をすると、仮面をつけたメイドたちが銀色の皿に無数の小瓶を乗せて姿を見せる。

 入り口と室内にいた二人のメイドたちが、移住者たちの元を順番に渡り、その小瓶――赤い液体が入ったアンプルを手渡していく。


「なんだこりゃ? 毒か?」


 それを手渡された強面の男――「柳克人」が中に入った液体を見て眉を顰めると、ノワールが満面の笑みを浮かべて応じる。


「とんでもない。むしろ逆です。それは、あなた方が異世界で生きていくために必要不可欠なものです」


 その言葉に応えたノワールは、赤い液体の入ったアンプルを持った者達から向けられる視線を一身に浴びながら、嬉々とした声で言う。


「その薬は皆さんの身体を異世界の環境に適応させ、さらに異世界で生きていくための力を一つだけ授けてくれます。

 それが何かは、目覚めてからのお楽しみということで。――つまりそのお薬は、私達からあなた方への唯一の、そしてささやかな贈り物なのです」


「つ、つつつ、つまり、異世界転移チート特典ということですな!」


 ノワールのその言葉を聞くなり、鼻息を荒くした様子でいかにもオタクといった青年――「小田拓也」が興奮を隠せない様子で言う。


(やっぱり、そうなんだ。異世界で僕は――)


「なにあの人」

「キモ」

 異世界に転移する際、何らかの特殊な能力を得られるというのは、昨今の異世界転移系ラノベではもはやお約束といってもいい。


「……っ」

 一瞬同じことを思ったカナタだったが、真っ先に声を上げた青年に周囲の人々が嘲笑や冷ややかな視線を向けているのを感じ取り、目線を伏せる。

 そんなカナタの脳裏には、家族や学校の友人の顔がよぎり、膝の上に置かれた手は無意識の内に強く握り占められていた。


「これ、信用できるのかよ?」


「と、申されますと?」


 その時、小瓶を手にした色黒の男――「権藤大河」が、疑念を宿した眼差しでノワールを見据えて言う。


「とぼけんな。この薬を信用してもいいのかってことだ。もし異世界なんてないなら、この薬を飲んだらどうなるか……下手したら、死ぬかもしれないだろうが」


「……!」


 権藤の言葉に、カナタを含め、その場にいる全員に緊張が奔る。


 確かに、異世界の存在が嘘ならば何らかの方法でそれを隠蔽する可能性は十分に考えられる。

 だが、そんな疑念を抱かれていることなど百も承知といった顔で、ノワールはその本心が見えない不敵な笑みを浮かべる。


「その薬を飲むも飲まないも皆様の自由です。わたくしの役目は、このままあなた方を異世界へとお連れすることのみ。あとは全て皆様の選択次第ということです」


「……っ」

「……へぇ」


 ノワールの言葉を聞いたほとんどの者が手にした小瓶を見据えて逡巡する中、権藤は一人不敵な笑みを浮かべる。


「どうする?」

「誰か飲めよ」


 そんなことを聞かされたメンバーは自分が積極的に飲むことを躊躇い、相手の様子を窺うように視線を巡らせる。


「飲んでから効果が出るまでに少々の時間がかかりますので、今決断してください」


 だが、そんな時間すら許さないとばかりに、ノワールから非情な言葉が告げられる。


「そんなこと、急に言われてもできるわけないじゃないですか!」


 それを聞いた春奈が抗議の声を上げるが、ノワールはアルカイックスマイルを浮かべたまま、ただ参加者の決断を待つだけだった。


「……っ」

(この感じ……)

 互いが互いを牽制し合い、どこか停滞しているの感じ取ったカナタは、自分がこの異世界移住などという非現実的なものに参加した理由を思い返す。


(そうだ。僕は、異世界へ行くためにここへ来たんだ)


「――飲みます」


 意を決したカナタが口を開くと、周囲の視線が自分に向くのが感じられた。


「これが毒かもしれないって疑うくらいなら、異世界に移住できるなんてことを信じてここに来ていません」


 自分に言い聞かせるように告げたカナタは、覚悟を秘めた強い瞳をノワールへ向ける。


「先を越されちまったな。俺も付き合うぜ」


 カナタのその言葉に、柳という強面の男が笑みを浮かべる。


「確かに、もう今までの暮らしに戻らないつもりでここへ来たんです。これで終わりなら、仕方のないことかもしれませんね」


 カナタの蛮勇とも取れる決断に柳が賛同するのを見ていた塚原も同意を示し、三人は一息にアンプルの中身を飲み干す。


「……味はまあ普通だな」


「何ともないんですか?」

「少なくとも、今のところはな」

 瓶の中身を飲み干したカナタ、柳、塚原に、春奈がその身を案じて声をかける。


「ぼ、僕も飲むぞ! 異世界チートのためだ!」


 カナタ達がアンプルの中身を飲みほしたのを見届けたオタクめいた青年――「小田拓也」が瓶の中身を飲み干す。


「私も飲みます」

「私も」


 それを見て、「式原美守」と呼ばれた少女が言うと、日本刀を持った少女「氷崎綾乃」、春奈もそれに続く。


「俺も」

「……っ!」


 そして、それをきっかけに、群集心理とでもいうべきか、参加者たちは次々にアンプルの中身を飲み干していく。


「コングラチュレーション! それでは、異世界への出発です」


 その様子を見届けたノワールは、祝福の言葉を告げ、指を鳴らす。


 乾いた音が響き渡った瞬間、ロッジから見える窓の外に広がっている景色が一転する。


 時間は昼間だというのにまるで夜になったかのように闇に閉じられ、その中には無数の光が星のように輝いていた。


「……っ」

「綺麗」

 まるで星空を映した水の中にいるような幻想的で非現実的な景色に、誰もが思わず息を呑む。


「今、皆様は世界を隔てる空間を通過しています。そして、この先に皆様が暮らす異世界――いえ、皆様にとっての新しい世界が待っているのです」


 まるでこの世のものとは思えないその景色に見惚れていたカナタ達に、ノワールが嬉々とした様子で告げる。

 日本、地球――今まで住んでいた世界が異世界となり、異世界だった世界が自分達にとっての世界となる。

 そんな言葉に、カナタをはじめとした参加者の多くは期待と興奮を募らせていた。


「あれ? 急に眠く……」


 そんな中、不意に不自然な眠気を覚えたカナタがよろめくと、薬を飲んだ者達が順に似たような態度を見せ始める。


「先ほど飲まれた薬が効果を発揮し始めたのです。お休みなさいませ。次に目覚めた時には、目的地へと到着しております」


 一人、また一人と眠りに落ちていく参加者を見ながら、ノワールはその不敵な笑みを一層深くする。



「――さぁ、『異世界サバイヴ』の始まりです」




浅野由紀子あさのゆきこ


 女子高生か女子大生らしき女性。



生駒優愛いこまゆあ


 大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。


石田優菜いしだゆうな


 顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。



江口美月えぐちみつき


 胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。



小田拓也おだたくや


 オタクのような容姿の青年。



黒島颯くろしまはやて


 迷彩服を着た男。



権藤大河ごんどうたいが


 色黒の男。



斎藤朝陽さいとうあさひ


 少し派手な印象の男性。



冴山悠さえやまゆう


 冴えない印象の男性。



桜庭竜馬さくらばりょうま


 顔立ちの整った美男子。



式原美守しきはらみもり


 ゆるふわ系少女。




鈴木日緒すずきひお


 ギャルのような女性。



高杉詩帆たかすぎしほ


 明るく人当たりのよさそうな女性。



橘隼人たちばなはやと


 少年。



田村健吾たむらけんご


 ふくよかな体型の男性。



塚原敬つかはらけい


 知的な印象を持つ眼鏡の男。



永瀬日葵ながせひまり


 イヤホンを着けた少女。



七海薫ななみかおる


 平凡な女性。



野々村(ののむら)陽介ようすけ


 髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。



氷崎綾乃ひさきあやの


 日本刀を携えた黒髪の美少女。




美作春奈みまさかはるな


 清楚な印象の女性。




宮原誠義みやはらせいぎ


 中年男。




柳克人やなぎかつと


 強面の男性。




「結城叶多」


 平凡な少年。


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