能力の秘密
「あの、少しいいですか?」
「なに?」
訓練を終え、ミモリ、アヤノと別れたカナタは、その足でハルナの元を訪れていた。
普段からハルナは可能な限りロッジのリビングで過ごしており、そこにはヤナギとメガネ、オタクの姿もあった。
当初少し揉めていたのは記憶に新しいが、現在メンバーの中心的な役割を担っているのはハルナ、ヤナギ、メガネにオタクを加えた四人だ。
その中でもバランスやメンバー全員に対する影響力を鑑みた上で、ハルナが実質的なリーダーを担っている。
だから、カナタがミモリとアヤノとの会話で芽生えた小さな疑問を話す相手にハルナを選んだのだ。
「ちょっと気づいたことがあって、まあ、凄くどうでもいいことですし、間違っているかもしれないんですけど」
「構わないわ。今はどんな些細なことでも知っておきたいから。聞かせて」
前置きをしたカナタに、ハルナは姿勢を正して優しく微笑む。
「さっきミモリさんとアヤノさんとちょっと話してて思ったんですけど、僕達の能力って、自分にとってネガティブな部分が関係しているのかなって」
「どういう意味だ?」
そう言って切り出したカナタの話に、ヤナギが怪訝な声で尋ねる。
強面ではあるが、これまでの勇気ある行動に怖さよりも勇敢さ、頼もしさを感じているカナタは、ヤナギの視線を受けても恐れることなく言葉を続けることができた。
「僕は人に合わせて、顔色を窺って生きてるのが嫌になって異世界に来ました。だから、人に合わせることにコンプレックスみたいな気持ちがあります。だから、人に合わせる――人と同じ能力になる能力になったんじゃないかって思ったんです」
カナタの告白と共に告げられた可能性に、ハルナとヤナギ、メガネは目配せをし、オタクは「ほう」と感嘆げに声を漏らす。
「アヤノさんは剣に思うところがあって、ミモリさんは事故で傷ついた家族の事を気にしていたそうなんです。だから、それぞれが能力になったんじゃないかなって。特にリョウマさんとかそうじゃないですか?」
ここに来る前に許可を取っていた二人の事情を合わせ、さらに全員が共通で理解しているリョウマの名を出してカナタは自分の考えを補完する。
ミモリは事故に巻き込まれ、何もできずに目の前で命を落とした両親を心の傷にしていた。だからこそ、傷を癒す能力を発現した。
アヤノは剣を愛し、しかし兄弟に劣っていることに悩み、剣を使えない日常に不満を抱いていた。だからその能力は魔剣となった。
「――つまり、『高所恐怖症だったリョウマさんがたまたま飛行能力を得たのではなく、高所恐怖症だったから飛行能力を得た』って言いたいのね?」
「はい」
自身の言わんとしていることを正しく理解し、思案気に呟かれたハルナの確認の言葉に、カナタは小さく、しかししっかりと頷く。
「――どう思う?」
ハルナに意見を求められたヤナギは、しばらく逡巡するように考えを巡らせ、紋様の浮かんだ自身の身体に視線を落として息を吐く。
「あり得るかもしれねぇな。俺も、職場で上司ぶん殴って無職になったから、この能力には思うところがあったからな」
その過去を話すことに抵抗があったのか、観念したように告白したヤナギは、拳を握り締めて少しだけバツが悪そうに言う。
「野蛮ですね。ですが、確かに私は仕事で保守的というか、守りに入っていることに思うところがあったのは事実です。だから、守りの能力を得たのかもしれませんね」
そんなヤナギの告白に嘲笑するように口端を吊り上げたメガネは、同時に自身の事を省みて物憂げな表情を浮かべる。
「確かに、自分もアニメや漫画にハマっていますが、現実なんてクソだ。創作の世界こそ自分が生きる場所だと思いつつ、一方で現実でも可愛い彼女が欲しいと思っていました。つまり、『リア充爆発しろ』というやつですな」
「…………」
そこに続くオタクの言葉に、この場にいた全員からやや冷めた眼差しが送られるが、当の本人は感慨に浸っているのか、噛みしめるように瞼を閉じて天井を仰いだままだった。
「私も知識の探求、そういうものに憧れというか、色々なことを知りたいと思っていたのは事実よ。この異世界移住に参加したのも、本当に異世界があるのか知りたかったからだし――確かに、カナタ君の仮説は信憑性があるかもしれないわね」
カナタと話に聞いているミモリとアヤノ、そしてヤナギとメガネ、オタクに自分――少なくともこの場にいる者は、自身のコンプレックスや劣等感、マイナスの感情に由来する能力を獲得している。
先に例に挙げられたリョウマも含め、そう考えるとカナタの仮説には一定の確度があると判断してもよさそうに思われた。
「ほとんどの人が能力判明しているのであまり役に立たないですし、だからどうだって感じではあるんですけど」
「そんなことないわ。まだ能力が分かっていない人もいるから、十分価値のある情報よ。ありがとう」
能力の由来が分かったところで、別に新規に能力を得られるわけでも変更できるわけでもなく、メンバーほとんど能力が分かっているのだからあまり意味がないと考えるカナタに、ハルナは感謝の言葉を述べる。
「さて。それじゃあ、現状の確認と、今後の方針についての話を始めるか」
そのやり取りに耳を傾けていたヤナギは、話を切り替えて本題へと入る。
「とはいえ、別に方針は変わりません。この世界の知的生命体との接触、あるいは島からの脱出のため、橋を目指す。そのために必要な全員分の水と食料の確保が当面の課題となります」
確認するように、自分達がこれから成すこと、成そうとしていることを一つ一つ並べたメガネの言葉に、この場にいる全員が耳を傾け、共通の目的を共有する。
「今いる全員で島を出る。それが、私達の目的です。そのためにみんなで力を合わせましょう」
互いに協力し、一致団結してこの島を脱出するという目標を再確認したハルナに、カナタは心の中で強く同意しつつ、緊張した面持ちで息を呑む。
(そうだ。僕達がするべきことは決まってる。僕もこの力で、きっと――)
※※※
「能力は、自分のコンプレックスや、マイナスの感情に由来する――」
日が落ちて闇の帳に包まれたロッジの一角、男性陣が雑魚寝をしているロッジの一角で頭を抱えてうずくまる青年――「冴山悠」は、歯の根が合わずに硬質な音を立てる口から、震える声を絞り出す。
そうして紡がれたのは、未だ能力が発現していないと思われている自分に教えられた能力に関する情報。
未だ能力が分からない者達が、自身の能力を見つけられるようにと一つの可能性として教えられたその理由を反芻するように呟いた悠は、まるで怯えるように身体を震わせる。
「じゃあ、俺は……」
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
ミツキ 「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
ハヤテ 「黒島颯」
迷彩服を着た男。 能力「ステルス」
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。
リョウマ 「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
ヒオ 「鈴木日緒」
ギャルのような女性。 能力「ビーコン」
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
ハヤト 「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
ヒマリ 「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」
「七海薫」
平凡な女性。
ヨースケ 「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
アヤノ 「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
ハルナ 「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。能力「シンクロ」




