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想いと兆し




「大丈夫ですか? 大きな怪我はありませんけど、痛いところがあったら遠慮なく言ってください」


「ありがとうございます。でも本当に、全然大丈夫です。元々大した傷じゃなかったですし」


 アヤノとの模擬戦形式の訓練を終えたカナタは、ロッジの入り口脇でミモリから能力による治療を受けていた。

 小一時間ほど相手をしてもらったが、結局アヤノには手も足も出なかった。

 手心を加えてもらったため、カナタの身体には深い傷もなく、精々が小さな切り傷や擦り傷程度だったものの、ミモリの好意で治療してもらえることになったのだ。


「敬語じゃなくてもいいですよ。同い年くらいだし、私もそうしま――そうするから」


 見る見るうちに消えていくカナタの傷を見ながら声をかけたミモリは、自身も敬語を言い直しつつ親しげな口調で言う。


「あ、はい、じゃなくって、うん」


 その言葉に同級生に使うように口調を戻したカナタに、治療を邪魔しないように見守っていたアヤノが声をかける。


「初心者にしては悪くないわ。このままいけば、すぐに私よりも強くなれると思う」


「いや、それはないですよ。アヤノさん、ものすごく強いじゃないですか」


 アヤノの言葉に照れながらも、カナタは事実と一抹の謙遜に基づく意見を述べる。

 その言葉に他意はない。本当にカナタはアヤノの実力を賞賛し、ちょっとやそっと努力した程度でどうにかできるほどの力の差ではないと感じていた。


「……そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、私はおだてたわけでもないし、おべっかを使ったわけでもないわ」


 そんなカナタに応じたアヤノの表情と声音には、その内容とは裏腹な暗いものが滲んでいた。


「アヤノさん?」


 そんなアヤノの様子を感じ取ったミモリは、心配そうにその表情を見つめる。


(悲しそう。なにか気になることでもあるのかな? でも、他人の私が踏み込んでもいいことなの?)


 アヤノの事を案じつつも、その心中を追求することに躊躇ったミモリは、わずかに思案を巡らせて妙案を思いつく。


「ねぇ。二人はなんで異世界に来ようと思ったの? あ、もちろん言いたくないなら、構わないんだけど」


 治療を終えたカナタとアヤノに視線を配ったミモリは、明るい声音で話かける。


「私はね。小さい頃、事故にあったの」


 そうして自ら話を切り出したミモリは、カナタとアヤノに自分がこの異世界移住に参加した理由を語り始める。


「家族で旅行にいった時、高速道路で玉突き事故に巻き込まれてね。私は何とか無事だったけど、運転してたお父さんと助手席のお母さんがひしゃげた席に挟まれてて、血まみれで、苦しそうに呻いていて……」


 その当時の事を思い返し、今にも身を引き裂かれそうな胸の痛みに沈痛な表情を浮かべるミモリに、カナタとアヤノも、かける言葉を見つけられずに耳を傾ける。


「助けたかった。でも、私には何もできなくて……結局二人とも死んじゃった」


 助けられるまでの間、苦しむ両親を見ながら、何もできずに同じ車内で過ごすしかなかった自身の無力と恐怖と絶望はミモリの記憶に強く刻み付けられている。

 思い出すというのはおそらく正確な表現ではない。ミモリ自身の記憶にその時のことが強く焼きつけられ、いつも変わらず過去の傷が記憶の中にあって、普段は何とかそれから目を逸らしているだけなのだ、


「親戚に引き取ってもらって、何不自由なく生活させてもらってたけど、なんだか居心地が悪くて……だから、今回の異世界移住に参加したの」


 簡潔に自身の過去と異世界移住に参加した理由を明かしたミモリに、アヤノはその意図を正確に読み取り、おもむろに口を開く。


「私も似たようなものよ」


 ミモリが辛い過去を話してくれたのは自分を慮ってくれたから。

 気遣ってほしいわけでもないし、ミモリが勝手したことではあるが、その心遣いを無下にすることはアヤノの矜持に反することだった。――否、もしかしたら、自分の中にある暗く後ろ暗いものを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。


「私の家は古くから続く剣術の家でね。私は父に憧れて剣を習ってた。いずれは私が家を継ぐんだって思ってたけど……」


 手にした真剣に視線を落とし、遠い日を思い返すような眼差しを浮かべたアヤノは、目を伏せて自嘲めいた吐息を零す。


「私は兄にも弟にも勝てなかった。女だからっていうのもあるだろうけど、多分単純な才覚でも劣っていた。

 何より、両親も家族も祖父母も、みんなもう『剣は時代じゃない』って言うの。それがすごく悔しくて、でもどうしようもない現実だっていうことも分かっていた」


 アヤノは剣が好きだった。だが、同時にその身体は女で、同じだけ努力している兄や弟にはどうしても劣っていた。

 性差に、才能、何より時代。剣が好きでも、仮に誰より強くても、現代日本でそれにどの程度の価値があるのか、変わり果てた時代に取り残されたものがアヤノの前に絶望的なまでの壁となって立ちふさがっていたのだ。


「でも、私は、剣を棄てられなかったし、捨てたくなかった。正直にいえば剣を使いたかった。今の日本じゃ……いえ、世界のどこでだって剣で身を立てるなんて、無理だったから。

 でも異世界なら――日本じゃない世界なら、武器を使って生きていけるかもしれないって思ったの。私は、何かを、悪人でも、怪物でもなんでもいいから命あるものを斬りたかった」


「……意外と危ない人?」

「しーっ」


 アヤノの告白に思わずカナタが呟くと、ミモリが窘めるように人差し指を口に当てる。

 そんな二人のやり取りに目を細めたアヤノは、自分の中にあった暗いものを吐き出すことができて、肩が軽くなったような感覚を覚えていた。


「命を落とした人もいるのだから、こんなことを言うのが不謹慎だというのは十分分かっているけれど、私は今そんなに悪い気分じゃないの。

 この能力で、この剣を、自分と誰かの命を守るという大義名分で使うことができているんですもの」


 別に人を斬りたいわけではないし、戦闘狂というわけでも殺人狂というわけでもない。

 ただ、大好きな剣が、一生懸命磨き上げた剣術が、時代と法が許さないという理由で、ただ身に着けたままで使われずに終わっていくことが耐え難かった。

 それを振るう場所を異世界に求め、そしてそれはどんな形であれ叶っている。それが歓迎するべきことではないと分かっていても、アヤノは高揚を抱いていた。


 ――おそらく、そんな自分の思想が、両親に跡取りとして認められず、兄弟と実力以上に劣っている部分なのだろうと理解しながらも。


「カナタさんは?」


「なんか、二人の後だとあまりにもくだらなくて、言いづらいんだけど」


 アヤノの告白を聞き、噛みしめるようにしていたミモリに話を振られたカナタは、気まずさに視線を逸らす。


 二人がこの世界へと来た理由は、それぞれに深刻で自身のアイデンティティにおいて重要だったと感じる。

 そんな二人に比べると、カナタは自分の動機があまりにも薄っぺらく、幼稚なものであるように感じられた。


「いいじゃない。ここだけの話よ。恥はかき捨てというでしょ?」


「それって旅の話じゃ……まあ、いいですけど。なんていうか、社会とか人とか、色んなものの顔色を窺って、それに合わせて生きてる自分を変えたかったというか……

 自分の中で、自分は特別な人間でありたかったのに、現実はそうじゃないのが嫌で、別の世界ならそういうのになれるかなって思った的な感じです」


 強く拒めば、話す必要はなかっただろうが、ミモリとアヤノの事情を聴いて自分だけが話さないという選択肢はカナタにはなかった。

 二人の視線にいたたまれなさを感じながら、できるだけ軽く流してもらえるように祈りながら、カナタは軽い口調で応える。


「本当に大した理由じゃないわね」

「だから言ったのに!」


 それを聞いたアヤノの言葉に、カナタは恥ずかしさを誤魔化すように手で顔を隠す。


「でも、私と同じ(・・・・)ね。とても共感できるわ」


「……ッ」


 そう言って目を細めて笑ったアヤノに、カナタは思わず目を奪われてしまう。


「そうだよ。それに、カナタさんの気持ち、私も分かるよ。私だって別に人に合わせて自分の考えを曲げたり、角が立たないように我慢することも多いから」


「そう言ってもらえると気が楽になるよ」


 そんなアヤノにミモリも続き、二人の少女に優しく慰められたカナタは、苦笑めいた笑みを浮かべる。


 自分が特別な人間でありたい。誰にも気を遣わず、自分の思うままに振舞いたい。社会や誰かの顔色を窺って、それに従うのに抵抗がある――それは、人付き合いをしていくうえで避けられないこと。誰もが少なからず思っていることだろう。

 だから、誰もが我慢して、折り合いをつけているそんな普通のことで、異世界へと来た自分の動機にカナタは後ろめたさを感じずにはいられなかった。

 自分とは違う辛い過去を持つミモリや、夢に挫折したアヤノの話を聞いた今だからこそ、そう感じてしまう。


「でも、なんていうか二人と話して思ったんだけど……あれ?」


 その時、カナタの脳裏になにかが奔り、その言葉を止める。


「どうしたの?」


 不意に話を中断したことに小首を傾げたミモリとアヤノに視線を向けたカナタは、自分の中に芽生えたとある可能性に、無意識に目を瞠る。


「もしかして――」



浅野由紀子あさのゆきこ」 死亡


 女子高生か女子大生らしき女性。


生駒優愛いこまゆあ


 大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。


ユウナ 「石田優菜いしだゆうな


 顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」



ミツキ 「江口美月えぐちみつき


 胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」



オタク 「小田拓也おだたくや


 オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」



ハヤテ 「黒島颯くろしまはやて


 迷彩服を着た男。  能力「ステルス」



権藤大河ごんどうたいが」 死亡


 色黒の男。



斎藤朝陽さいとうあさひ」 死亡


 少し派手な印象の男性。



冴山悠さえやまゆう


 冴えない印象の男性。



リョウマ 「桜庭竜馬さくらばりょうま


 顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」



ミモリ 「式原美守しきはらみもり


 少女。能力「治癒」




ヒオ 「鈴木日緒すずきひお


 ギャルのような女性。 能力「ビーコン」



高杉詩帆たかすぎしほ


 明るく人当たりのよさそうな女性。



ハヤト 「橘隼人たちばなはやと


 好青年。 能力「駿足」



タムラ 「田村健吾たむらけんご


 ふくよかな体型の男性。 能力「収納」



塚原敬つかはらけい


 知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」



ヒマリ 「永瀬日葵ながせひまり


 イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」



七海薫ななみかおる


 平凡な女性。



ヨースケ 「野々村(ののむら)陽介ようすけ


 髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。



アヤノ 「氷崎綾乃ひさきあやの


 日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」




ハルナ 「美作春奈みまさかはるな


 清楚な印象の女性。 能力「事典」




宮原誠義みやはらせいぎ」 死亡


 中年男。




ヤナギ 「柳克人やなぎかつと」 


 強面の男性。 能力「身体強化」




カナタ 「結城叶多」


 平凡な少年。能力「シンクロ」


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