探索
「ったく、森の中っていうのはなんでこう似たような景色ばっかりが続くんだか。どっちがどっちかわかんなくなっちまう」
異世界の大地――巨大な島であることが確認できたこの地を進むヤナギは、鬱蒼と茂る森の中を歩きながら、周囲に視線を巡らせる。
「はぐれてるやつはいないか?」
「大丈夫」
この森に潜む怪物に襲われるリスクを可能な限り避けるために声を潜めたヤナギの問いかけに、ハルナが小さく頷く。
集団の先頭を行くヤナギの背後には、異世界へとやってきたメンバー――その生き残り全員の姿があった。
※※※
「結局どうする? 二チームに分かれて探索するか?」
「いえ。全員で行動しましょう」
昨夜、可能な限りの能力を把握した上で行われた話し合いの場で、メガネはヤナギの提案にそう答えた。
「まず、第一に戦闘向きの能力を持った人が限られるということ。戦える能力を持っている方もヤナギやアヤノのように直接的な戦闘技能や闘志を持っているとは言い難い。
炎の能力や、闇の能力、爆発、防壁も、どちらかと言えば後衛やサポート向きです。
あなた達しか戦うことはできませんが、同時にあなた達の存在は我々の生命線でもあります。いざという時に身を守って戦える者がいなければ、結局全員殺されるしかない――そうですよね?」
話を聞く全員に理解をさせるように、メガネは状況を説明しながら問いかける。
現状、最も価値の高い能力はミモリの治癒だが、戦闘能力もメンバーが生存するために必要不可欠な力だ。
戦闘能力持ちだけを戦いにいかせ、もしそこで彼らが命を落とせば、どの道残った非戦闘能力持ちのメンバーは何もできずに命を落とすことになるだろう。
ヤナギ達が持つ戦闘向きの能力は、全員の生存確率に直結している。
それを全員で共通認識として分かち合ったのを確認できたところで、メガネは重苦しい沈黙を破ってさらに話を続ける。
「その上で、探索にはヒマリさんの危機察知、ハヤテくんのステルス能力による斥候、ビーコンによる位置確認、ミモリさんの治癒、可食を判断するためのハルナさんの事典、そしてタムラさんの収納は欠かせません」
「え!? ぼ、僕ですか?」
「当たり前だろ。全員分の食料や水をどうやって運ぶんだよ」
「うぅ……っ」
名指しされて目を丸くするタムラに、ヤナギか呆れたように言う。
実際、能力の検証でタムラの収納にはかなりの容量があることが判明しており、かさばる食料や水の保存と運搬に欠かすことのできない人材だ。
「もっといえば、ロッジに残ったとして、この場所が絶対に安全ともいえない。
以上のことを踏まえれば、多少のリスクを取ってでも全員で動いた方がいいでしょう」
誰だって人食いの怪物がいる森の中を身の安全の保障もなく歩きたくはない。
だが、ロッジに残って戦う力もないまま襲われる可能性を考えれば、多少なりとも戦える者と同行した方がいいはず。
そう結論づけたメンバーは、本心からではなくともメガネの提案を受け入れ、全員で森の中を探索することに決めたのだ。
※※※
「どうだ?」
「大丈夫。今のところはピリピリしない」
ヤナギの問いかけに、危険を察知する能力を持つヒマリが答える。
「ヤナギさん」
その時、機を見計らっていたかのようにヤナギの前方の空間が揺らぎ、ステルス能力を解除したハヤテが姿を見せる。
「とりあえず、周囲に危険そうな生き物はいないっす」
「そうか」
ハヤテの報告にヤナギが呟くのを聞いたメンバーは、不安に駆られた表情で鬱蒼と木々が生い茂る森の中を見回す。
「ほ、本当に大丈夫なの!?」
木々の隙間から、身の丈三メートルはあろうかというサイにも似た巨大な生物を見て取った優愛が震えた声で言う。
豊かな森であることはもちろん、地球人というものに対する警戒感も薄いのだろう。
周囲を見渡せば、時折様々な生物の姿を見ることができる。その中には、明らかに肉食であろうという獣も見え、ライオンすら霞むような大きさと凶々しさを持つ怪物には、否応なく恐怖を煽られる。
特に、獣にその腕を食いちぎられて生死の境をさまよった優愛にとっては尚のことだった。
「心配しないで。弱い生き物が群れを成すのは普通のことよ。私達が集まっているからといって、必要以上に狙われることはないわ。
それに、ここにいるのは異世界のものとはいえ生き物。たとえ凶暴な怪物でも、お腹が減ってるとか、それなりの理由がなければ襲ってこないはずよ」
全員で固まっていることで、かえって狙われやすくなるのではないかという怯えを否定し、生物としての活動原理の面から一定の安全を保障するハルナの言葉も、不安を拭い去るものではない。
(確かに、ハルナさんの言うとおりだ。でも、異世界にいる生き物が、ただ何の理由もなく命を奪うことが好きだからという理由で襲ってこない保証もない――けど、そんなこと言ったってしょうがないんだ)
おそらく自分以外にも同じ不安を抱えているであろう同行者たちに視線を配りながら、カナタは心の中で独白する。
不安や可能性は考えだせばきりがない。どこかで割り切って行動しなければ、待っているのは死だけだ。
「こんなことなら、異世界になんて来るんじゃなかった……ッ」
絞り出すように紡がれた優愛の言葉は、地球での暮らしがどれほど安全だったのかを痛感している全員の心の内を少なからず代弁するものだった。
「……リョウマさんのおかげで大きな川の位置はおおよそ特定できているから、とりあえず水場までは気を付けて進みましょう」
優愛の言葉に共感しつつも、仲間達に落ちた重苦しい空気を払拭するように、ハルナは努めて平静を装って言う。
今回の探索の目的は、この地で過ごすための食料と水の確保。そして可能であれば、詳細な地形や安全な順路の確認も兼ねている。
水場への道のりを確認しながら、時折ハルナの能力を用いて周囲に実っている木々の木の実や植物が食べられるが否かを判別しながら、一同はゆっくりと進んでいく。
高所に生っている木の実も、今や能力の影響で高所恐怖症を克服したリョウマが収穫することができる。
危険を最大限避けるため、生物を狩って肉を確保するのは最後――帰る時にするというのは、事前に決めていることだった。
「ここが……」
そうしてしばらく森を進んだところで、カナタ達の目の前が開け、大きな川が姿を現す。
森の中を流れるその川は、遠目でも分かるほどに清く澄んでおり、森の木々の緑が途切れて露わになった空から降り注ぐ太陽の光を受けて輝いている。
「綺麗」
(確かに。まるで、漫画やアニメに出てくる原生林みたいで、本当に綺麗だ)
その光景を見て、女性陣の誰かが感嘆の声を零すが、それはカナタも同様だった。
「油断しないで。水場はとても危険な場所よ」
「ワニのように、水中から襲ってくる危険生物がいる可能性もありますからね」
一瞬だけ目を奪われていたものの、瞬時に冷静さを取り戻したハルナが悠然と流れる清流を見て緊張した声で言うと、メガネが不安をあおる事実を指摘する。
森の際から川までは、五十メートルほどの川原がある。
そこまでは一切の遮蔽物がなく、身を隠すことはできない。
獲物を狙う飢えた獣にとって最高の狩場であることはもちろんのこと、水生生物にとっても最高の狩場となることは想像に難くなかった。
「じゃあ、どうやって水汲むんすか?」
小声で送られてきたその話を聞いたヨースケが怪訝な表情で尋ねると、ヤナギは小さく口端を吊り上げて応じる。
「決まってんだろ? 全員でさっさとやるんだよ」
「――ですよね」
ヤナギの言葉にヨースケが肩を落とすと、ハルナは全員に向かい合うようにして指示をする。
「ヒマリさんは、能力で周囲の警戒をお願いします。戦える人達も、みんな周りを警戒してください」
「了解」
ハルナの指揮の下、森から出た全員が周囲に気を配りながら川へと移動し、持っていたペットボトルや水筒、タムラの収納能力で持ってきていたロッジ備え付けの大きなポリタンクなどに水を入れていく。
タムラの収納能力の上限は今のところ見えないが、事前の検証で一つの問題が新たに発覚している。
それは、水のような液体はそのままの状態では収納することができず、液体を入れるならば、容器などに入れておく必要があることだった。
「――っ!」
そうして次々に水を容器に入れ、タムラの収納へと入れていたところで、ヒマリは全身を冷たい水に浸されたような感覚を覚えて息を呑む。
「来た」
「!」
小さく発せられたヒマリの言葉に一瞬で緊張が奔り、ヤナギをはじめとした戦闘能力を持つ者達は一斉に周囲に注意を配る。
その時、森の木々の合間から、蛇のように長い身体を持った生き物が姿を見せる。
しかしその身体には蛇ならば存在しないはずの手足が生えており、般若の面や鬼のそれを思わせる恐ろしい顔を有している。
例えるならば地上を這いずる竜擬きとでも言うべき姿をしたその異形の怪物は長い舌を出しながら、カナタ達を爛々と輝く赤い双眸で睨みつけていた。
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
ミツキ 「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
ハヤテ 「黒島颯」
迷彩服を着た男。 能力「ステルス」
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。
リョウマ 「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
ヒオ 「鈴木日緒」
ギャルのような女性。 能力「ビーコン」
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
ハヤト 「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
ヒマリ 「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」
「七海薫」
平凡な女性。
ヨースケ 「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
アヤノ 「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
ハルナ 「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。




