異世界の大地
「これが、異世界の景色か」
「島……よね?」
リョウマの飛翔能力によって撮影された島の高度からの全景を見たヤナギの言葉に、ハルナが確認するように呟く。
リョウマによって撮影された異世界の大地。それは、四方を海に囲まれた島だった。
島全体を覆う緑の森。山が多いのか、全体的に隆起した形状をしており、ところどころに平野のような場所も見て取れる。
はっきりとは見えないが、映像では島の外周には切り立った崖がまるで外界からの接触を拒んでいるかのように広がっているように見えた。
「ええ。おそらく。正確な外周は分かりませんが、大きめの孤島でしょうね」
ハルナの言葉にメガネを軽く持ち上げて応じた塚原は、真剣な面持ちでその景色に視線を巡らせていく。
「大きめの孤島」とはいったが、それはあくまで地球人としての感性からくる「大きめ」であり、この世界でどの程度の位置に分類されるかは分からない。
だが、今はそんなことは問題ではない。
「問題は、人が住んでいるのかだが――」
「それは分かりませんが、これを見てください」
この島が無人島かどうかを懸念するヤナギの言葉に、メガネは映像の一点――撮影場所から遠く、また山や樹といった障害物に遮られて見にくいため、かすかにしか見えないその場所を指さす。
「橋?」
それを見たハルナが目を細めて呟くと、メガネは神妙な面持ちで頷く。
「ええ。かなり長いですが、海の向こうまで続いているようにみえます。もしかしたら、別の島――あるいは大陸のような場所に繋がっているのではないかと。あくまでも可能性ですが」
メガネの考えは少々楽観的にも思えたが、その可能性の指摘はここにいる全員にとって一抹の希望を灯すものでもあった。
「……一度、ここまで行ってみる必要があるな」
「でも、これ多分かなりの距離よ? 多分一日二日で辿り着けるような距離じゃないわ」
それを聞いたヤナギが思案気に口を開くと、ハルナが忠告する。
かなりの高度から撮影した島の全景。正確な計算方法に精通している者は残念ながらこの場にはいなかったが、それでも三角測量から考えて、一朝一夕で辿り着ける距離ではないことくらい成人組には一目瞭然だった。
「拠点から離れて、怪物どもが住む森の中を野営しながら進むしかないってことか……」
「待ってよ。そんなの嫌よ! 危険すぎる。だって、この森の中には、あんな……あんな化け物がいるのよ!? 全員殺される!」
現実的に橋に辿り着くための手段をヤナギが呟くと、優愛が青褪めた表情で声を張り上げる。
(確かに)
その言葉に、カナタは内心で納得していた。
命惜しさに叫んでいるようにもみえるが、異世界の獣に腕を食いちぎられ、命の危機に瀕した優愛がそんな反応をみせるのは当然のこと。
この世界への恐怖は、死の恐怖と共にこの心にトラウマレベルで刻み付けられていて当然。
優愛でなくとも、一緒にこの世界に来た仲間達が無残に殺された姿を見ているカナタを含めた全員が共感できることだ。
「でも、このままここで原始人みたいな暮らししろっていうの!? 私はそんなのいや! みんなの力を合わせればできるんじゃない? まあ、私は戦う能力じゃないから、偉そうには言えないけど」
「いえ。確かに彼女の言う通りです。私達の能力を使って切り抜けられるか、考える余地は十分にあると思います」
しかし、そんな優愛の言葉を拒絶するようにヒオが言うと、沈黙を守っていたアヤノも同意を示す。
自らの日本刀を魔剣に変える能力を持ち、メンバーの中でも有数の戦闘力を持つアヤノの言葉に、オタクが思案気に呟く。
「確かに、どちらの意見にも一理ありますな」
橋に行くには、このロッジを離れなければならない。
だが、昨日体感したように、この世界には現実世界にはいなかった凶暴で、強力な生き物――人間など足元にも及ばない力と、人を食料としてしかみなしていないような怪物がうようよ生存している。
そんな生き物が跋扈している森を抜け、橋に辿り着き、さらにその先に人がいるという可能性に賭けるリスク。
このままここで暮らし続ける安全性とリスク――それを天秤にかければ、一長一短であるように思える。
「どの道、それなりの準備が必要だ。思いついてすぐに行けるってもんでもねぇ」
「そうね」
平行線を辿りそうな議論を遮ったヤナギに、ハルナも同意を示す。
「特に食事と水に関しては念入りに準備しないと。それに、もしここが無人島じゃなかったら――仮に今は人が住んでいなくても、例えば外から人が来る場所なら、接触できる可能性も残っているわ」
「大分楽観的な視点ではあると思いますが、準備期間が必要だというのは同意です。どの程度かかるか分かりませんが、それまでの間にこの世界の人間と接触できなかったら、改めて考えるとしましょう。
他の皆さんも、自分の意見を纏めておいてください」
ハルナの言葉に同意と否定の混じった意見を述べ、軽く眼鏡を押し上げたメガネは、全員に向けて尋ねる。
(食料が集まった後、ここに残るか、外に向かうか……)
いずれ来る選択を示されたカナタは、無意識に拳を握り締める。
異世界にきた理由を思えば、カナタの中ではその答えはほぼ決まっていると言ってもいい。
だが同時に、この世界に来て、未だ見つけられない自身の能力に対する焦燥が、その意志にブレーキをかけていた。
(結局、僕は異世界に来ても何も変わってない)
自分を変えたいと願い、異世界に来たはずなのに、ヤナギやハルナ、メガネといったリーダーシップがある人達に流されるしかない。
オタクのように自分の知識から見解を述べられるわけでもなければ、看護師だった詩帆のように役立つ知識や経験があるわけもない。
そんな自分に自身を心の中で嘲笑したカナタは、その表情に影を落とす。
「とにかく、食料調達に行くぞ」
その時カナタの耳に、場を取り仕切るように発せられたヤナギの声が届く。
橋に向かうにしても、この場に留まるにしても、食料がなければ長時間は生きられない。いずれにしても今は、全員の生存期間を少しでも長く保つことが至上目的であることは確かだった。
(この世界で、僕には何ができるんだろう?)
その言葉を聞いたカナタは、無力な自身の手に視線を落として自問自答するも、当然それに対する答えを見つけることはできなかった。
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
ミツキ 「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
ハヤテ 「黒島颯」
迷彩服を着た男。 能力「ステルス」
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。
リョウマ 「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
ヒオ 「鈴木日緒」
ギャルのような女性。 能力「ビーコン」
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
ハヤト 「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
ヒマリ 「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」
「七海薫」
平凡な女性。
ヨースケ 「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
アヤノ 「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
ハルナ 「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。