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一日目の終わり



「ここは……」


「気がついた?」


 暗闇の中から意識を覚醒させ、虚ろな瞳に木製の天井を映していた女性――優愛は、ハルナの姿を見た瞬間に全てを思い出す。


「私……っ!」


 跳ねるように飛び起きた優愛は、最後の記憶――獣に腕を食いちぎられた恐怖と痛みに錯乱する。


「腕が……」


 だが、それも一瞬のこと。


 痛みはすでになく、失ったはずの腕もそこに存在している。

 そらは、まるであの光景が全て夢だったかのような状態。

 だが、それが夢ではないことは、目の前にいるハルナが、そして自分の身体に刻まれた記憶が理解していた。


「驚いたでしょ? これから、全部説明するから」


 なにが起きたのか分からずに困惑している優愛に、ハルナな優しい声音で語りかけると、ゆっくりと話し始めるのだった。


※※※



「――驚いたな」


 全員が持ち込んだ荷物の中から食べ物を取り出し、ヤナギが感嘆する。


 お菓子にパン、ペットボトルのジュースが数本に缶詰。

 そこには、この人数で分けてもそれなりに腹を満たせるだけの食料があった。


「ええ。これは嬉しい誤算ですね」


 ヤナギの言葉に、メガネも安堵した表情を浮かべる。


 異世界に移住できると思っていたため、各自持参した食料は少なめ。中には食べ物自体を持ってきていない者もいた。

 だが、タムラとオタクが特に多くの食品を持っていたために、少なうとも今日は空腹に悩まされる心配がないというのは幸いだった。

 少ない食料を分け合う必要もなく、食料を取り合って無用な諍いや不和が生じるのを避けることができる。


「たくさん食べるので」


 ふくよかな体格――飾らない言い方をすれば、太っているタムラに、誰もが内心で納得していた。


「現地人に食べ物を渡して賛美されるのは異世界のお約束ですからな」


 そして堂々と胸を張るオタクの言葉に、ヤナギが少し冷めた視線を向ける。


「……そうか」


「うゥ……ッ」


 あえて何も言わなかったが、哀れむような視線をヤナギやその他大勢から向けられたオタクは、咽ぶような声を上げる。


(僕は分かりますよ。あなたの気持ち)


 そんなオタクの姿に、カナタは同情と心からの応援を送っていた。


「念の為、三日分ほどに分けて食べましょう」


 メガネの提案に反対する者はなく、全員の目の前でおよそ三等分に分けられた後、各々食事を摂ることになった。


「ごめんなさい。遅くなって」


 その時、少し遅れてリビングにやってきたハルナの背後から、優愛が顔を出す。


「目が覚めたか」


「その節はありがとうございました」


 ヤナギの視線に一瞬身体を強張らせた優愛は、頭を下げて感謝を述べる。


「気にしないで下さい。それに、お礼なら彼女に」


「え!?」


 それに応えたメガネは、優愛の傷を治したミモリに視線を向けて言う。


「ありがとう」


「いえ……その、よかったです」


 優愛にあらためて感謝の言葉を送られたミモリは、恐縮しながら応じる。

 その様子を見て目を細めた一同は、全員揃って食事を始めるのだった。


「ねぇ、お風呂は……ダメだよねぇ」


 食事を終えたところでミツキが尋ねる。

 それは、おそらく無理だろうと感じていながらも、念の為に確認したいという意図が伝わってくるものだった。


「このロッジには電気も水も通っていません。お風呂に入るにはせめてどこかから水を汲んでこないといけませんが、さすがに今そのリスクを冒すことはでしませんので、申し訳ありませんが」


 そんなミツキの質問に、メガネは言いにくそうにしながら答える。


「だよね……ま、仕方ないか」


 予想通りの答えを聞いたミツキは、言いながらも残念さを隠しきれずに肩を竦める。


「え? 水出ないってことは……トイレは?」


 だが、それを聞いたヒオが愕然とした面持ちで、尋ねると、メガネとハルナ――現在代表のような立場にある二人が言いにくそうに顔を背ける。


「裏口のところに、ハヤテが持ってきたスコップがある」


 そんな二人に代わって口を開いたヤナギは、親指でキッチンの奥にある裏口を示す。


「え? それって――」


 それが意味するところに最悪の可能性を想像したヒオに、ヤナギは残酷な現実を告げる。


「掘って、して、埋めろ」


「あ、あ……」


 その絶望は、ヒオだけのものではなかった。

 女性陣はもちろんのこと、男性陣もほとんどが渋い表情を浮かべる。


「幸い、なぜかオタク君がもっていたトイレットペーパーがあります。ただ、節約して下さい」


「じゃあ、女の子達は私に言ってくれたら、闇で隠します」


 メガネの言葉に、手を挙げたミツキが言う。


 ミツキの能力は「闇」。その力があれば、用を足す間人目を隠すくらいは可能だろう。


「男性陣は……」


「ごめんなさい」


 その提案を受けたオタクの要求を、ミツキは頭を下げて拒否する。


「オイオイ。野グソかよ」


「いや。でも慣れれば案外いけるっすよ」


 それを聞いたヤナギが苦々しげに言うと、髪を染めた青年――「野々村陽介」があっけらかんとした口調で言う。


「え!?」


 明らかに経験があることをうかがわせる陽介の言葉に、全員の驚いた声が重なった。



※※※



「では、すみませんが見張りをお願いします。何かあればすぐに起こしてください」


「はい」


 メガネの言葉に、カナタは小さく頷く。


 明日からの活動のために体力の回復をはかるため、夕食の後は、すぐに就寝することとなった。


 夜間の警戒のため、表と裏の扉には見張りを立てることになり、能力が覚醒していないカナタと野々村陽介、終始なにかに怯えたようにしている冴島悠の男三人が玄関内側から外を警戒し、裏口は元看護師ということで夜勤に慣れているといって立候補した高杉詩帆と能力が発現していない七海薫と、まだ能力迂の検証をしていない生駒優愛の三人が交代で担当することとなった。

 玄関には障壁が使えるメガネ、裏口の前にはヤナギが担当し、壁に寄りかかるように眠っている。


 リビングと個室は女性陣が使っており、それ以外の男性陣は廊下や邪魔にならない場所で雑魚寝をしていた。

 異世界への転移からはじまり、仲間の死、サバイバルを強いられた緊張感からか、皆すぐに気を失いように眠りに落ち、寝息が聞こえ始める。


「大変なことになっちゃったね」


「えっと……野々村、さん」


 カナタが扉のガラス越しに星明かりしかない外を観察していると、不意に声をかけられる。

 その声の主は、一緒に見張りをしている青年――「野々村陽介」だった。


「ヨースケでいいよ」


「カナタです」


 寝ている人達を起こさないよう、声を潜めて話しかけてきたヨースケは、明らかにカナタよりも年上だったが、とても話しやすい気さくさがある。


「ブラック企業から逃げるために異世界に来たのに、こんなことになるなんてツイてないな。あっちではデスマーチ、こっちでは命懸けのサバイバル……俺の人生は平穏と無縁なのかな」


「災難でしたね」


 肩を落とし、深くため息を吐くヨースケに、カナタは同情の言葉を送る。


「緊張なのか、目が冴えて全然寝付けそうにないよ。これなら何日でも徹夜できそうだ」


 自身の過去を思い返しながら、自虐めいたことを言うヨースケを見たカナタは、おもむろに口を開く。


「――僕も、自分を変えたくてこの世界に来ました。だから、そのためにも死ぬわけにはいかないんです」


 声を抑制し、ヨースケに語りかけたカナタは、記憶に焼き付いて離れない死の光景に、自身を奮い立たせるように言う。


「これ以上誰も欠けることなく生きてここを出たいです。

 そのために……そのためにこの世界に来たんだから」





浅野由紀子あさのゆきこ」 死亡


 女子高生か女子大生らしき女性。


生駒優愛いこまゆあ


 大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。


ユウナ 「石田優菜いしだゆうな


 顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」



ミツキ 「江口美月えぐちみつき


 胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」



オタク 「小田拓也おだたくや


 オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」



ハヤテ 「黒島颯くろしまはやて


 迷彩服を着た男。  能力「ステルス」



権藤大河ごんどうたいが」 死亡


 色黒の男。



斎藤朝陽さいとうあさひ」 死亡


 少し派手な印象の男性。



冴山悠さえやまゆう


 冴えない印象の男性。



リョウマ 「桜庭竜馬さくらばりょうま


 顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」



ミモリ 「式原美守しきはらみもり


 少女。能力「治癒」




ヒオ 「鈴木日緒すずきひお


 ギャルのような女性。 能力「ビーコン」



高杉詩帆たかすぎしほ


 明るく人当たりのよさそうな女性。



ハヤト 「橘隼人たちばなはやと


 好青年。 能力「駿足」



タムラ 「田村健吾たむらけんご


 ふくよかな体型の男性。 能力「収納」



塚原敬つかはらけい


 知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」



ヒマリ 「永瀬日葵ながせひまり


 イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」



七海薫ななみかおる


 平凡な女性。



ヨースケ 「野々村(ののむら)陽介ようすけ


 髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。



アヤノ 「氷崎綾乃ひさきあやの


 日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」




美作春奈みまさかはるな


 清楚な印象の女性。 能力「事典」




宮原誠義みやはらせいぎ」 死亡


 中年男。




ヤナギ 「柳克人やなぎかつと」 


 強面の男性。 能力「身体強化」




カナタ 「結城叶多」


 平凡な少年。


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