今後の方針
「さて。ほとんどの能力把握できましたし、これからの方針を共有したいと思います」
ロッジに戻った塚原――もとい、メガネが言う。
「とりあえずは能力別に役割分担をするのが妥当ではないかと思います」
「個人の適性も見るべきじゃない?」
能力に応じた役割分担を提案したメガネに、ハルナが意見を述べる。
個人の資質や性格を考慮するべきとするハルナの意見に、メガネは小さく首を横に振る。
「人手が限られている中でそれを容認するのはあまり得策ではないと思いますが?
たとえば我々が生きていくうえで食料の確保は欠かせません。
当然外に出る危険な役目で、あのような怪物がいる以上戦闘力の高い能力を持った者を優先して配置することになるでしょう。
ですがその人が『怖いから嫌だ』と言ったからと受け入れては、他のメンバーのリスクが跳ね上がることになるのは明白です」
「それはそうかもしれないけど、無理矢理やらせてもパフォーマンスが下がるし、逆に足手まといになるんじゃない?」
合理的に能力で役割を分担するべきだとするメガネに対し、人格や人間性も考慮するべきだというハルナが意見を戦わせる。
しかし、双方の意見にはどちらにも一定の理があり、すぐに答えが出るようなものではないことは、この場にいるほとんどの者が理解していた。
「とりあえずその話は後でいいだろ? これからどうしたいのか言えよ」
これ以上やり取りを続けても不毛だと判断したヤナギが話題を先に進めるように促すと、メガネは小さく咳ばらいをして話を戻す。
「先程も言った通り、食料や飲料水の調達をして生存しながら、この世界の文明と接触します。
『調達班』、『調査班』、『サポート班』くらいには分けたいところですが……」
「戦闘向きの能力を持った人の数を考えたら足りないんじゃない?」
希望を述べたメガネだったが、ハルナの指摘に小さく頷く。
「そうですね。連絡を取り合う手段もありませんし、人手を分散するのはリスクが高すぎる」
「そうね。さすがにスマホは圏外で使えないし」
あくまで合理的に物事を判断しようとするメガネは、ハルナの主張を全面的に認める。
実際、攻撃力を持つ能力はあるが、確かな戦闘力を持った人物となると、ヤナギとアヤノに限定されてしまうと言ってもいい。
さらに、異世界ということで電波など当然存在しないため、人数を分散しても連絡を取り合うことができないのは致命的だった。
「え?」
しかしその時、怪訝な声を発したギャル系の少女――「ヒオ」に、全員の視線が向けられる。
「みんな、スマホ使えないの?」
「ちょっと失礼――こ、これは! スマホのアンテナが立ってます!?」
小首を傾げたヒオの言葉に、駆け寄ったオタクがスマホを確認すると、そこには現在通信をしているというマークが確かに表示されていた。
「え? みんなそうじゃないの?」
「違いますよ。そもそも基地局もなしにスマホは使えないでしょ?」
圏外と表示された自身のスマホを見せたオタクは、一つの可能性に思い至って声を発する。
「これは、もしかしてあなたの能力なのかもしれません」
「これが、あたしの?」
「ねえ! じゃあ、もしかしてネットに繋げば、助けを呼べるんじゃ?」
スマホが通信できる状態になっていることを聞いたユウナが希望に表情を輝かせる。
(仮に繋がったとしても、異世界にくる方法なんて……)
しかし、それを聞いていたハルナは、仮にヒオのスマホが地球のネットに繋がり、自分達の状況を伝えることができたとしても、異世界へくる方法など誰も知らないのだから、助けが来ることはないと考えていた。
それはハルナだけではなく、この場にいる者の大半がそうだったが、誰もがそれを言葉にすることはなかった。
「……だめ。ネットには繋がらない」
だが、ある意味想像通りの結果がヒオの口から無慈悲に告げられると、言い出した本人であるユウナはもちろんのこと、誰もが小さく落胆する。
「ま、そりゃそうか」
「けど、みんなの位置は分かるみたい――ほら」
分かり切っていた結果とはいえ、ショックを禁じ得ない場の空気をやわらげるようにヤナギが言うと、スマホを弄っていたヒオは、別の機能を発見する。
それは、ここにいるメンバーが光の点として表示されている画面だった。
地理や地形は把握できないが、およその位置関係が表示されており、まるで発信機のような効果を感じさせる。
「え? あ、これタップすると通話ボタンみたいなのが出るんだけど? 試しに……もしもし」
「え? 頭の中に声が!?」
画面に表示されたマークをタップしたヒオがスマホに話しかけると、ハルナは頭の中に聞こえた声に目を丸くする。
「これはトランシーバーのような能力でしょうか! 素晴らしい! 互いの位置の把握と連絡を可能にする能力とは!
スマホ――いえ、『ビーコン』とでもいうべきでしょうか」
ヒオの能力に、オタクが興奮のあまり鼻息を荒くする。
「素晴らしい能力です! この力があれば、離れていても連絡を取り合うことができますね!」
「ええ! これはとても重要なことだわ。ただ、問題は充電と、スマホが壊れたら使えなくなる可能性は考えないと」
メガネの言葉に、ハルナは思案気に独白し、その視線を一人の少女に向ける。
「彼女の能力は重要だけど、現時点で一番価値の高い能力は……」
「ミモリです」
ハルナの視線に、ミモリはあらためて名乗る。
「ミモリさんの回復能力です。この力があれば、とりあえずある程度の怪我までは治癒させることができる。
これは、これからここで生きていかなければならない私達にとって重要な能力よ」
「確かに、四肢の欠損まで治せる以上、彼女の存在は我々の生存率にも直結している」
メガネの言葉で自分の能力の価値を再認識し、同時に責任の重さを痛感したミモリは、緊張で喉を鳴らす。
「これ以上死人をだすことはできないわ」
「ええ。当面の目的は、生存と、この世界の知的生命体との接触」
ハルナの言葉に、メガネも強く頷く。
「もうすぐ日が暮れます。今日は今ある食料を分配してしのぐしかありませんが、明日以降は食料と水の確保に力を入れます」
窓の外を見て日が傾いているのを見て呟いたメガネは、反射で光るグラス越しにヤナギを見る。
「不本意ですが、あなたの力が必要です」
「一言多いんだよ。まあ、こっちも生きなきゃならないからな」
メガネの言葉に、ヤナギは眉を顰めて応じる。
(僕もなにか役に立てれば……)
そのやり取りを見ながら、カナタは思いを募らせる。
しかし、能力を発現していないカナタは、ロッジに残ることになり、歯痒い思いをするのだった。
※※※
「待って」
全員が解散したあと、ハルナはリョウマを呼び止める。
リョウマは「飛行」という優れた能力を持ちながら、高所恐怖症という欠点のために十全に活かせない。
だが、これからメンバーが生き延びるために、その力は必要不可欠なものだった。
「これから私達が生き延びるには、どうしてもこの周囲の正確な地理や状況を把握しなくちゃいけない。
ここがどこなのか、人が住んでいそうな方向はどっちなのか――危険な生き物がいる広さもわからないこの森をやみくもに探索して把握するのは危険すぎる。
だから、どうしてもあなたの力が必要なの」
「……っ」
ハルナの言葉に、リョウマは苦い表情を浮かべる。
ハルナの言い分はこれ以上ない正論だ。
皆がいなくなるのを待ってこの話を切り出したのも、ハルナの心遣いだと分かっている。
「分かってます。俺がやらなきゃいけないことも、俺にしかできないことも。
でも、俺は……それでも、みっともないけど、高いところが怖い……!」
だが、それでも自身に刻まれた高所恐怖症が消えるわけではない。
絞り出すように告白したリョウマに、ハルナは残酷なことだと分かっていて、頭を下げる。
「ひどいことを言っているのはわかっています。でも、どうかお願いします。
目を瞑っていてもらっても構わないから、能力を使ってください! 何とかしてこの辺りの全景を知りたいんです」
深く頭を下げるハルナを見て、リョウマは自嘲を零す。
「凄いですね。自分のためでもあるでしょうけど、みんなのためにそんな真剣に頭を下げられるなんて。
それに比べて、俺は自分のことばっかりだ」
全員で生きるために頭を下げられるハルナを見て、リョウマは歯噛みする。
「……高いところは死ぬほど怖い。でも、俺がやらなきゃ、俺の臆病さが、誰かを――皆を殺すってわけだ」
「そんなつもりじゃ……」
本意ではない受け取り方をするリョウマの言葉に、ハルナは慌ててしようとする。
「一晩ください」
だがリョウマは、手でハルナの言葉を遮ると背を向けて部屋を出ていく。
その様子を不安げな表情で見送っていてハルナに、隣へ移動してきたヤナギが話しかける。
「大丈夫だ。あいつ自身分かってる。答えも出てる。ただ、決心する時間が欲しいんだよ」
「慰めてくれてるの? 優しいんだ」
首だけを向けて笑ったハルナに、ヤナギは素っ気ない様子で応じる。
「馬鹿言え」
「浅野由紀子」 死亡
女子高生か女子大生らしき女性。
「生駒優愛」
大人びた印象を持つキャリアウーマン風の女性。
ユウナ 「石田優菜」
顔立ちは整っているが、あまり華のない地味な女性。 能力「火」
ミヅキ 「江口美月」
胸元の大きく開いた妖艶な色香を感じさせる女性。 能力「闇」
オタク 「小田拓也」
オタクのような容姿の青年。 能力「爆発」
ハヤテ 「黒島颯」
迷彩服を着た男。 能力「ステルス」
「権藤大河」 死亡
色黒の男。
「斎藤朝陽」 死亡
少し派手な印象の男性。
「冴山悠」
冴えない印象の男性。
リョウマ 「桜庭竜馬」
顔立ちの整った美男子。高所恐怖症 能力「飛行」
ミモリ 「式原美守」
少女。能力「治癒」
ヒオ 「鈴木日緒」
ギャルのような女性。 能力「ビーコン」
「高杉詩帆」
明るく人当たりのよさそうな女性。
ハヤト 「橘隼人」
好青年。 能力「駿足」
タムラ 「田村健吾」
ふくよかな体型の男性。 能力「収納」
「塚原敬」
知的な印象を持つ眼鏡の男。 能力「防壁」
ヒマリ 「永瀬日葵」
イヤホンを着けた少女。 能力「危機察知」
「七海薫」
平凡な女性。
「野々村陽介」
髪を染めた軽薄な雰囲気の男性。
アヤノ 「氷崎綾乃」
日本刀を携えた黒髪の美少女。 能力「魔剣」
「美作春奈」
清楚な印象の女性。 能力「事典」
「宮原誠義」 死亡
中年男。
ヤナギ 「柳克人」
強面の男性。 能力「身体強化」
カナタ 「結城叶多」
平凡な少年。