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常闇の乙女  作者: 櫻塚森
7/9

なな

『ノーチェは、これでよかったん?』

首にネックレスよろしく巻き付くロロが言う。

「これでって?」

『父親に会ってかないの?』

クズス伯爵家を見下ろす高台にある木から見下ろしているスコタディノーチェと使い魔のロロ。

「んー、別にいいかな、彼と私が関わりあるのは因子情報だけだし。」

あっさり返す相棒に少々複雑なロロ。

「お母様から聞いたでしょ?私が出来た時のこと。」

ロロが思わず言葉を飲み込む。

先程まで側にいた大いなる母である常闇の女神は、眷属からの泣き脅しと娘からの言葉に泣く泣く天界に戻っていった。

その母がノーチェにだけ見える形ではあるが、妖精のような姿で側にいた時、女神が借りていた形は踊り子である産みの親のものである。

産みの母は、それこそ常闇の女神と良く似た姿だった。

『天界のお母様が面白がって授けた姿なのよ、生真面目な娘が奔放に過ごす人生を見てみたいって、迷惑極まりないでしょ?でも、彼女のお陰であなたが生まれたから彼女の魂は次こそもちょっと真面目な娘として生まれてくると思うわ。』

踊り子で、性に奔放な産みの母マグノリアは、酔っ払った父の淋しさに触れてしまい家族を作ってあげようと思ってしまった。この世界では双方の思いが合致出来なければ、生命の神は子を与えない。

伯爵家の当主であり、公爵家の人間でもある父に対して下心もあっただろうがマグノリアが生まれてくる子供の幸せを願っていたのは確かで。

不幸にもマグノリアはノーチェを生んで直ぐに死んでしまったが。彼女は生まれて直ぐのノーチェを楽団に託し孤児院に預けるようにしたのだとノーチェは常闇の女神から聞いた。

常闇の女神の加護を受けた御子を宿したマグノリアには危険が迫っていることをそれとなく伝えていたと女神は言った。

『まさか、あの女がマグノリアまで殺してるとは思わないよね~。』

あの女こと、メラニン・クズス伯爵夫人は、自分のことを遥か高くの棚に上げて、ヒューイに対する執着に捕らわれ、彼を常にストーキングしていた。

『対象者が触れた物を通して透視、盗聴出来る固有魔法を夫に全振りしてたなんてね。』

マグノリアは、一夜の出来事で授かった命の存在に当初気付いていなかった。だが、楽団の興行を何度か壊されたことで父親の楽団長は、貴族からの圧力を感じ、トラブルメーカーでもある奔放な娘を、問いただした。マグノリアはもしかしたら、ヒューイの妻に関係がバレてその報復なのかもと告白した。楽団員は奔放で情に流されやすいマグノリアに呆れはしたものの、さっさと王都を後にすることにした。

旅の途中でマグノリアの妊娠が発覚。相手は貴族の誰だとなった時に初めて楽団員達は大物の名を聞き開いた口が塞がらなかった。

子が出来たと言うことは相手も望んでいた存在、となれは、下手におろすことは出来ない。

楽団員には、貴族社会の裏に通じる者がいて相手方の妻である伯爵夫人の噂を拾っていた。嫉妬深く粘着質、離婚協議中ではあるが、夫人は夫の不貞問題を表には出していない。離婚したい夫と妻の攻防戦の結果は長男が成人した時に決まると言う。王都での妨害は夫人の仕業に違いないとした。

マグノリアは、こんな状況でも腹の中にある命を愛しんだ。

「この子は、特別な子なの。」

そう言っては神に祈っていた。

彼女の使い魔は小さな鶫であったが、主の中に宿った命を守ろうとしていた。

その頃、メラニンは、マグノリアのことなど忘れていた。

愛人との間に生まれた子供達の教育とヒューイをどうしたら振り向かせることが出来るのかを考えるので精一杯だった。

ヒューイが離婚に向けて通告をしてきたからだ。

離婚の回避を願う文をしたためていた時、屋敷に訪ねてきた男がいた。事件を起こし楽団を首になった男は、腹いせにマグノリアのことを語った。現在の楽団の居場所と引き換えに金を要求してきたのだ。

メラニンはライカを呼び出した。ライカは密告者を始末し、マグノリアとその子を連れてくるように命じた。抵抗するなら殺して良いとも。

楽団で生まれたノーチェは、楽団員に囲まれてすくすく育つ予定だった。しかし、首になった男がクズス伯爵家に向かったと知り、ノーチェを期間限定で孤児院に預けることにした。

孤児院にいる子供はよっぽどのことがない限り、院内で育てられ、悪意を向ける者は弾き出される術が掛けられている。

ノーチェの産みの親マグノリアと楽団員の数名が命を落としたのはノーチェが預けられてから十日もしない内だった。

『鳥魔物の因子を持つと愛が重い下手したら狂人になるってホントだったのね~。』

「龍も番に囚われがちな因子だけど、鳥ほどではないんだっけ。ともかく、あの人達やその周辺と関わるのはウンザリ。父から受け継いだ魔力因子は封印したから、追跡は不可能。変成期も今回の騒ぎで脱出出来たし、ロロ、行こう。」

この時点で、ノーチェもロロも薄情なことにルキリオやルルのことは忘れていた。


彼女が思い出したのは、十歳になる王太子を筆頭に五人の王子が集団見合いを行うと言う公布がされた時だった。

「ねぇ、ロロ……この三男、ルキリオって、あの?」

『ルルのこと、忘れてた。』

心の中で謝るロロ。

狭い空間で育ってきたノーチェにとって世界は希望に満ちていた。キラキラと美しく、楽しすぎたのだ。

「今、ルキリオは八歳か、あの空間で出会ったルキリオは十歳は過ぎてたよね、じゃあ、今は、出会う時じゃないってことだよね。」

あの異空で出会ったスコタディノーチェとルキリオ。

歪んだ時空を通して生まれ変わったノーチェは、ルキリオと同じ八歳になった。

「あっちが、絶対会いにいくって言ってたから、出会うまでスルーでいいんじゃない?それに、世界は広い。ロロも言ってたでしょ、次は魔界に行こうって!自由に動くために冒険者になったんだ、行かなきゃ!」

つい先日、子供の人権保護の目的で冒険者登録の年齢が引き上げられた。ノーチェはクズス伯爵家を出た後、北の街で冒険者登録をした。もう少し遅かったら冒険者にはなれなかった。

当時あった条件は、魔族の因子を持つものなら変成期を過ぎていること、使い魔を得ていることなど大まかなものだった。

お金のない貧乏な家から子供を買い取り冒険者登録させて、ダンジョン攻略の先発として送り込んだり、仕掛けられた罠を解かせたり道具として扱っている冒険者も多く問題となっていた。

大抵の子供の冒険者は親の勝手で侍従契約を結ばれた被害者で使い魔も主を質に取られいたり、ある意味カオスだった。

そんな状況を憂いたのが王国第四妃だった。

王太子からの訴えもあったようだ。

「この国の王家の方々は至極まとも。未来は明るい。その未来を私の勝手で変える訳には行かないから、今はルキリオのところには行かない。もっと多くを知って、得て、失って、また得てからかな、ルキリオと会うのは。あ、ロロは、私のことを黙っててくれるなら会いに行ってもいいけど、彼らがあの異空から戻ってくるまではダメだよ、好きにしていいのは、私が生まれ変わって、伯爵家に囚われて覚醒するまでね。」

ノーチェは、八歳にして史上最年少Aクラス冒険者となっていた。未成年の中でも十歳以下の者はAクラス級にならなくては世界を超えてはならないと言う冒険者組合のルールがあった。世界の色々を見たかったノーチェはその力をもって今の地位を得たのだ。

「さぁ、ロロ!行こう!新たな冒険の地へ!」

目の前には“魔界門”。ノーチェとロロの新たな第一歩が踏み出された。



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