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常闇の乙女  作者: 櫻塚森
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よん

大きな魔力の発動を感じたのは伯爵家の敷地にいる者全てだった。

その中に父ヒューイはいない。

「な、何事なの!」

伯爵夫人メラニンは魔力の発動の凄さに小屋にいる幼女のことを思い浮かべた。


***********


愛する夫の血と因子を受け継ぐ憎らしい子供。

真面目な夫が他所に子を作るなんて思いもしなかった。

我が伯爵家は由緒正しい歴史の古い家だ。けれど父が要職についている訳でもなく領地から上がってくる税金も少なくて、新しくドレスを作ることもできなかった。美しいと評判の妹が国王に見初められるまでは。

父親ほどの年齢の離れた男に嫁ぐことに泣き喚いていた妹もいつしか与えられる贅沢な暮らしに慣れて我が家への融通を陛下に進言出来るほどの存在になっていた。

領地経営の下手な父がヒューイ・アンダーソン公爵子息に目を付けていたのを知った時は歓喜した。美しくて優秀なドラコンの因子を持つ男。若くして騎士隊の要職に着き殿下方の覚えもめでたい男。

父は、妹経由で陛下に彼を伯爵家に婿として迎えたいと訴えた。

陛下は我が領地から献上されるワインの生産量が減っていること、税収が芳しくないことを憂いておられ、彼に王命を出した。

公爵家の方々は反対していたようだけど、彼はアッサリと婿に入ってくれた。きっと、私のことが好きだからだと思っていたのに、陛下による王命で初夜を迎えることなく拐われるように領地経営のため飛ばされた。

何故そんな王命が出されたのか、後でわかったことだが、将来有望な男を迎える私に嫉妬した妹のせいだった。

「私がじいさんの相手をしなきゃならないのに、姉さんだけが、あんな良い男となんて、許せるわけないじゃない。」

怒りで狂いそうだった。

そんな私を慰めてくれたのがライカだった。同じ鳥魔物の因子を持つ美しい男。我が伯爵家の分家の男。

彼は淋しい私を慰め抱いてくれたわ。

良く考えたら、この由緒正しい鳥魔物の因子を持つ者を多く出している我が伯爵家一族にドラコンであっても他の因子が混ざるのは良くないことじゃないのかしら、だって、彼との間に子ができてもドラコン、ましてや龍の因子を持った子が生まれるとは限らないし、七割は蛇よ、蛇。私は、美しい羽毛を持って生まれた長男を我が伯爵家の嫡子として届け出を出した。

領地と役所を行き来するだけの夫が子供のことを知り屋敷に戻って来た時は彼の嫉妬する姿にドキドキしたわ。私を放置したのが悪いと言えば、美しい顔を歪ませて勝手にしろって言って出ていってしまったわ。

けれど、彼の働きは我が家を豊かにしてくれていたのは確かだったから、感謝はしているけれど、彼との子供が欲しいのは本当だった。なのに、なのに、厄災が我が領地を通ったせいで、彼は益々屋敷に帰ってこれなくなった。

仕方ないことだけど、領民より私の方が大事でしょう!

私は、またライカに慰めてもらったの。半年もすれば、また彼は戻ってくる。幸いにも私は、また身籠ったの。子供はこれまた美しい羽毛を持つ女の子。

我が家に相応しい美しい子よ、彼もきっと喜ぶと思って、直ぐに届け出を出したわ。

けれど、送られてきた書類は彼との離婚についての文言がかかれたものだった。

なんで!なんでよ!

第二子の誕生の知らせを聞いた彼は王城で倒れたらしい。領地のことで寝ずに働いていたのが原因だったみたい。

書類には、

『生まれた子供二人は伯爵家の子として認めるが、我が子とは認めない。長男の成人を期にヒューイ・クズス伯爵は、ヒューイ・アンダーソン公爵子息に戻り、メラニン・クズスとは離縁とする。これは王命である。』

と書かれていた。

三年前に妹を寵愛していた先代陛下が亡くなり、新しい国王陛下が即位した。後ろ楯を無くした我が伯爵家は以前ほど優遇されることがなくなっていたのは確かだ。それでも彼がいたから大丈夫だったのに、彼が我が家から出ていく?どうして?彼は長男が生まれた時も私と離縁しなかったわ、私のことを愛しているのに!

長男が成人するまでまだ十七年あるわ、其までに彼を説得しなくちゃ。

帰ってこない夫の愚痴を招かれた茶会なんかで訴えてみたけれど反応が悪いのは何故?きっと悪評のあった妹のせいね、あの子はもういないのに、そんな目でみないでよ。

数年後、我が伯爵家の子供達がそろそろ変成期を終える頃、屋敷に届いた一通の手紙。それは、悪魔の連絡だった。

我が家に彼宛の手紙や書類が届かなくなったのは何時の頃からだっただろうか。

久しぶりに見た彼宛の手紙は孤児院からのものだった。

孤児院にいる子供の中には稀に魔力保有量の多い子がいて、強い魔力因子を持つ子供を求める貴族と縁を繋ぐ機会が設けられている。平民の子を貴族に迎えいれるなんて正気の沙汰とは思えないけど、中には貴族や王族の落胤が紛れていることが多い。多くの貴族は生まれた時に魔力の質と因子情報を登録する義務がある。ちょっとした関係になっただけで出来た子供を貴族の子だから責任取れなどと言ってくる愚か者が後を立たないからだそう。そんなことを思いながら開いた手紙には、ヒューイの因子を継いだ子供がいるので手続きに来て欲しいと言う信じられないものだった。

あの、ヒューイが私以外の女を抱いたと言うの!体内の血が沸騰するかと思ったわ。

屋敷に来た小汚ない幼女は黒々とした蛇皮の肌をした黒髪金目をしていた。



夫人の独白で終わった。

長くなったので。

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