4月1日:エイプリルフール
今日で時間の館を開けるのは最後だよ。短い間だけだったけど来てくれてありがとう……⁉ え、えっ……⁉ ごめ、ごめんよ! まさか本当に真に受けるだなんてことがあるかい……今日はエイプリルフールだからね。せっかくなら嘘をついてみようと思ったのさ。え? 嘘をついていいのは午前中だけだって? いや……そんなはず……本当だ……⁉ こ、こほん。ここは時空の裂け目だから時間の概念は無い。だから今は午前でも午後でもないのさ! ……すいません。さて、今日は4月1日。彼女たちの世界に案内するとしよう。あ、手元が狂った……‼
* * *
「おい、サタナ。起きろ、授業中だぞ」
「んんっ……あれ? どうしてメギルが……?」
「何を寝ぼけたことを言ってるんだ?」
背中をメギルに小突かれて目が覚める。寝ぼけ眼で辺りを見回すといつもの教室で授業を受けているところだった。
そんな普通の光景なはずなのにも関わらず、どうしてか教室の様子に強烈な違和感を覚えた。
「サタナさん、また居眠りですか? そろそろいい加減にしてくださいね!」
「リーライムちゃん⁉」
目の前の教員の姿に驚き大声を上げると周りの生徒たちは突然口を閉じ、後ろの席のカルロッテさんは大きく口を開けて唖然としていた。
「……リーライムちゃんとは先生に向かってどんな口の利き方をしているんですか⁉」
「え⁉ す、すいません!」
「はぁ……お昼に職員室に来なさい!」
「は……はい……‼」
その後、授業は滞りなく進みチャイムが鳴った。私はリーライム先生の後を追って職員室に向かおうとしたがすれ違いざまに目を大きく開くような事態を見かけた。
「リアンが……生徒会長⁉」
「どうかしましたかサタナさん?」
「い、いや……」
「もしかしてユラお姉さまがまた何かやらかしたんですかね……?」
「え? ユラさんはしっかりしてるし、そんなことない……」
「リアン会長! あなたのお姉さんがまた授業をさぼって行方を眩ませました!」
「はぁ……またですか……!」
「ラッセムちゃん⁉」
目の前で真面目な顔で話し合いをしているリアンとラッセムの姿を見て呆けていると背後からリーライム先生に頭を日誌で叩かれてそのまま職員室に連行されてしまった。
「……以上から次は無いですよ?」
「はい。分かりました」
かなり長いこと説教をされてようやく解放される。その直後、後ろから肩を誰かに強くたたかれた。
「痛っ⁉」
「悪かったの! どうしてまたラットルテ先生に怒られていたんじゃ!」
「サリ……先生?」
「先生を名前呼びとは感心しないの。まぁいいのじゃ、ってなんでそんなに驚いた顔をしているんじゃ?」
「え、だって……サリ、じゃなくてドラン先生が体育教師みたいな恰好をしているんだもん……」
「そりゃ体育教師じゃからな? まぁ、何はともあれラットルテ先生はあまり怒らせない方が良いのじゃぞ!」
大きな声でそう言いながらサリ先生は職員室を出ていった。まさかナルディも変なんじゃ、と思い自分の教室に急いで戻る。
「いったい何がどうなってるの……?」
「どうしたんだサタナ? 顔色が悪いぞ?」
メギルが私の顔を覗き込む。そういえば最初からそうだった、目の前のメギルは成りこそメギルだがどうしてか言葉遣いや態度が変だ。
「い、いや。大丈夫。それよりナルディを知らない?」
「ナルディ……それならそろそろ来る頃じゃないのか?」
「え?」
「サタナせんぱ~い!」
メギルと話していたところに背後から誰かに突進される。衝撃で霞む視界でその正体を視界に入れるとそれはどうみてもナルディだった。
「サタナ先輩! 一緒にお昼食べましょう!」
「ナルディ……?」
「はい! 先輩の大好きなナルディですよ!」
そう言いながらナルディは私にハグをしようとする。特に抵抗することもなくそのまま受け入れるとナルディだけでなくメギルとナルディの後ろにいた子も驚いた反応を見せた。
「サタナがナルディを受け入れただと……?」
「サタナ先輩⁉ いつもナルディのことを邪魔そうにしていたのに今日はどうしたんですか⁉」
「カルロッテさん⁉ それよりも私がナルディを邪魔者扱いをしていたって……」
「先輩……‼ ついに私を受け入れてくれたんですね!」
「受け入れたって……」
「え? もちろん私とお付き合いをしてくれるってことですよね!」
「え⁉」
とんでも展開に全く脳の処理が追い付かずメギルに助けを求めようとする。しかし、メギルは私のロッカーを指さすだけで自分は関わりたくないとでも言わんばかりにそっぽを向いてしまった。
自分のロッカーを開けてみると中からは大量の手紙といろんな小包が雪崩のように転がり落ちてきた。
「な……なにこれ……⁉」
「なにって……私から先輩への贈り物ですよ!」
一つ一つに丁寧に文が綴られておりそのどれもがナルディの手によって書かれたものだと理解した。
その瞬間、体は走り出していた。特に何も思うことなくただただ恐怖心を覚えた体はどんどんと教室から離れていっていた。
「はぁはぁ……‼」
「サタナ先輩? どうかしましたか?」
走り続けて渡り廊下を渡っている途中に見慣れた人影を再び見かけた。
「カツキ⁉ いや、今はもう構ってる余裕なんてない……! 人気の少ない場所ってどこがある?」
「それなら屋上とか……」
「屋上ね! いいと思う! ありがとう!」
カツキと別れて屋上を目指すと屋上に続く扉の前に彼女は立っていた。恐怖と絶望で膝をついてうなだれる。
「サタナ先輩……どうして逃げるんですか? どうして私の愛に答えてくれないんですか……どうして……どうして‼」
「う……うわぁぁあああ⁉」
襲われそうになった瞬間、私はどこかで目覚めた。辺りを見回すと、不思議そうな顔をしたナルディがいた。
「サタナ……? 一体どうしたというんですか?」
「ナ……ナルディ……? ここは……」
「何を言って……もちろん私たちの家ですよ。本当にどうしたというんですか……なにやらうなされていましたが」
「うん……怖い夢見た……」
「そうですか。まぁ目が覚めたなら夕飯の準備にでもしましょう。もう18時になりますよ」
「うん、分かった!」
どんな夢を見てたんだっけ……? でも夢にしてはやけにリアルだったような気がするような……
* * *
いやぁ、彼女には悪いことをしたね。ちょーっとだけ間違った世界線に彼女を飛ばしちゃったんだよね。あ、君もね。結局あの後は大丈夫だったのかって? うーん……。内緒だ。まぁ、こんな日もあっていいんじゃないかい? まぁいい。次、君に会えるのは5月5日だね。それじゃあ、嘘には騙されないようにお気をつけて。
私はしっかり今朝から友人の噓にはまって大変な思いをしましたね。もちろん恨みっこなしなので、文句は言えませんが結構焦っちゃいますね……あはは……。話は変わって、各企業さんのエイプリルフールは面白いですよね。毎年楽しみにしています。それでは、私のように嘘に引っかからないように、そして嘘はほどほどに~。