3月14日:ホワイトデー
なんで手を出してるのかって? 君は私に渡すものがあるはずだろう? ほらほら、その背中の後ろに隠している者を出してごらん? えっ……自分用? そ……そうか……悪かった。それじゃあ……。やっぱりくれるんじゃないか! 本気で悲しかったんだからな! 次そういうことしたら……まぁ、この際言わないでおこうか。さて、今日は3月14日。彼女たちの世界に案内するとしよう。
* * *
「では、何を作っていきましょうか」
「そうだな。正直何を作ればいいかわからないんだが……」
「師匠は2月14日何も作らなかったんですか?」
「何も用意しない予定ではなかったんだが、少し忙しくしていた都合で買うのも作るのもできなくてな」
「なるほど。それでは3人に驚いてもらえるものを作りましょう!」
「あぁ、よろしく頼む」
カルロッテとメギルはメギル家のキッチンにて、サタナ・ナルディ・サリにもらったチョコのお返しについて話していた。
「友達に送るお菓子としてはクッキーもしくはチョコ辺りが妥当ですね」
「そうだな。恥ずかしい話、私はあまり器用ではないからなるべく簡単なものを作りたいのだが……」
「そうなると……確か3人とも紅茶がお好きなはずなので紅茶クッキーにしましょう」
「いいな。材料は何が必要なんだ? 足りないものがあったら買ってくるぞ」
「そんなに特別なものを使う予定もないので大丈夫ですよ」
「分かった。それじゃあ材料を教えてくれ」
「はい、それでは師匠は砂糖30gとバター50gを用意してください」
「よし分かった」
「あ、バターは先にボウルに入れておいてください。あとで練る予定なので」
「分かった」
メギルはカルロッテが順調に準備を進めていることを確認すると、薄力粉100gとティーバッグを2袋分用意する。
「もう練り始めていいのか?」
「はい、この泡だて器を使ってください」
「分かった」
最初は固まっていたバターが少しずつ柔らかくなっていくと、メギルは砂糖と卵黄を加えた。
完全にまとまるまで混ぜた後、メギルは薄力粉と茶葉をボウルに入れ、カルロッテにゴムベラを持たせる。
「これで切るように混ぜてください」
「分かった……粉気が強い気がするが大丈夫か?」
「はい。1分ほど混ぜていればまとまっていきますよ」
「こんなものか?」
「そしたら次は手でまとめてください。まとまったらこのサランラップの上においてください」
「よし」
カルロッテは少しいびつな生地をサランラップの上に置く。メギルは慣れた手つきで生地をくるんと巻き、長さ20㎝ほどの棒状に整える。
「そしたら、冷凍庫で40分から1時間冷やしましょう」
「よし。それなら外に走りに行くか」
「分かりました! ちょっと待っててください!」
メギルは身支度をして外で既に準備運動をしていたカルロッテに合流する。
「師匠はいつもの服装でいいんですか?」
「まぁな、そんな距離を走る気はないからな」
「そうですか。どれくらい走る予定なんです?」
「まぁここから……いつもの神社までか?」
「ここからですか⁉ 2㎞はありますよ⁉」
「まぁ、往復40分くらいでちょうどいいだろう」
カルロッテはそう言うや否や走り出す。本人は軽く走っているつもりだがメギルが全力疾走1歩手前ほどの速度を出してようやく追いつけるものであった。
「少し速いか。悪かった」
「もう少し落としてくれるとありがたいです」
「分かった。これくらいにしておこう」
しばらくして河川敷に出るともう少しで沈み始める夕日の光とピリッと冷たい風が2人の間を通り抜けていく。
「だいぶ日が延びたな」
「そうですね。いよいよ春らしい春がやってきますね」
「そうだな。お前は何か新しいことでもやるのか?」
「新しいことですか……特にこれと言って予定はないですが、強いて言うならもう少し運動を頑張ろうかなと」
「十分頑張っているように見えるが?」
「その……師匠と同じ大学に進みたいので!」
「そういうことか……よし、私もこれまで以上に付きやってやろうじゃないか!」
「本当ですか⁉ よーし、頑張るぞ!」
しばらくして2人は神社に辿り着く。時間が時間名だけあって境内はとても静かで誰かが箒をはいている音だけが響いていた。
「あれ、今日は2人で来たんだ?」
「あぁ、リアン。ちょうど2人でジョギングをしていたところだ」
「ジョギングという割には結構な速さですけどね……と、いうわけなので参拝だけしたら帰る予定です」
「そっか。あ、ちょっと待ってて」
しばらくして、リアンは袋に入ったお菓子を紙袋に入れて持ってきた。
「これ、ホワイトデーのお返しってことで3人にも渡しておいて。もちろん、あなたたちの分も入れてあるからさ」
「ありがとうございます。ちょうど僕たちも作ってるところなので今度渡しに来ますね」
「うん。ありがとう」
「それでは失礼する」
「じゃあねー」
しばらくして2人は日が完全に沈み切る前に家に着くとクッキーづくりの続きにとりかかる。
「では、こちらを1㎝幅にカットしてください」
「なるほど。だから棒状にしたんだな」
「そういうことです、こっちでオーブンは160℃に予熱しておくのでお願いします」
「分かった」
そうして切ったクッキーをクッキングシートを敷いた天板に並べて20分焼く。焼き終わると天板ごとケーキクーラーの上にのせて粗熱を取る。
「メギルは相変わらず手際がいいな」
「ありがとうございます。まぁ幼いころから両親に料理について叩き込まれてきたので……」
「なるほどな」
「それはそうと、ラッピングの準備をしていきましょうか」
メギルは透明な袋とマスキングテープ、ペンを用意する。2人で粗熱の取れたクッキーを袋に入れてマスキングテープで止めて宛て名を書いていく。
「さて、いつ渡しに行きましょうか」
「今からだろう?」
「そういうと思ってました。早速出発しましょうか」
事前にサリにはサタナの家にいるように伝え、既に半分ほど沈んだ太陽を横目に2人はサタナの家を目指す。
太陽が沈み切る直前、2人はサタナの家に辿り着き扉を開ける。
「カルロッテ? 儂をサタナの家に呼び出しておきながらお主がいないとはどういう要件じゃ?」
「カルロッテ先輩! メギルまで! いったいどうしたの?」
「そんなに急いでどうしたというんですか?」
『ハッピーホワイトデー!』
* * *
やぁ、おかえり。随分豪勢なティータイムを楽しんでいるなって? そりゃあ、君にもらったお菓子をそのまま食べるだけにはいかないだろう? なんで照れるんだい、私の方まで恥ずかしくなるだろう……それはそうと、とてもおいしかったよ。どうもありがとう。買ったから当たり前だって? ふぅーん……そういうことにしておこうか。次、君に会えるのは4月1日だね。彼岸も館を開けようか悩んだんだけど、その日はちゃんとご先祖様に会いに行くといい。それじゃあ、ハッピーホワイトデー。
1日遅れになってしまいましたが、ホワイトデーがやってきましたね。最近、日の進みが早すぎる気がするのは私だけでしょうか? いよいよ今年度はこれで終わってしまいます。次回、新年度を皆さんと迎えられることを楽しみに待っています! それでは、ハッピーホワイトデー!