第11話 クズ代表
「アキちゃん、ここってお風呂ないの? 私動いて汗かいたからお風呂に入りたいんだけどな~」
「…………」
家に転移して戻るとアヤメさんがお風呂に入りたいと言い出した。本当に遠慮をしなくなってきたな。
或いはその順応の速さに賛辞でも送るべきなのだろうか、何を送っても一向にお礼返しが来なさそうな相手なので少し対応に困る。
アヤメさんがお風呂に入ると言うのでならばとお風呂掃除をするのを条件に使っていいと話した。
ウチは山の中の家だが僕も日本人だ、普通にお風呂ちゃんとしたのに入りたいので入念にリフォームをしてある。
使い方や掃除の仕方は幾らアヤメさんでも間違える言葉通りないだろう。
そんな事を考えて椅子に腰を下ろしていると、テーブルに置いていた彼女のスマホが鳴った。
「……………」
もしやと思い魔法で電話相手を透視する。
するとで電話をかけてきてるのはまさにアヤメさんの先輩にして今回の強盗事件の主犯格であるクズ代表の誰かさんだった。
名前? そんなのどうでもいい。顔立ちはまさに楽して金を儲けてるチャラめの若者って感じである、それだけなら良いがそのチャラさの裏にある薄汚い気配を魔法使いの僕は敏感に察してしまった。
この田舎の側溝でデカイミミズを見てしまった時のような不快な気配、このクズ代表は相当に業を溜め込んでいるな。
「ハァッこう言うのがいるから日本社会って禄でもない方向に進んでるんだよ」
突拍子もない話に聞こえるが事実である、誰か他人の利益やら人生を踏みにじればそれは何処か別の場所で必ず歪みのようになって現れる。
良いことの連鎖が社会を良くするなら、理不尽による搾取と権力や暴力による行いは必ず社会で負の連鎖を生む。それが世の中の道理と言うものだ。
本来ならもう少し時間を空けてもいいのだが………よしっこう言う手合いは早めに潰しておこう、その方が僕も気分が良いしね。
僕はアヤメさんのスマホを手に取り電話に出た。
「もしもし、美月ちゃん? どうなのそっちはさっもうお仕事済んだ? 君の知り合いから連絡が来なくて俺も困ってんのよ~」
おそらくだけど、メールじゃないのも証拠を残さない為か、発言に言い訳が出来るようにとと言う小細工の気配を感じる。
クズ代表はアヤメさんが警察に助けを求めているかもと疑っているのかも知れない。
残念、彼女が助けを求めたのは警察よりも色々と遠慮とか社会良俗に対してあまり頓着しない個人経営の魔法使いさんである。
だから一切躊躇とかしない。
『……お前は今から僕の言うことを聞くだけの人形です』
「…………はい、分かりました」
スマホから返って来たのは完全に感情が消えた声、どうやら魔法は成功したようだ。
まあ魔法といえるのかも怪しいものである、単純に魔力を込めた言葉を発しただけだ。
いわゆる言霊ってヤツである、魔力を全く持たない人間ならこれだけで僕の意のままに操れるんだよね。あの強盗三人が庭で草むしりマンをしてるのもこの言霊の力である。
本当ならこれでチェックメイトなのだが……やはりアヤメさんにもこのクズ代表をコテンパンにする権利はあると思うのでもう少し泳がそう。
まずは魔法でクズ代表の手札を全て確認する、その後はまな板のお魚さんなのでゆっくり調理していけば良いのだ。
うっかり魚をバッサリしないようにと心がける僕である。