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第9話 村人くんと美人ちゃん

村人くん視点。

 あれはそう、今から1ヶ月前の事。


 照りつける太陽の日差しの強い中、汗をかきながらも畑の周りに生えてくる雑草を引き抜いていた時だった。


「ハァハァ……暑いし、虫も出るから最悪だ」


 ぶつぶつと文句を垂れ流して草を毟る子供は側から見ると滑稽だった事だろう。現に僕に毎回突っかかって来るいつもの子供達は自分に向かって指差し、笑っている。


(一体、何がそんなに面白いのか…僕には分からない。意地悪する奴らの考えなんて知りたくもないけどね…)


 余りの暑さに持って来た水筒の中の水が無くなった。全て飲み干してしまったのだと気付き、一旦家に帰る事にする。


 家に帰ると空っぽの水筒に水を入れて、塩を少々混ぜる。ちょっとしょっぱいかな?と思うぐらいが丁度いい。

 大量の汗を吸収したタオルを新しく変えて畑へ舞い戻ろうと家を出た。


「……ん?誰かが騒いでる…?」


 畑へ向かう道の中、小さな川も流れて子供達の憩いの場となっている広場がある。何気なくそちらに目線をやれば、何人もの子供達が輪になって騒いでいる。その中心にはぐったりとしている女の子がいた。


「ーーーッ!何してるんだッ!」


 まさか1人の女の子を集団で虐めている訳じゃないよな。


 急いで駆け寄り、子供達の肉壁を掻き分けて倒れている女の子の前へ着く。


「ーー村人っ!テメェ、なに来てんだ…」


「うるさいぞ、大将ッ!まさか僕だけじゃなくて美人ちゃんにまで手を上げたんじゃないだろうなっ!」


 僕が突然割って現れた事に喰ってかかる大将に厳しめの視線を送る。その視線に怖気付いた大将は慌てて否定した。


「ち、違う。オレじゃない!みんなで遊んでたら美人の奴が勝手に倒れたんだ」


 その言葉を聞いた僕は周りにいる子供達にも視線を送ると全員が縦に首を振った。


 …どうやら本当にそうだったらしい。倒れている美人ちゃんの額を触るとかなり熱い。顔も赤く、息も早い気がする。


 これはかなりまずいかも知れない。


「……疑ってごめん。美人ちゃん、美人ちゃん!僕の声、聞こえる?」


「………はぁはぁ、むら、びとくん?ちょっと目が回って気持ちわるくて…」


「これは…大将!美人ちゃんの肩を持ってそこの川へ移動させるんだ。後、何人かは大人を呼んできて、早くっ!」


 もしかしたら、村長のおじさんや畑のおばあちゃんが僕に気をつける様にと言っていた病気かも知れない。暑い季節はなりやすいから定期的によく水を飲む事を言われていた。


 その対処法を僕は知っている。僕も一回だけなった事があるからだ。オオカミちゃんと遊んでいた時に遊びに夢中で倒れてしまった事がある。


 その時は彼女のお母さんが僕を支えながら湖に入った。水の冷たさで身体の熱を覚まし、オオカミちゃんが水筒の水を飲ませてくれて事なきを得たのだ。その時、初めて彼女の母親を確認した瞬間でもあった。


「しっかりして美人ちゃん!いま、水を飲ませてあげるからゆっくり飲むんだよ」


 僕の言葉を聞いた美人ちゃんはこくりと頷く。さっき用意していた水筒を取り出してその中の水をゆっくりと飲ませる。


 美人ちゃんの身体を川の水に浸して熱を取る。額を触れば先程よりは熱が冷めた様だ。

 ならばと首に掛けていたタオルを水に含ませて美人ちゃんの頭に巻き付ける。


(これでなんとか大丈夫の筈…)


「ありがとうね…村人くん…」


「僕も一回だけ美人ちゃんと同じ目に遭ったことがあるから辛いのは分かるよ。大丈夫、僕の友達が僕を助けてくれたやり方だから美人ちゃんは絶対大丈夫なんだ」


 僕が出来る事は全部やった。後は慌てて此方に駆け寄って来る大人達に任せよう。子供の僕よりもきっとこういう事に慣れている筈だ。なら、安心して任せられる。


 美人ちゃんを大人に引き渡した後、僕は再び草毟りへ戻った。


 その日の夜、家でくつろいでいると美人ちゃんと美人ちゃんの両親がお礼をわざわざ言いに来てくれた。


「村人くん、うちの美人を助けてくれてありがとう。本当に助かったよ、これはお礼だ。受け取ってくれないか?」


「いえ…助けになれたなら良かったです。これはありがたく貰いますね」


 初めこそは戸惑ったが、食べ物をくれたのでそれほありがたく受け取った。


「村人くんっ!私を助けてくれてありがとう!あの時…気持ち悪くて…あのままだったら私…何か私に出来る事があったら言ってね?…絶対、力になるから!」


「美人ちゃんもすっかり元気そうで良かったよ。大丈夫さ、その気持ちだけで嬉しいからね」


 笑顔で手を振って去っていく親子を見送ったあと、僕は親が住んでいない家へ戻る。


 美人ちゃんの家族を見てオオカミちゃんとそのお母さんが去っていく後ろ姿を思い出してしまった。

 寂しいという気持ちに蓋をして明日に備えて寝る事にするとしよう。明日はやる事が多いから早めに寝る方がいい。


 そう自分に言い聞かせて目を閉じる。その夜の夢はカブト関をオオカミちゃんと探した思い出だった。


 そしてその日を境に美人ちゃんがよく話し掛けて来るようになったのだった。


村人くん

親子連れを見ると今の自分が置かれている現状を考えてしまう。正直言って羨ましい。自分だけに注いでくれる愛情に飢えている。


美人ちゃん

苦しい時、村人くんの声が聞こえて安心した。元々、気にはなっていたが今回の騒動で話かけてみようと心に誓う。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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