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第6話 雪の季節

村人くん視点。

 秋の季節にはまだ木に葉っぱがついていたが、それもすっかりと抜け落ちてしまった冬のこの頃。


 村の中の農作業は一時的に中断して大人も子供も家に引き篭もって生活している事が多い。食料はこの冬の為に備蓄庫に保管しているので問題はない。


 そんな中、僕は服を何枚も重ね着して外へ出た。玄関の扉を開けるとそこには一面の雪景色が広がっている。家の屋根や地面も白で埋め尽くされており、いつも見る光景が煌びやかで幻想的に見えた。


 身体を鍛えると決めたあの日。僕は早速、村長のおじさんへ相談しに行った。

 内容を聞いたおじさんは少し悩んだ後、僕にこう言った。


「なら春になったら農作を手伝いに来なさい。まだ小さいうちには酷だと思っていたが…手伝いをしてくれるなら少ないが小遣いも渡す。人手が増えるのは儂も心強いし、お前も自然と身体が鍛えられるだろう」


 どうだ?と提案してくる。1日休みは貰えるかと聞いたら、大丈夫という事なのでその提案を了承した。


 まだ春にならないかと待ち遠しかった。外に雪が降り積もると穴の中にも雪が入り込んでいた。


 これは一大事だ。このままじゃオオカミちゃんと会えなくなってしまう。


 思ったら行動という心情の僕は雪かきをするという名目で村の誰でも使える用具入れに足を運び、大きめなスコップを手に入れた。


「ぐぬぬぬ…、諦めないぞ!」


 持つのにも一苦労したが、オオカミちゃんと会えなくなると思ったら力が入る。多少、自分の玄関前を雪かきして、やったという実績を作り、家の裏手にある穴へ向かった。


 僕の身体が入るぐらいの穴は雪で見事に塞がれている。手先が冷たくなる前にスコップを雪に突き刺して掘り進めていく。


 時間にして数十分。何とか手前は掘り出せたが、柵の反対側はまだ雪で覆われているのだろう。少し掘るだけで雪が雪崩れ込んで来てしまう。


「この際だ。穴をもっと広げちゃうか…」


 毎回、この細い穴を通っていくので服が汚れてしまう。なら、服に汚れがつきにくい様に穴を大きくしちゃえば良いじゃないか!


 丁度、その為の道具はこの手にある。


「……なかなか向こうまで開通しないな」


 少し休んでから気合いを再度入れて掘っていくが、掘ったそばから雪がそこを塞いで来る。穴を大きくしようとしたのが悪かったと思う。なかなか進まないのだ。


 雪と何度目かの攻防をしているとスコップから何か硬い感触が手に伝わってきた。


「何…?変な感じがしたけど…」


「……!……くん、……人くん!」


「お、オオカミちゃん!?」


 急いでスコップから手を離し、穴に向かって叫ぶ。すると、雪を掻き分ける手が見えた。

 僕も驚きながら必死に手で雪を掻き出した。


 穴が開通するとオオカミちゃんの声がよく聞こえてくる。


「村人くん!良かった〜。来てみたら穴が塞がってたからどうしようって思ってたんだ」


「僕も驚いたよ。まさかオオカミちゃんも掘っていたなんて…さっき何かスコップに当たったけど、大丈夫だった?オオカミちゃんのスコップに当たったのかな…」


「あっ、うーん。そんな感じ!それにしても結構穴を大きく掘ったね。これなら、わたしでも入れそう」


 何とも言えない様な言葉で返事を返してきたオオカミちゃん。子供なら頭下げて屈むだけで通れる程、広げた穴に僕は足を踏み入れる。


「よいしょっと…じゃじゃーん、おまたせ!」


 そう言って僕は拳を空に突き出したポーズを取った。そのカッコいい仕草にオオカミちゃんは拍手を送ってくれる。


「オオカミちゃん、手伝ってくれてありがとうね。僕だけじゃ、多分もっと掛かったと思うよ」


「わたしも村人くんと会えて良かった。今日は何して遊ぶ?」


「そうだなぁ…この雪だし、雪合戦とかしようよ!先に3回当たった方が負けという事でさ」


「うん。此処だと村から近いからわたしのお家の方でやろう!」


 僕達は雪で足を取られないようにしっかりと雪を踏み込んで歩く。ブスブスと靴の裏から雪を踏む音は心地良い音色だ。

 僕の足跡を辿るオオカミちゃんを見てふと、疑問に思った事がある。


(あれ…?オオカミちゃん、スコップを置いてきたのかな?……って、オオカミちゃんの手が…!)


「オオカミちゃん、手が赤くなってる!ほら僕の手袋を使って!」


 僕の疑問は霜焼けになっていた彼女の手を見て吹き飛んだ。急いで僕が嵌めていた手袋を外してオオカミちゃんの手に被せる。


 大丈夫と言っていたが、霜焼けは痛いんだ。僕だって経験しているから誤魔化そうたってそうはいかない。


「村人くん…ありがとう。でも、これだと村人くんの手が冷たくなっちゃう…そうだ!」


 オオカミちゃんがせっかく嵌めた手袋を片方外す。そしてその片方の手袋を僕に返して来た。


「村人くんもこれ嵌めて…?手袋をしていない手は繋ごうよ。そうすれば、2人とも温かくなるから」


(流石、頭の良いオオカミちゃんだ。僕が思いつかなかった事をすぐ思いつくなんて…)


 オオカミちゃんの言われるがままに手袋を右手に嵌めた僕は手袋を嵌めていない左手で彼女の冷たい右手を包み込む。


 …冷たい。まるで氷を握り締めているのでは?と思うほど、彼女の手は冷たくなっていた。


「これで大丈夫。オオカミちゃんの手、やっぱり結構冷たくなってるね」


「村人くんの手は温かいね…」


「当然さっ!服も結構着て来たからね!それに…」


(オオカミちゃんと遊ぶ時は何だか少し恥ずかしくて汗をかいちゃうんだ…なんて、言えないよね)


 僕は最近、おかしい。オオカミちゃんの笑顔を見ると身体全体が熱くなってしまう。

 病気かもしれないと思ってその子と遊ぶと身体が熱くなると村長のおじさんに相談したけど、笑われて大丈夫だと言われた。


「それに…?」


「いや、やっぱり何でもない……危ないから、よく足元を見て歩こう」


 僕が不思議な現象に襲われているなど知らずにオオカミちゃんは呑気に鼻歌を歌っている。僕はただその歌に耳を傾けて微笑む。


 機嫌が良さそうで僕も嬉しい。彼女の演奏会はしばらく続いた。それは湖の畔にある小屋が見えてきたことで終わりを告げる。


「ふんふふーん、ふん!…とうちゃーく!村人くん、手袋ありがとうね。わたしの手袋、家から取ってくる」


「気にしないで、これぐらいどうって事ないからさ」


 繋いでいた手を離し、僕はオオカミちゃんから貸していた手袋を受け取る。家に自分の手袋を取りに行った彼女を待つ事、数分。


 ようやく、彼女が僕の前に姿を現した。


「村人くん、お待たせ!…これ、あげる!」


「これは……マフラー?」


 オオカミちゃんから渡されたのは随分と糸があちこち飛び出しているマフラーだった。お世辞にも上手とは言えないが、目の前にいる彼女は口元が緩み、目を輝かせてマジマジと此方を覗き込んでくる。


 この状況から導き出される答え…それは…。


「…温かそうでいいね!こんな素敵な物を本当に貰ってもいいの?僕、お返しとか持ってないんだけど…」


「そんなに良い物じゃないよ…実はそれ、わたしが編んだマフラーなの。お返しとかよりもその、村人くんに使って欲しいなーって」


 やっぱり、オオカミちゃんが編んでくれたマフラーだった。僕の為に編んでくれたと分かるとまた身体の奥から暑さを感じる。

 まだ、マフラーを巻いていないのにね。


「ありがとう!僕、絶対大切にする」


 そう言って手に持っているオオカミちゃん製の青いマフラーを首に巻いた。

 糸があちこち飛び出ている為、首筋が少し痒くなったりするけど我慢。外の冷たい空気がマフラーのお陰で遮断されて少し寒さが和らいだ気がする。


 僕は上機嫌でオオカミちゃんに礼を言うと、彼女も照れて恥ずかしそうに微笑んだ。


「雪合戦…。雪合戦、するんでしょ。早くやろう、今ならオオカミちゃん相手でも勝てる気がする」


「えへへへ……いいよ。3回、身体に当たったら負け。石とか入れるのは無しだよ」


「分かってるさ。真剣勝負と行こう。今の僕を倒せると…思うなよ?」


 今の僕ははっきり言って何でも出来そうな感じに覆われている。今なら手からビームが出せそうだ。

 両手を前に構えて腰を落とす。手に力を入れたが、何も出なかった。


「ねぇ…それ、何の真似?」


「……気にしないで、自分の可能性を試しただけだからさ」


 テンションが上がってハイになってた。呆れ顔のオオカミちゃんを見るに、僕の考えなどお見通しの様だ。


「じゃあ、わたしが合図するから距離を取って…」


 大急ぎで隠れ場所を探すと身体を隠せそうな木があったので、その木に身を隠す。

 幾つか雪の球を作っておき、本番に備えて合図を待つ。


「いくよー!………よーい、始めっ!」


「喰らえ!必殺、乱れェ雪ぃ!」


 手にある雪玉をオオカミちゃん目掛けて投げ、ダメ押しとばかりに足元の雪玉も全て投げつけた。


(ふっふっふ、3回当たったら負けなのだ。なら、連続で投げれば当たる筈…!)


 僕の起点がきいた考えにオオカミちゃんと言えど、反撃するのは難しい筈だ。降り注ぐ雪の雨は彼女の逃げ場を無くす。


「本気の亜人を舐めない方がいいよ」


「な、に…っ!?」


 信じられない光景が目に入った。オオカミちゃんが僕の必殺技を耐えて見せたのだ。


 幾つもの雪玉が襲い掛かる中、オオカミちゃんが取った行動は足元の雪を両手に抱え込む様に大きく一気に削るとそれを盾にして降って来る雪球を凌いで見せたのだった。


 流石に全部は避けきれなかったみたいで一個だけ彼女の足にヒットした。これで後2回当てれば僕の勝ちだ。


「…今度はこっちの番」


「そうはさせるか…!」


 攻防は続いていく。お互いに木の影に隠れて相手の出方を伺いつつ、雪玉を飛ばす。痺れを切らした様子の彼女は僕に向かって突撃して来たので迎え撃つ。


 オオカミちゃんの胴体に雪玉が当たり、喜んだのも束の間、彼女の両手にあった雪玉が僕の腕と足にヒットした。


 肉を切らして骨を断つみたいな作戦に思わず賞賛を贈りたいが、これで互いに後1回当たれば勝ち負けが確定する。


「最後は正々堂々と勝負だ!」


「望むところだよ、村人くん!」


 僕らは姿を隠さず、相手に堂々と仁王立ちをする。


 両手にある雪玉を振りかぶって同時に投げ合った。


村人くん

手編みマフラーを貰った。

ほっこり。


オオカミちゃん

嬉しさが天元突破。


最後まで読んでくださりありがとうございます。


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モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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