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第3話 オオカミちゃん

オオカミちゃん視点 (純度100%)

 ーー不思議な少年だった。


 人と亜人、支配される者と支配する者としての格差がある事をおかあさんから教わってきた。


 曰く、それは大昔から決まっている力の関係なんだとか…まだまだわたしには難しい事は分からないけれど、人はわたしたちを恐れている弱い存在だというのは分かった。


 おかあさんに連れられて狩りに初めて行った日、わたしは人をこの目で初めて見た。

 外見はわたしたちとそこまで変わらない。あるとすれば、この耳と尻尾ぐらいだった。


 少し興味が湧いた。


 わたしが挨拶すると最初は笑顔で挨拶を返してくれた人は、徐々に恐怖で顔を引き攣らせた。私の頭に生えている耳を見たのだろう。亜人と分かった瞬間、悲鳴をあげて逃げていったのだ。


(そんなに怖がらなくてもいいじゃん…)


「オオカミ、よく見ろ。これが人とあたい達との違いだ。お前ならあの背中、何秒で追い付く?」


「おかあさん…。わたしなら、掛かって10秒かな」


 今も必死に息を切らして逃げている人を見て冷静に分析する。ガタイの良い大人の足だが、見るからに遅い。わたしみたいな子供でもすぐに追いつけてしまいそうな遅さだ。


 その結果をおかあさんに伝えると目を細めて嬉しそうに笑った。


「あたいの予想だと、もっと遅いかと思っていたが……なかなかの結果だ。偉いぞ、オオカミ」


 おかあさんから褒めて貰って嬉しい。こうして撫でられていると自分の尻尾が言うことを聞かなくなる。


「さぁ、狩りを続けるぞ。今晩の飯を調達しないとな」


「はーい!」


 おかあさんに引っ付いて獲物の追い詰め方や仕留め方を習う。言われた通り、参考にしながら見つけた獲物を追いつめていく。矢をつがえて獲物が通る進行方向に矢を放つ。

 獲物が驚いて身体の向きを変えて走るが、その先はおかあさんがいる。後は早かった。


 すれ違い様に一閃、首元に一撃。


 それだけでその獲物は倒れて動かなくなった。久しぶりの大物だ。わたしは嬉しくてぴょんぴょんと身体全身を使って飛び跳ねる。


 おかあさんは苦笑しつつも、獲物の元へ行き、血抜きや皮の剥ぎ方、肉の部位などをわたしに説明していく。

 全部は覚えられないが、今日が初めてだ。まだ焦る必要はないと言われて安堵する。


「これだけあれば、当分は大丈夫だろう。帰るぞ、オオカミ」


「……うん」


 おかあさんとわたしは小分けにした袋を背負って湖の畔にある小屋を目的地に向かった。まだ住んで1年と短いが、良い場所だ。

 森の中に建っている為、美味しい木の実は見つけられるし、水を汲みにいくのも簡単だ。お魚も泳いでいるので、食べたくなったらいつでも食べられる。


 おかあさんが近くに人が住んでいる村があるとも言っていた。やっぱり人に興味が出てくる。


「………ねぇ、おかあさん。人と亜人ってお友達になったり出来ないの?」


「オオカミ……、それは難しい事だ。人は自分が理解出来ない物に対して畏怖を抱く。さっきの奴みたいに会って早々、逃げられるのが落ちさ。だから、あたい達も理解しない。先に逃げたのはあっちだからな」


「でも、もし逃げない人がいたら?仲良くしても良い?」


「いいか、オオカミ。仲良くしても良いが、し過ぎちゃいけねぇ。なんでかは分かるよな…?」


「…支配される者と支配する者だから」


「そうだ。人は集団で生活する生き物だ。もし、あたいら亜人と仲良くしていたらどう思う?集団の中で1人、異常な奴がいる。これは奴らにとって由々しき問題だ。ソイツを排除しようと奴らは手を選ばない。人は姑息な奴らばかりだからな」


 おかあさんが遠い目で空を見上げて呟く。その目からは懐かしさと憎しみが滲み出ていた。


(きっとおかあさんも人と何かあったんだ…)


「……まあ、オオカミはあたいよりも賢い子だからその辺は分かっている筈だ。やるにしても上手くやれよ」


「うん。そんな人、いたら良いね」


「オオカミが選んだ奴なら安心出来るが…念の為、あたいも試させてもらうぞ」


「ちょっと、おかあさん!」


「安心しろ…軽く脅すだけだ…」


「安心出来ないよ!?絶対にやめて!」


 わたし達は冗談も交えながら帰路に着く。その小さな胸に期待と不安を抱えて狩りで取ったお肉を頬いっぱいに頬張る。


(お肉美味しい…!)


 ーーこれはオオカミ少女が村人少年に出会う時まで2年前のお話であった。


 ◆


 時は流れ、現在。


 わたしの目の前には汗をかいて大の字で倒れている村人くんがいる。


 この少年こそが、わたしが夢にまで見た人のお友達だ。出会ってまだ2日だけど、彼と一緒に遊んでいて楽しい。まさに夢気分って奴だ。


 ーー変わり者。


 そう言われているらしい。亜人相手に一歩も引かなかったこの少年は確かに変わり者だろう。それにこうして食べ物を分けて無遠慮に接してくる。その優しさにわたしは心地良さを感じていた。


 彼から渡された酸っぱいおにぎりを食べて午後は一緒に花冠を作って笑い合った。

 本当に楽しい時間を過ごすことが出来たと思う。


 だが、楽しい時間が過ぎていくのはあっという間だ。


「もう日が沈み始めちゃったね。オオカミちゃん、そろそろ帰らないと!」


「本当だ…もうこんな時間…」


「明日は村の中で畑仕事のお手伝いがあるから来れないけど、明後日は大丈夫だと思うからまた遊ぼうよ」


 もっと遊んでいたかった。こんな気持ちは初めて抱いた。手に持っている花冠に力が入る。


「分かった。また此処で待ってるね」


「そうしよう。僕は暗くなって来たから村へ急いで帰らなきゃ。じゃあね、バイバイ!」


「……うん、バイバイ」


 精一杯笑って去っていく村人くんに手を振るう。


 ダメだ…悲しくて涙が溢れそうになっちゃう。もしかしたら、これを最後に会えなくなっちゃったらどうしよう。


 そう思うだけで目尻に涙が溜まっていく。


「…っ、……うぅ…」


「……………」


 崩壊した涙腺を腕で手で拭っているとふわりと頭に何かが乗った。ビックリして視線を上げるとそこには帰った筈の村人くんがいた。


「そんなに泣かないでよ。僕だって本当は帰りたくない。ずっと君と一緒に遊んでいたいんだ。だけど、それは無理だから…これ、あげる」


「これって、花冠?」


「そう、君が教えてくれて作れた僕の初めての作品さ!まだまだ不器用だけど、僕の思い出がたくさん詰まった物。それを君にあげる。ほら、これでオオカミちゃんも絵本に出てくるお姫様みたいになったよ!」


「お姫様……わたしが…?」


「うん。だって此処まで花冠が似合う女の子を僕は知らないし、今はまだ上手く出来ないけど今度はお姫様から女王様にしてあげる」


「プッ、ふふっ、なにそれ。わたし、お姫様の方がいい。だって女王様ってなんか響きが可愛くないもん」


 村人くんが変なことを言うからいつの間にか涙が引っ込んで笑ってしまう。

 そうだ、こんなに人と一緒にいて楽しいのは本当に初めて。おかしくて心の底から笑ってしまう。


「じゃあ、更に上のお姫様って事で!だからさ、また花冠の作り方を教えて貰いに来るから、絶対に」


「更に上って聞いた事ないよ、あははは!分かった、また一緒に作ろうね」


「あぁ、約束は守らなきゃね!今度こそ、またね、オオカミちゃん!!」


「ありがとう!また此処で待ってるからー!」


 今度こそ、走り去っていく彼の姿を最後まで丘の上から見守る。

 頭には彼が作った不恰好の花冠。色合いも変だし、花の向きも変だ。

 わたしの手にある花冠は自分が作った物。見比べれば、その差は一目瞭然。圧倒的にわたしの方が可愛いし、綺麗に花が揃えてある。


「でも、こっちの方がなんか好き…」


 頭にある花冠を手で触って呟く。彼が一生懸命に作ってくれた物、それは綺麗に作ったわたしの花冠よりも好きだった。


 ひとしきり余韻に浸った後、自分の背後にある大きな木に向かって喋りかける。


「そろそろ出て来たら?盗み聞きなんて酷いと思わない……おかあさん?」


「おうおう、それは悪かった。娘の恋路に水を差すような事はしたくなかったんでね」


 木の影から出て来た大きな影。それはわたしの大好きなおかあさんだった。

 笑いながら出て来たおかあさんに一言、文句を言う。


「……嘘つき。だったら最初からずっといる必要なかったでしょ?」


「あちゃー、気付かれていたのか」


「だって、わたし亜人だもん。音や匂いですぐに分かったよ。おかあさんだって知ってるでしょ」


 分かっている筈だ。だっておかあさんもわたしと同じ亜人なのだから。


 ーーきっと、これは()()だ。


 彼は信用出来る人なのかを見極める為、あまり仲良くし過ぎないようにする為だけにわたしに存在を知らせたかった。そんな所だろう。


 おかあさんの意図が読めてわたしは目を釣り上げる。


「オオカミ…、本当にそこまでの奴なのか?慎重に動くタイプのお前らしくもない」


「……おかあさん。わたしにだって譲れないモノはある。彼がそう、アレはわたしの獲物。だからおかあさん…ダメ」


「………やれやれ。娘が一丁前に雌になりやがる。負けた、負けたよ。あたいからはもう何も言わねぇから怒んなよ」


 狩りの時と同じ…いや、それよりも真剣な瞳がわたしを見つめていた。

 だけど、此処で引いたらもう2度と村人くんに会えない気がする。そんなのは嫌だ!


 気持ちの赴くままに足を一歩、力強く踏み出す。気押されていたわたしが押し返した所でおかあさんは負けを認め、いつもの優しいおかあさんへ戻っていた。


「早く帰って飯にするぞ、オオカミ」


「待って、これわたしが作ったやつ。おかあさんにあげる」


「おっ、嬉しいね。綺麗に出来ているじゃないか!…そっちの不恰好の方でも良いんだぞ」


「……これもダメ。私の宝物だから、触ったら許さないんだから」


 2人の親子は湖の畔にある小屋へと帰る事にした。夕陽に照らされて伸びる影は手を繋いで仲良く帰っている。


 少年は今日の事を思い出して風呂へ入り、少女は胸に宿った淡い恋心を抱きしめ、その母親は懐かしいモノを見たと言わんばかりに酒を飲む。


 人と亜人。


 この先、どうやって幼子達は成長していくのか。少女の母親はその想いを肴に酒を飲む。



村人くん

キザな事を言ったとお風呂の中で思い出して悶えた。


オオカミちゃん

宿った恋心に戸惑いながらも村人くんを堕とす為に作戦を考え中。


オオカミちゃんの母

飲み過ぎて後日、二日酔い。

オオカミちゃんに怒られる。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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