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第2話 純粋少年

村人くん視点。

 ワクワクしすぎて若干、寝不足気味の少年は朝の散歩から戻り、昨日と同じくお昼用におにぎりを握る。

 今回の中身は八百屋のおばさんから貰った梅干しだ。昨日と同じく二つのおにぎりを大きな葉っぱで包んでお弁当を完成させる。


 少年はそれを腰につけているポーチにしまい、意気揚々と昨日通った穴に潜って約束の場所へと急いだ。


「ハッハッハッ、おぉーい!オオカミちゃ〜ん!お待たせ!」


「村人くん…本当に来たんだ…」


「ハァハァ、当たり前だろ?だって友達の約束は守らなきゃね」


 息を整え、腕で額の汗を拭った少年は大きな大木に身を預けていた少女に何をして遊ぶかを問う。


「遊び…うーんと、追いかけっこはどう?わたしを捕まえられたら村人くんの勝ち。逆に村人くんが諦めたらわたしの勝ち」


「追いかけっこ…?良いけど、僕は足が速いよ。だってずっと散歩をしていて足が鍛えられているからね。村の中じゃ、逃げ足だけは速いと言われている程さ!」


「それ…多分、バカにされているだけだと思うんだけど…」


「いいや、ただの負け惜しみの言葉だよ。実際、彼等は僕に追いつけないし、きっとオオカミちゃんも僕に勝てないと思うよ?」


「亜人相手にそこまで言えるなんて対した自信だね。……いいよ、本気で走るから」


「それは楽しみだ!負けないぞ!」


 少年と少女はお互い少し離れた所で立ち止まる。少女の合図を少年が今か今かと待ち侘びていた。


「じゃあ、行くよ。よーい、どん!」


「……ッ!」


 少女の合図に少年は走り出す。目の前の少女はまだ動かない。少年の指先が触れそうになった時、初めて少女は動き出した。


「あ…」


「ふふっ、遅い遅い。こっちだよ〜!」


 単純な直線で腕を伸ばして来た少年を掻い潜り、少女は反対方向に足を動かした。

 鮮やかな身のこなしに呆然としていた少年だったが、気を取り直して少女を必死に追う。


 背中に目があるのか、またも手が届く前に少女は身を翻して少年の頭上を飛び越えていく。


「えぇ…嘘でしょ」


「ホント。ねぇ、降参する…?」


「俄然、やる気が湧いて来た所さ!相手にとって不足なしってやつ」


「……あっははは!亜人相手にやる気ってもう…変わってるわ、貴方」


「伊達に変わり者って言われてないから、ねっ!」


 お腹を抱えてケタケタと笑う少女に少年は手を伸ばす。しかし、軽やかに避ける少女は楽しそうに、嬉しそうに少年の周りを駆けていく。


 同い年ぐらいの女の子に負ける訳にはいかないんだと意地を張って追うのを諦めない少年に少女はエールを送った。


 ◆


「ゼェ…ハァ…、この僕を…相手にここ、まで…逃げきるとは…ね」


 だはぁーと地面に倒れ伏す少年は見るからに疲労困憊である。身体中からは大粒の汗が流れていた。


(…花のいい匂いがする。少しぐらい休憩しても文句は言われないでしょ)


 追いかけっこを始めてまだ30分。力尽きて倒れている様子の少年に少女は苦笑していく。

 少年もそれに気付きながらも特に言う事なく、倒れたままになっていた。


「お疲れ様。村人くんって全然体力ないのね」


「………お腹が空いて力が出ないだけだよ」


「えぇ〜、本当かな〜?スンスン、村人くんから良い匂いがする…」


 鼻をヒクヒクとさせて少年の周りを嗅ぐ少女を見て彼は思い出した。


「そうだ、お昼ご飯食べるの忘れていたよ。……ほら、昨日と同じおむすび。オオカミちゃんも一緒に食べようよ」


「やったー!ありがとう、村人くん!」


「……………ふっ」


 ポーチから取り出したのは、あの酸っぱい梅干しが入ったおにぎりだった。

 尻尾がバタバタと左右に揺れ、満面の笑みで受け取る少女は昨日の肉巻きおにぎりの味を覚えているから嬉しいのだろう。


 だが、違う。今回は肉巻きではない!


 ……酸っぱいのだ。そう、酸っぱくて村の子供達には煙たがれている食べ物。


 ーーーそれが梅干しであった。


 これから訪れる惨劇など少女は知らない。さっきの仕返しとはいかないが、効果は絶大。少年はその時が来るまで、じっと待つ。全ては己の愉悦の為に…。


「あーむっ!……っ、すっぱぃ!?」


「くくくっ、うん、美味しいね」


 米を齧り、中に入っていた梅干しに触れたのだろう。

 初めて経験する酸っぱさに少女は口を尖らせて顔を顰めた。反対に少年は食べ慣れている為、この酸味が良いんだよねと食べ続けている。


「はい、お水。これを飲むと良いよ」


 少年は竹で出来た水筒を持参しており、まだ口を尖らせている少女に手渡す。

 水筒を受け取った少女はゴクゴクと喉を鳴らして口の中に残る酸味を洗い流した。


「………美味しいけど、酸っぱいね」


「これも意外と美味しいだろ?村の子供達はなかなか分かってくれないんだよ。この酸味が良いのにさ」


「わたしは昨日のお肉の方が美味しいと思う」


「あれは肉屋のおじさんが特別にくれたんだ。たまにお肉が余ると腐らせてはいけないからって僕にくれるんだ。また貰ったら作って来るから一緒に食べよう」


「……っ!約束、だよ?」


「また約束が増えちゃったね、ははっ!いいよ、約束だ」


 なんて事ない子供の約束。だが、きっとそれはお互いにとってとても大切な物となるだろう。


 人と亜人。人種や能力の違い。恐れる者と恐れられる存在。


 この根深く刻まれた壁はきっと分厚い。彼らはまだ子供である。そんな事は関係なく、遊びたいお年頃だが、成長すればきっと分かる日が来る。


 力なき者と力を持て余す者の違いに翻弄されるだろう。


 人はその非力さから臆病に。亜人はその強さから横暴に。


 少年と少女がこれから先、どのようになっていくのか…それはまだ誰も知らない。

 村人くん

やり返せた時、少しだけ愉悦を感じた…。


 オオカミちゃん

村人くんから良い匂い…じゅるり。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


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モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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