第1話 純粋少年とオオカミちゃん
少し連載が行き詰まったので息抜きに書きました。
ヤンデレはゆっくりと過程を楽しむのが至高だと考えておりまする。
ここは人と亜人が住む大陸。
人は数こそ多いが、力は弱い。
亜人は少数だが、生まれながらにして様々な能力を持ち合わせており、人が逆立ちしても勝てない上位種だ。
故に人は集団で行動し、日々亜人に怯えながら生活している。彼らのご機嫌次第で明日がどうなるか分からないからだ。
そんな大陸の、それも地図にも載っていない程の小さな村に生まれた少年がいた。
少年は年相応で、何でも好奇心が溢れてしまう元気な子供であった。
趣味は村の中で散歩して、気になった物を観察する事である。
その日も、小さな村で腕を振り回しながら趣味の散歩に勤しんでいた。
「おはよーございまーす!」
「おっ、おはようさん。今日も元気いっぱいでいいね!おじさんにもその元気分けて欲しいくらいだよ」
「あげないよ〜!今日も一日お散歩するんだ〜」
「お散歩は良いが…何度も言うけど、子供だけで村の外は絶対にでちゃダメだぞ?こわ〜い亜人が出て来て食べられちゃうからな」
「それもう何度も聞いてるよ…」
「そうそう、分かってれば良いんだ。お前なんて奴らからしたらご馳走だ。出会ってすぐ一口で丸呑みにされちゃうぞ。この村の掟だからしっかり守るように!」
「はーい、じゃあもう僕行くね?」
「はいよ。子供は元気に遊んでおいで」
少年は顔見知りの中年の男性と別れる。
そのままルンルン気分で散策していき、お日様が丁度真上に来る頃、一旦家に帰る事にした様だ。
少年の家は村の外れの方に位置している。
少年の親はこの村に生まれたばかりの頃に亡くなってしまった為、村長と周りにいる大人が助けながら生活していた。
お昼ご飯に炊いた白い米を三角に握り、昨日お肉屋さんで分けて貰った豚の肉を焼いた物を海苔の代わりに巻き付ける。
肉巻きおにぎりを二つほど作り、少年は午後の散歩へと家から飛び出した。
「あれ?こんな所に穴なんてあったっけ…?」
ふと、視界に入った自分の家の裏手にある柵の方へ駆け寄ってみると地面に子供1人ぐらいなら通れそうな穴を見つけた。
この村は太い丸太を使って柵として周囲を覆っている。誰かがイタズラで掘ったとしても丸太の先端が見えるまで掘るなんて考えられなかった。
どうしてこんな所に穴など空いているのか?不思議だとばかりに少年は頭を傾げた。
「………まっ、いいか!」
考えを放棄する。いつ空いていたのなんかも分からなければ、どうしようとも思わない。
それどころか、この穴を通った先は村の外なのではないかとワクワクしてしまった。
気になり出したら止まらない。
村の外へ探検してみたいという願望はあるものの、村の門にはいつも大人が在中している為、大人の目を盗んで潜り抜けるなんて至難の業だ。それどころかきっと猛烈に怒られるだろう。
(…なんだろう。僕の目の前には穴の空いた地面が見える…これってどこまで繋がっているんだろう)
少しだけ、少しだけ潜って何もなかったらすぐ帰ってくれば良い。どうせ見つからないし、僕はこの先が気になって仕方ない!
好奇心が少年の心を満たし、行動を促す。小さな身体をその穴へズボッと入れると、四つん這いで進んでいく。
「よし、とうちゃーく!……うわぁ、此処が村の外…凄い。こんなに大きな木がいっぱいあるなんて!何この虫…!村の中じゃ見た事ないんだけど!)
興奮が冷めない。初めて見る景色と生き物に少年は大興奮である。服が土だらけになってしまった為、軽く叩いて土を払うと辺りを散策し始めた。
森の中で拾った木の棒を振り回しながら歩いていた少年は小さな湖とその周辺に一軒の家を見つけた。
「あっ、家がある。しかも一軒しか無いなんて変なの」
村が近くにあるのにどうしてこんな所に住んでいるのか気になる…。
その家の煙突から煙が上がっているという事は中に人がいるのだろう。
一度気になったら最後まで調べる。少年は迷わずその家の扉を叩いた。
ーーーコン、コン。
すみません、誰かいますかー。
「うーん、反応なし。やっぱり人なんて住んでいないのかな?」
いや、でも煙突から煙出てるし、居るのは分かっているけど出て来ない。
出て来ないなら仕方ない。足を翻して別の場所へ行こうとした時、後ろで扉がギィッと開く音がした。
「…………だれですか?」
「なんだ、やっぱり人いるじゃん」
「えっ!?……人が何で…」
出て来たのは少年よりも身長が低い女の子であった。だが、人と違うのは獣の耳と尻尾が生えている。
ーーー所謂、亜人と呼ばれ、人に恐れられている存在…人の上位種だった。
「こんにちはっ!僕はこの辺の村に住んでいる村人さ!君は…?」
「ぇ……、わたしはこの辺に住んでいるオオカミ、です。……あなたはわたしが怖くないの?」
「何でさ!全然怖くないよ!」
「でも、ほら。人と違って耳と尻尾あるし…わたし、亜人だよ…?」
「関係ないね、こうして話が出来るんだから君は悪い奴じゃないだろ?僕は知っているんだ。亜人っていうのは僕がご馳走に見えるらしいから出会ってすぐ丸呑みにしちゃうんだって……でも、君は違うだろ?」
見た所、僕より小柄だし、口も僕と変わらない。小さな口で可愛らしい女の子だ。
「丸呑みって…そんな事しないよ!」
「だろ?それにそんなふさふさな耳と尻尾があるなんて僕からしたら羨ましいね。だってお昼寝する時、尻尾を抱き枕代わりにしたら気持ちよさそうだし、そんな可愛い耳があるなら村の人気者にすぐなれるよ!」
「可愛い…初めて人から言われた。大抵の人はわたしたちを見たら逃げるのに…」
「そうなんだ…?僕は村の中じゃ、変わり者って言われているし、同い年の子供なんて僕に意地悪しかしないから…みんなとは少し違うのかも?」
村の中じゃ、親のいない僕はいじめっ子達からしたら標的でしかなく、いつも散歩していると絡まれて大変なんだ。
気に掛けてくれるのなんて村長のおじさんみたいな優しい大人ぐらいしかいないし、僕は普通の人と少し違うのかもしれない。
「……ふーん。でも人は弱いって言うし、今はおかあさんが狩りに出ているからいいけど、帰って来たら怖い事になっちゃうかも。だから村人くんも帰った方がいいよ」
「でもなー、せっかく会えたんだし、もうちょっと君とお喋りしてみたいんだよね…。そうだ!これ食べる?僕が作った自信作、肉巻きおにぎり!」
少年が取り出したのは拳ほどの大きさである二つのおにぎり。草の葉に包まれたそれからは焼けた肉の匂いが漂ってくる。
肉の良い匂いに釣られて鼻をヒクヒクとさせる彼女を見て少年は笑いながら二つのうち、一つを少女の手に乗せる。
「ほら一緒に食べようよ。さっき作ったばかりだからまだ温かいし、美味しいよ」
「ありがとう……じゃあ、いただきます」
「頂きます!」
家の玄関の前で食べるおにぎりは少年の好きな味付けで、ちょっと甘い。
だが、幼い身体には合っていたのか、パクパクと少女は喉を動かして瞬く間に食べ終えてしまった。
「…………美味しかった」
「でしょ?これからまた遊びに来るけどその時は一緒に遊ぼうね」
「……うん、いいよ。でも、此処だとおかあさんに怒られちゃうから……ねぇ、こっち。ついてきて!」
少女の先導で森の中を掻き分けながら進んでいく。森の出口が見えてた所、視界が開くとそこには花がたくさん咲いている丘が見えた。
その丘を見て少年は驚嘆する。
「うわ〜、凄い!こんな綺麗な所、初めて見た。花がこんなに咲いているなんて素敵な所だね」
「ふふっ、わたしのお気に入りの場所なの。お花の良い匂いもするし、お昼寝するにも最高の場所。だから、誰にも言わないで、秘密にしてね?」
「……だね。君の大切な場所は誰にも言わないよ。僕だってお昼寝したいし、此処で遊んでみたくなって来た」
「…私の事も秘密にしてね。じゃないと村人くんと遊んであげないから」
「分かった…大人にも言わない。これは2人だけの秘密にしよう!…ぇえーと、オオカミちゃん!」
村の中でずっと住んでいた少年にとって初めての光景。それに可愛い耳と尻尾が生えた女の子が友達になったのだ。
村の中で変わり者と言われている少年にも独り占めしたい感情はある。故に誰にも言わないし、言えない。
村の外に出たとバレれば、村長から大目玉を喰らうのは考えなくても分かっていたからだ。
「じゃあ、今日は村へ帰る事にするよ。また明日ね、オオカミちゃん!」
「うん、わたしもお友達が欲しかったから嬉しい。またね、村人くん!」
2人はまた明日会おうと約束してそれぞれの帰路に着く。
潜って来た穴を通り抜けて家に着いた少年は取り敢えず、土や泥まみれの服を脱ぎ捨てて洗濯カゴの中へと放り込む。
常備してある小さな枝をかまどへ入れ、マッチを擦って火をつける。身体を洗い、温かくなったお湯に身体を使って汚れと疲れを取る事にした。
「ふぅ〜、今日はいい日だったな〜!初めて亜人に会ったけど、可愛い子だったし、全然怖くなかったや。また明日、オオカミちゃんに会えるといいな〜」
少年はお風呂の中で目を瞑って今日の事を振り返る。
意地悪ばかりする子供達とは違う大人しそうな女の子。これから先、きっと楽しい思い出が出来るだろう。
少年はワクワクと明日へ思いを馳せていた。
村人くん
村の中で生活する少年。
趣味は散歩。
オオカミちゃん
湖の近くにある小さな小屋で母親と二人暮らししている。母親から聞かされていた人の特徴とは違ってびっくりした。
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