48 姉「第一王子に妹は渡さないっ!」
リタは王族相手に手を腰に当て仁王立ちする。
「弱い男にはやれませんからっ! 殿下、勝負しましょう!」
「わかった。受けて立つ」
二人が準備を始めるとサナはヴィエナの腕を引いて壁際で見学を決め込むことにした。
「え? え? サナねぇさん、何が始まるんです?」
「あなたの取り合い」
「はい?」
「ラオルド殿下があなたを本気で欲しがっているからリタが反対してるのよ」
「だって演技だし」
「今はピンクちゃんじゃなくヴィエナじゃないの」
サナはヴィエナの茶色の短い髪を愛おしむように撫でた。
中棟での鍛錬にはピンクのカツラも外し化粧も落として騎士団の鍛錬服を着ている。ラオルド殿下の鍛錬の相手役の第三師団第二部隊隊員である。
「ここではヴィエナなのよ。ラオルド殿下はヴィエナにどうしてくれているか考えてみて」
鍛錬のあとはこの武道場の二階席で二人でお茶をしたりおしゃべりをしたりしている。本来の仕事護衛であったとしてもありえないことだがヴィエナはラオルドがピンクさんへしていることだと思っていた。
それらが全てヴィエナへ対してのことだと思うと頬に熱が集まるのを感じた。
「あらあら。あなたも無自覚だったわけ?」
「…………はい」
「リタぁ!! 気合入れなさぁい!」
「りょぉかぁい!!」
「ええ!!」
サナの声に笑みを深めたリタと驚愕するヴィエナ、そしてラオルドは木剣を持つ手を強めた。
「サナねぇさんは私の気持ちをわかっていて味方になってくれるんじゃないんですか?」
「もちろん味方よ。だから殿下がお強くなることを邪魔しないんじゃない」
「えーー!! 殿下がお怪我をなさらなければいいけど」
心配そうに手を組んでラオルドとリタの戦況を見守る。
数分間のバトルでラオルドの剣が落とされた。
顔を青くするのはヴィエナでありそれを見たリタは小さく嘆息した。
「ちぇっ!」
『私の心配はしないのねっ! こいつのどこが……』
膝を床に付き肩で息するラオルドを上から見ているリタも息は上がっている。
『まあ、王族なのに傲慢じゃないし剣技もまあまあだしエーティル様も認める優しい方らしいし……』
リタは基本的に男を認めたくないという思考であるが目をウルウルさせてこちらを見ている妹は義理であるが大変にカワイイと思っていて幸せになってほしいと願っている。
「はあ!!!」
リタの大きなため息にラオルドが顔を上げた。
「今日から週三回厳しく鍛錬させていただきます。日程はムーガ様に伝えますから」
「よろしく頼む」
ラオルドはリタの提案を即決で受け入れた。ムーガはその追加鍛錬もエーティルの指示であると考えていて、まさかリタが妹を守りたくて起こした行動だとはわからなかった。
リタにはその日に交際許可は得られなかったもののラオルドの気持ちはヴィエナに伝わってしまったわけだが、その後はラオルド&ピンクさんの時の演技にリアリティーが増していたのでリタの武道指導は尚更力が入っていった。
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「リタが殿下の指導をするってラオルド殿下のお気持ちを知った姉としてだったのですか?
あいつっ!
ラオルド殿下。リタの無礼をお赦しください」
ムーガは胸に手を当てて騎士の礼をして頭を下げた。
「何を言うのだ。俺にとってはとてもありがたい申し出だったぞ。確実に強くなれたと思う。
それに早々にヴィーに俺の思いが伝わったしな」
ヴィエナが頬を染めた。
「とにかく、のんびりしていると野宿になってしまう。俺はそれでもいいがヴィーは宿に泊まらせてやりたい」
「私も野宿で平気よ」
「長旅の中ではそういう日も出てくる。今から出れば間に合うのだから宿をとろう」
「うん!」
ヴィエナのあまりの素直さにムーガの心に小さな風が吹いた。
サナ&リタが書けて嬉しいです!
二人を応援よろしくお願い致します。
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