34 新公爵「あいつらは金髪だっ!」
エーティルとムーガに打ち明けるラオルドがスッと立ち上がり自身の執務机の引き出しから紫色の小瓶を取り出してきてエーティルの前に置いた。
それを手に取りしっかりと見ようとしたエーティルをムーガが手で制止する。
「万が一がございますのでエーティル様はお触れにならないでください」
ムーガはポケットから取り出したハンカチにその小瓶を包むと廊下へ行き部下に鑑定に行かせて戻ってきた。
「過保護だわ。ラオルド殿下がお触れになっても大丈夫なのだからいいのではなくて?」
「女性にのみ作用する媚薬もございますから。それにしても王太子妃様になられるお方へ媚薬を盛れと言うって正気ですか?」
鑑定はまだなので媚薬とは確定していないがラオルドから聞いたノンバルダの発言を考慮するとそういう結論になる。
ムーガの皮肉を込めた笑みにラオルドはゆっくりと左右に首を振る。
「ノンバルダ本人は正気のつもりのようだ」
「はあ。バリバリの自己肯定ですね。公爵子息だからですかねぇ?」
「…………いや……肯定ではない……ノンバルダの劣等感だ……」
意外な答えにエーティルとムーガは驚いていた。
悲哀を見せるラオルドは再び説明を始めた。
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ラオルドに媚薬を渡したノンバルダは今日か今日かとラオルドとエーティルの卑猥な噂を待ちわびていたがそのようなものが流れてくる気配もなく苛立ってラオルドの執務室に押しかけた。慣れてきた側近たちはラオルドに目配せして一礼してから早急に立ち去る。
「ラオルド! いつまでそうしているつもりだっ!」
「いいから座ってくれ。落ち着いて話もできない」
『ドカリッ!』
ノンバルダは殿下であるラオルドより先に腰掛けた。ラオルドはため息を一つ零していつもの席に座る。
「で? そう、とは何のことだ?」
「エーティル嬢が第二王子のものになるのを指を咥えて待つつもりなのかと聞いているっ!」
「ノンバルダ。いい加減にしろ。
お前は王家に忠誠を誓う公爵家の当主なのではないのか?」
興奮しているノンバルダにゆっくりとした口調でラオルドは返していく。
「そうだっ! だが、私が忠誠を誓いたいのはラオルドだ」
「俺と弟たちに差はないのだぞ。誰もが王家の者だ」
「あいつらは金髪だっ!」
「……………………は?」
ラオルドは思わず顎を突き出して聞き直した。
「あいつらはあいつらはあいつらは! 国王陛下と同じ金髪だ!」
「………………確かに弟たちは三人とも金髪だ。国王陛下だけでなく側妃様も金色のお髪をなさっておいでだから当然かもしれないな。そして俺は銀色だ。だがこれは王妃陛下からいただいたものだ。皆にも美しいと言われているし私も気に入っている」
自身の三つ編みにしている銀の後ろ髪を前に持ってきてそれをもて遊びながら見つめる瞳は母を想う幼さが垣間見えた。その手を離してノンバルダに向き直す。
「だが、それがどうしたというのだ?」
「王家の証である金髪を持たないお前こそが国王になるべきなのだ」
「ノンバルダ。金の髪は王家の証ではない」
「証でないなら象徴だ」
「それも違う」
「……私は私は……公爵家の色ではないから父上から疎まれていた。銀糸を持つ弟に全てを奪われるところだった。だから私は……」
虚ろな瞳で宙を見て呟くノンバルダの声はラオルドには聞き取れなかった。
「ノンバルダ? 大丈夫か?」
ラオルドがソファの反対側に座るノンバルダの顔を覗き込む。
「私は王家の色ではないお前を国王にして国王の血縁者となり公爵家を更に大きくするのだ」
『バン!』
ノンバルダはおもむろに立ち上がりテーブルを両手で叩いてラオルドを睨みつけた。
「父を! 越えるのだっ!」
ノンバルダは今日もまたラオルドの返事を待たずに退室していった。
「殿下? 大丈夫ですか?」
側近が紅茶のグラスをトレーに乗せて入室しラオルドの前に置く。
「すまないが今日は解散だ。少々考えを纏めたい」
「かしこまりました。メイドたちにもしばらくは入室しないように伝えておきます」
「ああ。そうしてくれ」
ラオルドは側近が持ってきた冷たいタオルを目に乗せて頭をソファに預けた。




