33 新公爵「公爵令嬢をものにしろ」
「ノンバルダの言っている意味がわからない」
ラオルドは本当にわからないのではなくそうでない意味であってほしいと思い請うように眉尻を下げるがノンバルダがそれを慮ることはなかった。
「十六なら婚姻に早すぎるという年ではない。エーティル嬢さえ手中にしておけば王太子就任が遅れても確約はあるということになる」
「手中にってっ!」
「遅かれ早かれそうなるのだからいいではないか。それともエーティル嬢との間に子をもうけぬつもりか? だとしても手を出しておかないのは体裁が悪いぞ。やっておけば子ができぬことを相手の責任にもできるしな」
ラオルドはあまりの話の展開に呆然とするしかなかったのだがその表情を見たノンバルダはラオルドが納得したと思った。
「心配するな。ラオルドは私に任せておけばいい。
来月、我が家で交流パーティーを行う。そこで準備をしておく。万が一、エーティル嬢が抵抗しても目撃者が沢山いることになるからどちらにしても大丈夫だ」
ノンバルダはラオルドの返事を待たずに立ち上がった。
「来週招待状を送る。出席の返事はいらないぞ。日時だけしっかりと確認しておいてくれ。くれぐれも第二王子を誘ったりするなよ」
ノンバルダは満足気に笑み颯爽と退室していった。ラオルドは扉が閉まると頭を抱えて蹲った。
一ヶ月後の公爵家のパーティーにはラオルドは体調不良で急遽欠席の手紙を送り赴かなかった。
「ラオルド! なぜパーティーに来なかったのだっ!」
ノンバルダはパーティーから二週間後に許された面会時にいきなり捲し立てた。ラオルドは手で側近たちを下がらせたが敢えて茶は出さない。
「熱を出したんだよ。だからこの二週間面会願いも受理しなかっただろう」
「来るだけでよかったのだっ! 事をせずともよい万全な準備をしておいたのにっ!」
「ノンバルダ。落ち着け。外に聞こえ漏れるぞ。誰かに聞かれたら国家簒奪と思われてしまうかもしれないのだ」
「王太子にラオルドを推すことが国家簒奪になるわけがないっ!」
そういいながらも声を落とすノンバルダはチラリと扉に目線を向け警戒していた。
「俺を推すことが国王陛下のご意思に反するかもしれないじゃないか。何度も言うが、貴族家が一王子に加担することを国王陛下は望まれていない」
「何を悠長なことを! 今日も第二王子とエーティル嬢は茶会をしているそうじゃないかっ!」
「だから、キリアに敬称を付けろ。誰に聞かれるかわからないと言っている。俺に対しては血縁の従兄弟だから許しているのだ。
それに、エーティル嬢は昨日は俺と茶をした。彼女は感情で動いたりしていない」
「つまりエーティル嬢の感情は第二王子で! ん! か! にあるのだな!?」
「そうは言ってないっ! 万が一そうであっても関係ないのだっ! それが彼女の責任であり矜持であるのだっ! 王太子妃になられる方に不敬だぞっ!」
声を潜めながらも強い口調の二人は睨み合ったがラオルドが先に折れた。
「何も決まっていないのに何を慌てているのだ。俺は努力していくし弟たちも努力している。王家が一丸となって国の発展を導いていくつもりだ」
「その中心にラオルドがなるべきだと言っているだけだ」
ノンバルダは立ち上がると胸奥のポケットから小瓶を取り出してテーブルに置いた。
「次回のエーティル嬢との茶会にはこれを使え。間違っても公開庭園で茶会などするなよ。この部屋で茶会をするべきだろうな。人払いも忘れるなよ」
「どういう意味だ」
「エーティル嬢の矜持とやらを守ってやれと言っているのだ」
「何?!」
「王太子妃になられる方として乱れた姿をラオルド以外に見られることは避けたいだろうからな」
皮肉を込めて歪めたノンバルダはくるりと背を向けて出て行った。
ラオルドはその小瓶を側近やメイドに見られないように急いで机の一番下の引き出し奥に隠した。
それは自分のためでもエーティルのためでもなく、ただ従兄弟ノンバルダのために。
だが、その気持ちがノンバルダに伝わることはなかった。




