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31 第一王子「家族を守りたい……」

「ラオルド殿下。早速ですが、何か悩み事がございますの?」


 エーティルの問いにラオルドは逞しい肩を動揺して大きく揺らす。


「な、何もないっ! そういう話なら今日のところは失礼するっ!」


「そうはいかないんですよ」


 いつの間にかラオルドの背後に回っていたムーガがラオルドを抑える。


「今日は話していただけるまで解放いたしませんわ」


 最初こそ抵抗していたラオルドであったが一度口を開けば堰を切ったように話をした。嗚咽を漏らしながら、涙を流しながら、側妃を含めた家族への愛を語りながら。


 それは更に遡りラオルドの王位継承権放棄の二年前であった。


〰️ 〰️ 〰️


 さる公爵家を後継した新公爵が国王陛下に継承の挨拶に来た帰りにラオルドの執務室を訪ねた。ラオルドはすでに多くの執務を任されていた。


「第一王子殿下。ご無沙汰しております」


 高位貴族特有さを全面に出す衣装を着た中肉中背の肩まで伸ばした薄い茶色の髪に濃い青紫の瞳の男は入室すると臣下らしく頭を下げる。


「頭を上げてくれ」


「益々ご清祥のご様子。大変喜ばしく」


 頭を上げると公爵家らしい優美な顔をほころばせ目を細めて喜びを伝える。


「ノンバルダ。我々は従兄弟同士ではないか。昔のようにラオルドでよいぞ」


 ノンバルダが後継した公爵家は王妃陛下の出身家であり前公爵は王妃陛下の弟であった。


「いやいや、そうはまいりませんよ」


 ノンバルダはラオルドの中棟にあるラオルドの執務室に入室を許されている側近をチラリと見てラオルドに意思を伝える。

 余談ではあるがドリテンとソナハスはここで執務をすることは許されていない。


『さすがに公爵になれば他人の前では馴れ馴れしくはできないか』


 ラオルドはノンバルダに一つ頷く。


「久しいな。ゆっくりと話でもしよう。そうだ! ノンバルダの世襲祝いをしよう!」


 ラオルドは庭園や温室など明るく華々しい場所での茶席会談を持ちかけたがノンバルダが遠慮するのでこの場に設ける指示を出した。側近たちは下がりメイドたちが豪華な菓子やらケーキやら軽食やらとお茶を用意する。

 二人は世間話を穏やかにしながら待った。


「お待たせいたしました」


 二人の前に紅茶のカップが置かれた。


「皆も下がってくれ」


「かしこまりました。ドアの外におりますので何なりとお声掛けくださいませ」


「わかった」


 護衛とメイドも部屋から出た。ベルの音は聞こえても普通の声量の会話は聞こえない距離である。


「酒というわけにはいかなくてすまぬな」


「ラオルドはまだ飲酒はできないだろう。成人した暁には飲み明かそう。もうすぐじゃないか」


 この国では十八歳で飲酒が許される。ラオルドは十七歳、ノンバルダは三つ上の二十歳である。


 穏やかに話をしていた二人だがラオルドはふと思い出して顔を暗くした。


「叔父上のことは残念であったな」


「その節は家臣の葬儀にまでご参列いただきありがとうございました」


 ノンバルダは当主としての返礼であるので丁寧に返す。


「親類なのだ。当然だ」


「お忍びとはいえ王妃陛下にまでご参列いただけて父も喜んでいたと思います」


「弟を亡くした母上も大変な嘆き様であった。その時には聞けなかったが叔父上は病んでいたのか?」


「いや、突然倒れてな。医者の見立てでは数日で目を覚ますと言われたがその日の夜に息を引き取った」


「原因はわかったのか?」


 ノンバルダは首を左右に振った。


「そうか。だがお前のような後継者がいるのだから天国で安心しておられるだろうな」


「そうかな……」


 ノンバルダは自分の脇の髪を一房取って目を細めてそれを見た。

 憂いが籠もる表情にラオルドは視線を外すためにカップを手にする。

 

「私のことはいい。それよりラオルドはそろそろ王太子就任だろう?

来月の誕生パーティーで発表するのか?」


 一転して明るく振る舞うノンバルダにラオルドは心中でホッとした。

祝日のお楽しみに読んでいただけましたら嬉しいです。!



完結まで突っ走りますのでよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラオルド王子が家族思いで実は優秀だったこと。 まだどんでん返しがあるかも知れないですが、家族に対する愛情はとても深かったんですね。 少し前のお話ですが、ピンクさんがカスタードプリンを食べ…
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