25 公爵子息「姉様に会いにいこうっと!」
ベンはブランジッドの言葉で二人のこれからの扱い程度を把握した。
「二度声掛けして起きなかったら坊っちゃんの仰る通りにする」
「「ふぁい……」」
肩を落とす二人を睨むベンは明日からの二人を起こすシフトを頭に描き、短気で二度の声掛けをしないやつらもいそうだと悩んだがそれも僅かな時間であった。
『水かけられたりビンタをもらったりしたくなけりゃ自己責任で起きりゃいいんだ。自分で起きないなら何があっても問題にはならねぇな。
なぁんだ。簡単な話だったぜ』
ベンが二人を改めて見てニヤリと笑うので二人は危険を察知して互いに抱き合う。
ブランジッドは情けない姿のドリテンとソナハスに盛大にため息が溢らした。
「はあ!! ベン。この人たちが十周走れるようになったら剣を教えてあげて剣で僕に勝てるようになったら報告してね」
「それはこいつらを見習いとして二十年預かるということですか?」
「………………やだな。それ」
ブランジッドが渋顔で唇を尖らせた。
「うーん。姉様のお願いだから叶えてあげたいしぃ。
そうだ! その辺は姉様とご相談しながら決めていくことにしよう!
後よろしくぅ」
二人はブランジッドがスキップで屋敷へ戻っていく背中を悲哀の瞳で見つめていたが襟首をベンに掴まれて演習場を走り出さざるを得なくなった。
「ふふふ。これを口実に姉様に会いにいけるなぁ。そのためにも一週間に一度くらいはやつらの相手になってやろうっと!
とりあえず今日の報告に行かなくちゃ」
極度のシスコンであるブランジッドはエーティルの部屋へ急いだ。
その後武術に目覚めなかったドリテンとソナハスは公爵家にいる数名の執事の中で最下部として公爵家に仕え続けることになるのは本人たちが自分自身の力を客観的に見ることができるようになった表れであろう。高位貴族の次男三男であるが能力がないと判断された者としては良い待遇の仕事であるので実力はないなりにも一生懸命にやるようになったことはラオルドの側近であった時より成長していると言える。
そしてウェルシェは北方にあるまるで監獄のような修道院へ送られることになった。
当主たちの推薦人役解雇以外に公爵家侯爵家にはお咎めはなしであったが醜聞は貴族たちに行き渡り二家の当主夫妻は早々に王城勤務を自主退職し長男へ爵位を譲り領地へ逃げ帰った。父親たちの姿を反面教師とするかは新当主たちの今後を見ていくしかない。
第一王子ラオルドは騎士団にも総務局にも所属せず、小さな小さな男爵領と男爵位を譲り受け、王都には入らないと約束した。
王妃陛下はラオルドのことに責任を感じ、ラオルドに継承権を放棄させ王家を除籍させた。
今後、ラオルドが婚姻するのかはわからないが、王家の慣わしとして王太子妃または王太子妃の決めた側妃が産んだ子供でないと継承権は持てないので問題は起きない。
ラオルドは城を辞する前日にキリアの部屋を訪れた。
「俺はどうしてもお前に勝てる気がしなくてな……。側妃様には可愛がっていただいたと感じているが、お前の側にいることは辛かったよ。そんなお前なら立派な王になれると思う」
「兄上。ご健勝でいてください」
キリアが深々と頭を下げると、ラオルドはヒラヒラと手を振って部屋をあとにした。
ラオルドが城から辞する時、一番泣いていたのはキリアたちの母親である側妃だった。忙しい王妃陛下に代わりラオルドを我が子同様に育てたのだ。
ラオルドは側妃の手を取りお礼を述べてから馬車へ乗り込んだ。側妃は崩れ落ちて手で顔を覆っていて第三王子メルキトが側妃に寄り添いラオルドに目を向けるとラオルドは頼んだと首肯する。
「大兄上っ!」
第四王子が馬車へと縋る。
「キリアとメルキトを見習い逞しくなれ」
「あいっ!」
涙を袖で拭きながら何度も頷く姿はメイドたちの涙を誘う。
キリアは一段上に凛と立ち胸に手を当てて敬意を表していた。
国王陛下と王妃陛下が城門に現れることはなかった。
これでエンドではありません。私としてはここまでは前フリだと考えております。是非この後もお付き合いいただけますと嬉しいです!
次回よりアフター物語&伏線回収です。
皆様の予想はどうでしょうか?
どん!でん!でん!と行けたらいいな!
これからをお楽しみいただけましたら嬉しいです。




